第48話 整体院のいちにち④
「どもーっす。」
アサさんの施術が終わり、彼が立ち去って行ったあと、入ってきたのはなかなかに男前の若い人。
「あら、こんにちは。お手数ですが、お名前を教えていただけますか?さっき、ピンクの髪の子にもお話したばかりとは思うのですが……。」
「ああ、いいっすよ。そういや、あのピンク、ここから出てきた上半身素っ裸の野郎に引っ張ってかれてましたね。」
「ええ、私も見てました。」
あのピンクって、呼び方よ……。ま、いいや。にしてもアサさん、施術が終わった後、ホントにサクラちゃんを連行するとは思わなかったなぁ。サクラちゃんに期待を抱いていたという話に嘘は感じなかったから、めったなことはないと思うんだけれど、あんまり遅いようだったら、探しに行かないと。
「んで、申し遅れました、俺はタイジュです。」
「タイジュさん……。」
別に彼の趣向を否定するつもりはないけど、この人が見た目通りの若さだったとしたら、ちょっとこのネーミング、渋すぎないかい?
そんなことを心の中で思っていると、タイジュさんは私の考えたことをくみ取ったかのように答えた。
「ああ、前は『ゼルネアス』って名前で活動してたんす。でも、なんか、事あるごとに『セルリアス』って人と間違えられるんで……。いや、俺、セルリアスって人が誰だかわかんなかったんで、初めて『あ、セルリアスさん!あなたがあの!』って声かけられたとき、まーあリアクションに困って……。」
それで、名前を変更したわけか。
「今は、セルリアスさんって、どなたかご存じ?」
「ええ、同じパーティーの奴が、『ランキング一位のチョーすげえ人』って教えてくれました。実は俺、その同じパーティーの奴に勧められて、このゲーム始めたんすよ……って何女と話し込んでんだ俺は!」
ノリ突っ込みどころか、ノリノリにノッた後の突っ込み。それに、内容!この人こそ、色々と突っ込みどころのある人だわ……。
「……あ、すいません、今の忘れてください。いやー、なるほどな、海里がここ、行け行け言うわけだ。」
「海里……さん?」
現実世界で関係ある人なんだろうけど、本名で言われても……あー!
「もしかして、イリーさんのお兄さん!?」
「あ、はい。妹がいつも、世話ンなってます。」
照れくさそうに頭を掻くタイジュさん。おー、これはイジリ甲斐がありそうな人だー!
と、接客中の仕事人にあるまじき邪心が芽生えた私は、しばし彼の突っ込みどころに突っ込みまくることにした。
「この黒くてぴったりしたのは、スパイ装束か何かですか?」
「ああ、はい。これがやっぱ、動きやすいんで。全身黒って、かっこよくないですか?」
「……ズボン、バリバリ緑ですけど……。」
「うわっ、やべ、忘れてた!あ、いや、これは、彼女の持ち物のオマージュでっ!」
うむ、やはり面白い。
「えーと、社会の窓、空いてますよ……?」
「うおっ、やっちまった!い、今閉めますんで!」
おお、面白すぎる。
「あと、さっきの『何女と話し込んでんだ』って言うのは……。」
「まずいっ、聞かれてた!えっと、実は、俺、昔、めっちゃ女嫌いだったんすよ。今はもう、そんなに気にならないんすけどねー、やっぱちょっと苦手というか……。」
「女性が嫌いなのに、彼女さんいらっしゃるんですねー。」
ああ、これはもはや、イジリ甲斐の塊ではないか。
「ぐうっ……と、とにかく、整体っすよ整体!とりま全身、お願いします!」
そう言って、イリーさんによく似た仕草でボンと施術台に身を投げ出すタイジュさん。ちょ、これ、笑わせにかかってるとかじゃないだろうね?
「そんなに女性、苦手だったんですか?」
「そりゃーもう。一言もしゃべりたくねぇ!って感じでしたね。それで、妹にはずいぶん苦労かけました。我ながら、ひどい兄だったと思います。」
「そうなんですね……。」
「だから今、そのツケというか負い目があって、妹とそれから彼女には、なかなか頭が上がらないというか、なんかいいようにあしらわれているような……。」
「ええっ、それ、タイジュさん大丈夫なんですか?」
「いや、元をただせば俺が悪いんで、いいんです。」
タイジュさんは、ははっと笑った。
「へぇ……。」
これでいいのか……タイジュさん……。
アルファポリス様にて、本作のイラスト集投稿しました!
https://www.alphapolis.co.jp/novel/382716741/982353511
どうぞ、ご覧あれ!
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