期待を炎に変えて
理想論だとか、偽善者だとか言われたこともあったけど、自分は昔から、誰かが笑ってくれることをするのが好きだった。だから必然と、人前に立つようなことをするのが多かった。
「零士、そろそろ後夜祭始まるって。中庭、人で埋まっちゃうよ」
「おう、すぐ行く!」
友達を追って、教室から中庭へと足を急がせる。全校生徒が皆、中庭へと集まり、校内は嵐の後の静けさのように不思議な空気が漂っていた。色とりどりの装飾に、祭りの痕跡、それらが西日に優しく照らされている。この景色は今日この瞬間だけで、もう二度と見ることはできまい。ひとつの芸術作品のようだった。
「さあ、陽高生のみなさん! いよいよ今年の文化祭もフィナーレです!」
中庭の真ん中で、今年の実行委員の先輩たちがマイクを握り、MCを進行する。盛り上がりも最高潮だ。
「おお、やっと来た、零士。見えるか?」
零士は人と人の間から、今回のメインステージを目にしようとする。零士は幸い、身長が高い方だったので、後ろからでも背伸びをすれば、少しだけだが見ることができた。
「それでは、最後に、今回の文化祭実行委員長、風間から言葉をもらいたいと思います」
拍手喝采の中、実行委員長の三年生が壇上へ上がった。先輩は、ステージを囲うように埋め尽くされた陽高生の顔を見回し、笑顔を浮かべた。
「ええ、皆さん。二日間、本当にお疲れ様でした......」
それから、先輩はジョークを交えながら、締めくくりの言葉を並べていった。その一つ一つを、陽高生たちの耳は確かに受け取っている。そして、最後のところで、先輩は言葉を詰まらせた。
「えっと......」
下を向き、顔を見せないようにする。そんな先輩の姿を見て、周りは口々に称える言葉を投げかける。その声に呼応するように、先輩はもう一度顔を上げる。その顔は、涙で溢れ、そしてやはり、輝かしい笑顔であった。
「......最高の、文化祭になりました!」
その瞬間、パーンと音が轟き、イベント完遂を祝う金銀のテープが宙を舞った。二階の窓からは風船が飛んで行く。零士にとって初めての高校の文化祭、まだこの高校に来て一年目で、愛も情もこれからなのに、涙が浮かんできた。
――俺も、こんな景色を、瞬間を作りたい。
ふと心に宿った希望。これまでで一番の感動を作るため、燃え始めるものがあった。きっと困難も、面倒なこともたくさんあるだろうけれど、それすらも容易く乗り越えられそうな、強い光だった。
つま先を二度、地面につついて、家の鍵を閉める。朝の雀の声が、今日も聞こえた。
「零士君、おはよう」
近所のおばあさんが朝の散歩の途中に声をかけてくる。零士はいつもこれを返してから学校に行くのが日課だった。
「虎治郎、楓馬、おはよー」
「お、零士おはよ」
そして零士は、地元が同じ虎治郎、楓馬と最寄り駅で合流する。
「そういや、零士と虎治郎一緒のクラスだったな」
「そうなんだよ。結局三年間一緒だったな」
「楓馬は三組?」
「まあ理系だからね。前半クラスだから階も違うな」
そうこう話しているうちに、電車は高校の最寄りの陽川駅に到着した。
「今日は始業式と、なにすんだ」
「えー、いつもと同じなら委員会とかも決めるんじゃね」
「虎治郎と楓馬は何か入るの?」
「んー、あんまりモチベないけどなぁ。空いてたら入ろうかな」
「俺も―、人足りなそうなら。零士は、今年も?」
「うん、今年が大一番だからね」
「いやー、でも零士もよくやるよね。期待してるわ」
「そうだね。零士ならやってくれるっしょ」
この頃は、その類の言葉も心地よく感じてた。期待が燃料となって、ますます心を滾らせる。
学校に着き、二階の踊り場で、楓馬と別れた。そして零士は、虎治郎と新しいクラスの九組に向かう。二週間の春休みを経て再会した友人たちに、校内の空気は浮ついていた。
数十分して始まった朝のホームルームでは、担任の紹介から始まった。最後の担任は、鈴木。古典の先生。それから、副担任で新任の香坂という女性教師が来た。鈴木の得体は知れているが、香坂という教師は、最初の挨拶ではあまり人柄を掴めなかった。ただ、純粋で真っ直ぐそうな人だなというのが第一印象だった。
「じゃあ、次。委員会決め。そしたら最初に......学級委員から」
学級委員は、案の定というと言い方が悪いかもしれないが、隼人が就任した。
「じゃあ次......保健委員。お、女子は仁村。男子はいないかー?」
「じゃあ、俺やりまーす」
長丁場になるかと思ったが、虎治郎が手を挙げたことで、滞らずに委員会決めが進んだ。そして最後、
「そしたら最後に、文化祭実行委員やりたい人―」
隼人が言ってすぐ、待ってましたと言わんばかりに、零士は手を挙げた。周りも、納得の選出。晴れて、零士は三年目も、文化祭実行委員に就任が決まった。




