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第46話 整体院のいちにち②

なんだかんだ言うて掃除も終了し、猫ちゃんの受け入れ準備も整え、白衣の襟をピシッとするという身支度を済ませると、もう12時。

「じゃ、開けてくるわねー。」

「はい!」

出入口に歩いていき、ドアの表にかかっている札を「OPEN」に裏返す。ついでに目の前の道を少し見渡す。あー、今日もいますか、身元不明の中年おっさん。暇さえあれば整体院の前に居座って、ホントこれのせいで来れないお客さんもいるわよねきっと。一応それでも仕事になるくらいにはお客さん来てるし、商売的には問題ないからいいんだけど。それに、バルトさんが言うには「彼一人に怖気づいてここを避ける程度の人間には、ここで安息を得る資格がない」んだって。こういうことをバッサリ言えるストイックさ、かっこいいなぁ。

と、そんなことを思案しつつドアを閉めようとしていると、

「ひぁうっ!」

珍妙な悲鳴が聞こえた。声の主は……例のおっさん。普段あんなだみ声なくせに、ここだけミ〇キーボイスにならんでおくれ。そして、恐怖にかられたおっさんの視線をたどった先に、均整のとれた上半身をさらけ出した青年が立っていた。

隆起した筋肉が、さえぎるものなくあらわになっている上半身もそうだけれど、ぴっちりした黒いボトムスに覆われた足も、無駄なものが一切ないことが見て取れる。右目が前髪で隠された、やや憂(うれ)いのある顔立ちも美しい。ここはゲーム内だから、容姿なんていくらでも作りこめるということがわかっていても、思わず見とれてしまう。

そして、その流麗な全身を包むオーラ。彼の肢体のようにシャープで、引き込まれるような存在感がある。間違いない、この人……。

「オレの元身内が、ずいぶんとご迷惑をおかけしているようですね。」

この間のイベントで、1位を取った銀髪イケメンの左にいた人だ。

「いえいえ、とんでもない。営業妨害をしてきたことは、ほとんどありませんし。」

「ほとんど?ということは、一度はあるということですか?」

「ええ、まあ、一度だけ、ですけれど……。」

「ふむ……。ダス、お前、いよいよもってどういうつもりだ?」

耳に心地よいハスキーボイスが少し低くなり、細められた黒い目がぎろりとおっさん、もといダスさんの方を向く。

「ひ、いや、これは、この付近にアオバがいたから……!」

「だからと言って、ここに固執することもなかろう。お前、整体院の方への迷惑を、考えたことはあったのか?」

あー、やっぱこのおっさん、有名人を利用することしか考えてないな。ったく、人は利用価値しかないような物じゃないのに。

「そっ、それは……。」

「整体院のスタッフさん、申し訳ございません。この者は以前、あまりに使えないものでうちのリーダーがパーティーから追放したのですが、野放しにした結果がこの体たらくなので、こちらにも責任があります。1分ほど、待っていていただけますか。」

「ええ、はい……。」

「では、失礼します。」

半裸の美青年は、ダスさんの首根っこを片手でひっつかむと、地面を蹴ってあっという間に路地裏へ姿を消した。速い。オーラにたがわず、相当な実力者だ。

「……失礼しました。」

1分とは言ったけれど、実際は30秒ほどで、ボコボコにされたダスさんを片手で引っ提げた半裸青年が戻ってきた。彼が手を離すと、ダスさんはボトッと地面に落ち、はいずりながらどこかへ退散した。ずっとここの前をウロチョロされて、迷惑だなーとは思わないでもなかったけど、あそこまでやられちゃうと、ちょっぴりかわいそうになる。

「これで当分、そちらに害なすことはないと思います。それで、あのようなものがいたおかげで言いそびれていましたが、オレは今日、この整体院を利用しに来ました。施術をお願いできますか。」

「ええ、もちろん。」

私はにっこり笑ってドアを開け、強者の覇気を持つこの青年を中へ迎え入れた。

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