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第45話 整体院のいちにち①

イベントのあれこれも落ち着いて、ゲームの世界に日常が戻りつつある土曜日。さあ、今日も、元気に「コユキ整体院」を切り盛りするよ!


「今日もいちにち、頑張るぞー!えい、えい、」

「院長、おはようございます!」

「おー……。」

「……ひょっとして、私、今来ない方がよかったですか?」

「うん、そうだね、今はさすがにちょっとまずかったかな……。」

「……さ、気を取り直して、行きましょう!」

「ええ、そうね……。」

サクラちゃんのこういうとこ救われるわ。


気持ちを切り替えて開院準備。まずは掃除。もともと、ゲーム内では、ダンジョン等の演出以外でほこりが舞ったり積もったりすることはないけれど、それでも、ほうきで床を掃いたり、雑巾で窓を磨いたりすると、やっぱり気持ちがいいからね。ゲーム内のお店で掃除道具も売っているから、そう感じる人も多いんだろう。

私とサクラちゃんで、院内を隅々まで掃除する。お客様に見えないところまで、しっかりと。きれいにするためのものではないけれど、気持ちにけじめをつけるためにも、ここで妥協しないようにしている。そして……ここだけの話、掃除中にサクラちゃんと二人きりでゆっくり会話をするのも、楽しみにしているんだ。


「そういえばコユキ院長、」

「何?」

「院長って、今はこうして整体師さんやってるわけですけど、かつてはアオバとして『最強』の称号を欲しいままにしたんですよね?」

「そうね。」

「何で、そこまでの栄誉をもらっておきながら、次のゲームでの選択が、容姿も口調も変えての整体師なんですか?せっかくなんだから、こっちでもアオバの名前で活動して、名をあげればいいのに。」

「それは……。」


『ああ、あの子ね?すごいよねえ、あんなに大きな人が手も足も出ずに負けるなんて。』

『でも、外見がああだからと言って中身まで女子とは限らないよ?』

『案外ホントは、おっさんの廃人ゲーマーだったりして。』

『うっわ、きしょ。ないわー。』


サクラちゃんの問いかけで、一瞬、いろんな人の言葉が、頭の中を駆け巡った。

「それは……、まあ、そういうことよ。」

「そうですか。それから、ずっと気になってたんですけど……、」

聡いサクラちゃんは、そこですぐさま話題を変えた。

「どうしたの?」

「ここの名前、『コユキ整体院』って、さすがにひねりがなさすぎませんか?ぶっちゃけ、よそで、『ゲーム内の職業は?』『コユキ整体院ってとこで助手やってます!』なんて会話、できませんよ。」

「う~~~~~……。」

サクラちゃーん、話題のチェンジはうれしいけど、また痛いところを突いてきたなーぁ……。

「これが私の、精一杯だったわけよー……。」

「ほえー……じゃ、私が、名前、付け替えてもいいですか?」

「もちろん、センスのいい名前なら大歓迎よ。」

「少なくとも院長よりはいいですって!」

「ぐはっ。」

「じゃ、今度考えてきますね!」

「ええ、よろしくね……ごふっ、ごふっ。」

サクラの屈託のない一撃は、コユキに致命傷を与えた……。


「……あれ?」

そうして掃除を続けていると、サクラちゃんがふと声を上げた。

「……院長、ちょっと来てもらえませんか?」

「え?いいけど……。」

サクラちゃんに呼ばれ、彼女の掃除していた窓へ向かう。

すると、窓の外に、全身黒くてお腹だけ白の、金色の目をした猫ちゃんがいて、窓をサラサラとひっかいていた。

「あら、かわいい。癒されるわあ。」

「でも、なんだか様子が変じゃないですか?中に入りたがっているような感じもしますし。」

「言われてみれば、ゲームの動物がこういう動きをするのは珍しいわね……。」

このゲームの中には、犬や猫、鼠といった動物系のモブは存在するけれど、中立的なものは、たいてい単なるにぎやかしのような存在。現実のように、犬を使ってにおいをたどったり、馬に乗って移動したりはできるらしいけれど、あちらから積極的にかかわってくるということはなかった。それなのに、この猫は、しきりと窓を引っかいたり視線を送ってきたりと、こっちに行きたい、という意思を持って行動しているような気がする。

「……どうします?入れますか?」

「そうね、ゲームだから毛やアレルギーの心配はしなくていいし、何よりこの子のことがもっと知りたくなってきちゃった。」

「私もです!」

サクラちゃんはにっこり笑って答え、窓を思いっきり開けた。

「みゃーう!」

猫は、まるで「ありがとう!」と言っているかのような、うれしそうな鳴き声を上げ、軽やかに部屋に入ってくると、私の胸にぴょんと飛び込んだ。

「え、何で私じゃなくって!?窓開けたの、私なのに!」

「ふふふ、やっぱり()()の豊かさの違いかしら?」

「むーっ、ホントはヒンヌーのくせに!」


何とでも言え、今は猫も飛びつくほどの巨乳なのだから。

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