第49話 整体院のいちにち⑤
いやー、タイジュさん面白かったなー。これだけでもう、何か楽しい感じ。
鼻歌を歌いながら、施術室の椅子に座ってのんびりしていると。
チリーン。
ドアの鈴が鳴った。外から、大きな影が身を縮めて入ってくる。
そのサイズ感から、はじめは「まさか、メーメー君!?脱走!?」とか思ったりもしたけど、普通に人間でした。お客さん、失礼しました。
そうだ、お出迎えしなきゃ。いつもサクラちゃんに任せてたから鈍ってるわ。
「いらっしゃい。」
「『コユキ整体院』というのは、こちらでいいんですかい?」
「ええ。私、院長のコユキと申します。」
「ほう、ほう、そうですかいの。わしはオーガと申しますじゃ。いやー、先ほど、アサという我が同胞がここに行って、パーティーに帰ってきましてだ。大変良いという話を聞きましての。」
嘘だ。
この人の目は、嘘を言っている目だ。
とはいえ、今は接客中。やんわりと対応する。
「そうなんですか、気に入っていただけて嬉しいです。」
そしてこの人、イベントの結果発表の時も思ったけど、やっぱ、別ゲームで「勝負だ!」っつって挑んできて、返り討ちにした人だね。この、なんだか老けたようなしゃべり方も、筋骨隆々のでかい体躯も一緒。
「それにしても、貫禄のあるお体ですねー。武道かなにか、やってらっしゃる?」
「いやー、昔はちょいと、柔道その他もろもろで、ならしたもんですがのう。」
「その他もろもろ」が何なのかは……聞かない方が無難だ。うん。
「それに、お話しされてる感じも、なんだか武道を極めた老師って感じですねー。」
「ろ、老師……。」
オーガさんは、なんだかえらい傷ついたような調子で、施術台に手を突いた。
「わし、これでも28なのに……花盛りの20代なのに……。」
「ああ、いえ、そういう風なかっこよさがあるってことですよ!強そうで、いいと思いますよ!」
確かに、言われてきたろうなあ。前も今も、普通に30半ばに見えるもん。しかし、申し訳ないことをしちゃったな。
そうして、整体しながら話してみると……この人、なんだかんだ、結構楽しく話せる人だな。
出会い方が、別ゲームでの「勝負だ!」だからアレだったけど、普通に知り合ってたら仲良くなれてたかも。
「ありがとうごぜーやしたー!」
「またお越しくださーい。」
ちなみに、会話中にさりげなく、ライバルと思っている人を聞いてみたら、何人か上がった中にアオバ、というか私の名前もあったよ。やっぱり、相当響いたんだろうな。体格ではるかに劣る小娘に負けたってことが。ちなみに他は、確かランキング一位のセルリアスさんとか、ジョーさんとか。
そしてまた、静かな時が流れる。
リーン。
次に入ってきたのは……。
「あら、いらっしゃ……い……。」
ここに来るはずのない人だった。
「あんた、前身代わり人形を買った人で合ってますかい?」
裏道横丁で、私がダミーコユキ用の泥人形を購入した店の店主は、黒い頭巾ですっぽり覆った頭を、私に真っすぐ向けて聞いた。
「ええ、そうです。」
「気を付けてくだせぇ……使いすぎると、人形に心が一部移って、独立した行動を取ってしまいます……。そうなってしまうと、檻に入れておいても、抜け出すようになります……。インベントリで厳重に保管するか、使うのを控えるか、どちらかお願いします……。」
「わかりました。」
私がそう答えると、人形屋の店主は、一礼してスーッと消えていった。
あれはもしかして、イベント期間中に使いすぎたからかな?使用はほどほどにしないとな……。
リーン。
「いんちょーう、ただいま帰りましたー!」
えらい軽やかな武器にチェンジしたサクラちゃんが、ルンルンした足取りで帰ってきた。
「あら、おかえり。どんなの、買ったの?」
「アサさんが武器屋のおじさんと相談して、軽いけれどうまく使えばダメージにつながるものっていうことで、こういうフルーレ剣になりました!」
サクラちゃんは、抜き身にしたフェンシングで使うような剣を、すいっと突いて見せた。
「これは出来合いですけど、特注のも作ってくれるらしいです!」
「そうなの、よかったわね。」
はしゃぐサクラちゃんを微笑ましく見つつも、頭からはさっきの人形屋の店主の言葉が離れなかった。




