第50話 今村青葉の体育祭
アオバの現実世界での話です。バトルの話じゃないからと言って読み飛ばすことのないよう、切にお願い申し上げまする。
全校生徒の前で、ラジオ体操の手本を演じる体育委員。ぶっちゃけ公開処刑な感じがしないでもないけど、みんな運動神経いいし、間違えて顔を真っ赤にするっていう事態には、いまだに遭遇したことがない。
今日はウチの高校の体育祭。商品のトロフィー(というよりも、景品のお菓子)をめぐり、同学年の生徒たちが熾烈な戦いを繰り広げるイベント。
最初の種目は棒倒し。いい年した高校生が、取っ組み合いのつかみ合い。お互いの力が拮抗していて、棒はゆらゆら揺れるだけで、どちらかに傾いたりはしない。
「みんな頑張れー!」
「いけいけ、押せ押せー!」
そして、普段は大人しいのに、こういう時になるといきなり絶叫する人が続出する。
「がんばってー。」
私、あんまりそういうの、ガラじゃないんで、控えめに応援することにします……。
と、そこで、棒の根元で膠着していた集団の中から、人影が一つ、飛びあがった。
「うぉー!」
「ユズのダンクが来たぞー!」
「きゃー、譲君、カッコいー!」
「やっちまえー、落合!」
「す、すごい……!」
思わず、感嘆の声を上げてしまうほどのファインプレーを見せたのは、バスケ部員の落合譲。実は同じ中学出身なんだ。普段は穏やかにニコニコしているけれどバスケはすっごく強くって、まだ1年生なのに先輩を差し置いてレギュラーをもぎ取るほどの実力者。余談だけど、髪型は、あの「ビーチ」のボスの銀髪イケメン、セルリアスさんにそっくり。彼は、ジャンプを決めた後も棒の先端までよじ登って、引きずり降ろされまいとしている。
「やれやれー!」
「今だー!」
チャンスに乗じた味方が奮起し、たちまち敵の棒が倒される。守りは、ドスコイこと小出十五朗が、柔道部1年エースの意地を見せて踏ん張っている。
ピピーッ。
「1年棒倒し、勝者1年2組!」
「やったー!」
「さっすがユズー!」
っと、喜んでる暇はない。次の障害物競走、私も出るんだった。さっきの棒倒しでリードは取ったとはいえ、まだまだ油断大敵。
「次は障害物競走……根来さんの網くぐりと新条君の飴食いは問題なさそうね。小出君、さっきあんなに頑張った後だけど、パン食い大丈夫?」
「おう!あんなん、労働のうちに入らねえよ!」
「それから、三輪車の落合君も。」
「平気平気、まだまだいけるよ。」
「2人とも頼もしいわ。後は、今村さんと酒井さんの二人三脚だけど……。」
体育委員でもないのに選手に確認を取っていた学級委員長は、そこで少し意地悪な目を、私の隣に向けた。
「せいぜい、今村さんに迷惑かけないようにね。」
「は、はい……。」
酒井実里は、おどおどと下を向いた。
「どうしよう、足手まといになっちゃったらホントにごめんね……。」
「ううん、実里のことは、足手まといだなんて思わないよ。」
「本当に?ただ、小学生の頃からずっと知り合いで、ほっとけないからとかじゃ、なくって?」
「そんなこと言わないで。実里は私の友達だし、ほっとくほっとかないの問題じゃなくって、一緒に競技、やりたいの。」
実里、悪い子じゃないんだけれど、どうしても思考がマイナスに陥りがちなんだよね……。気が弱いもんだから、委員長みたいな、気の強い子には目を付けられちゃうし。
「とにかく、頑張ろうよ。ほら、もう、招集かかってるよ。」
そうして始まった障害物競走。小出君ことドスコイ、じゃなかったドスコイこと小出君が圧巻のワンヒットでパンを咥えてお腹に収め、最高のスタートを切って網くぐりにバトンタッチ。根来ちゃんも小柄だし、次の種目も楽勝……と思いきや!
「あ、おい!」
「今のはないだろー!」
その左足を、3組のキツネ顔が、後ろから引っ張った!当然、2組からはブーイングの嵐。審判からもストップが入り、キツネ顔に厳重注意と20秒のペナルティーを与える。ここで1組の選手がターボをかけ、根来ちゃんを抜き去った!
私と実里は、1組から2秒ほど遅れてバトンタッチを受けた。
「青葉ちゃん、巻き返そう!」
実里がやる気になってくれたのはいいけれど……。
「急ぐと転びやすくなるよ。転ばない限り、抜かされることはないから、確実に行こう。せーの、1、2、1、2……。」
逸ると勇み足を踏みやすくなる実里を落ち着ける。転んだりなんてしたら、委員長にまた、ネチネチ言われるだろうし……。
そして、差をほとんど変えずに、三輪車の譲にバトンタッチ。
「あとは任せて。」
そう言って、三輪車にまたがる。
一気呵成、幼児用三輪車のペダルを、ぶち壊さんばかりに踏み込みまくった!おお、その勢いときたら!180センチもある男子が、ちっこい三輪車に乗ってるって見た目を脇に置けば、かっこいい!
どんどん、3組の男子の背中に追いつく、そして追い越す!
「うわーぉ!」
「ユズ、本日二度目のファインプレー!」
1位をマークしたまま、アンカーの新条君が走り出す。新条君、顔が真っ白の化け物みたいになるのもいとわず果敢に小麦粉に顔を突っ込み、飴玉をひとつ加えだし、そのままゴール!
「勝者、1組!」
「実里、やったじゃん!総合優勝だよ!」
「うん、すっごい嬉しい……!」
実里の表情も明るいみたいだし、総合優勝もできたし、最っ高!




