魔の森とメル
「それで、お前は何故こんな魔物がいる森に居る?」
泣き止んだ少女に握り飯を食べさせた後、ナグリュスをもう一度その事を聞いた。
「あ、その、偶々街道で盗賊に襲われて、主が亡くなってしまったので、先程言った通り死のうと思い、すぐ近くにあったここ、魔の森に入って来たんです」
「ふむ、主が死ぬと奴隷はどうなる?」
これは奴隷の制度を聞いた時から疑問に思った事だ。
これで解放されるのなら良いのだがそう上手くは行かないと、ナグリュスは直感的に分かっていた。
「主が死ぬと奴隷は一時的に開放されますが、この首輪に魔力を流されると、その人物が新たな主になります」
「そうか。ではその首輪は破壊した方が良いな」
ナグリュスは首輪がなければ、そもそもこの娘は奴隷から解放され、自由になれるだろうと考えた。
「え!?い、いえ、それは駄目です」
「む、何故だ?」
「····私の様な呪い子は、奴隷としてしか生きられないからです」
「呪い子は奴隷としてしか生きられないだと?」
どう言う意味だ?奴隷から解放されれば、普通に生きて行けるのではないのか?
「呪い子は例え奴隷から解放されても、居場所はありません。結局は働く事も出来ず、飢えて死ぬだけです」
「····そうか」
どうやら思った以上に今の呪い子の扱いが悪い様だ。
空気が少し重くなった。これは話を変えたほうが良いだろう。
「仕方ないな。ではお前はこれから俺の奴隷として行動しろ。酷い扱いはせぬから心配は要らぬ」
「わ、分かりました。では首輪に魔力を少量流して下さい。それで契約は完了です」
「うむ」
そしてナグリュスは言われた通りに首輪に魔力を少量流す。
すると、何かが繋がったのが分かった。
(これは契約魔法だな。あらかじめ契約内容を刷り込ませておいて、契約を簡単にしているのだろう)
「どうやら成功の様だな」
「はい。無能の私ですが、宜しくお願いします、ご主人様」
そして何故か成功した事に少女がホッとしていた。
普通、奴隷になったのだから、逆ではないだろうか?
「俺の名前はナグリュスだ。ご主人様は辞めてくれると有難い」
「も、申し訳ありません、ナグリュス様。それと私はメルと言います」
メルと名乗った少女は、そう言って深く頭を下げる。
少し大袈裟な気もするが、そうしなければならない程、奴隷の生活が厳しいのだろう。
「ではメル、ここから近い村や町は何処か分かるか?」
「はい、この魔の森は丁度他の国との国境になって居るので、グランドル王国やクロスフォード帝国なら、森を抜けるとすぐに行けます」
なる程、この森は魔物が多く広大だから国境には丁度良いか。
「ふむ、因みにメルは今まで何処で暮らしていたのだ?」
「えっと、私はグラン王国で住んでいました」
「分かった。ではクロスフォード帝国に行こう」
先程メルを助けた時、メルの体には沢山の痣や怪我があった。恐らく、殴られたり蹴られたりと色々な事をされたのだろう。そんな国にわざわざ行く意味はないだろう。
「分かりました」
「ではメル、帝国への道は分かるか?」
もしメルが帝国の道を知らなければ、自力で道を探すか一度当てずっぽうに進んで王国だった時は、王国から帝国に行くと言う面倒な事をしなければならなくなる。
「はい、私が来た道は覚えて居るので、その来た方向から反対に進めば帝国の領地に行く事が出来る筈です」
「そうか、それなら問題ないな」
「ですが食料がありません。このままでは帝国に着く前に飢えて死んでしまいます」
「食料なら問題ない。俺には魔法(で創り出せる)がある」
「なるほど、分かりました。道はこっちです」
「分かった」
どうやらメルは食料の問題は魔法で何とかなるという言葉を、魔法で収納していると解釈した様だが、面倒なので説明する必要はないと考える。
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「メル、帝国とはどのような国だ?」
「えっ?えっと、帝国は実力主義で力さえあれば、犯罪者でもない限りは誰でも成り上がれる国です。その為稀に戦争を起こしたりする事もありますが王国に並ぶ大国です」
「ふむ」
(実力主義か。面白い政策だが、国を回すなら実力だけでなく知恵も必要だろうが、大国と言う事はそこは上手くやっているのだろうな)
「あの、ナグリュス様?」
「む、何だ?」
我が1人で考え事をしていると、メルが話掛けて来た。
「差し出がましいかもしれませんが、ナグリュス様は先程この森が何処か聞いて来ましたが、ナグリュス様はどうしてこの森に居たのですか?この森は奥に行く程魔物が強くなっていて、上位の冒険者でも奥には進もうとしない事で有名な森です」
冒険者?などど言う良く分からない単語が出て来たが、メルの話を聞いて、ナグリュスが自分の事を何も話していない事に気が付いた。
「実は俺はこの森の奥に封印されて居たのだ」
「えっ!?封印ですか!?」
まあ、この驚きも納得だろう。いきなり自分は封印されていたなどど言われて、驚かない方がおかしい。
「ああ、その封印がお前を助ける少し前に年月劣化で解け、今に繋がる」
「年月劣化?魔法が年月で劣化するのですか?」
「ああ、短い時間では無理だが、遥かに長い時間が経てば劣化する」
「なる程、ではナグリュス様は長い間封印されて居たと言う事ですか?」
「うむ、俺が推測するに、恐らく一万年近く封印されていたと思っている」
「一万年!?」
(そこまで驚く事か?いや、悠久の時を生きる神に比べれば、短い時しか生きない人間に一万年は長いか。)
「ではナグリュス様が呪い子に優しいのは、何も知らないから何ですね」
するとメルが意味の分からない事を言って来た。
「何を言っている。呪い子は一万年前からあったぞ」
「えっ?」
これは驚く事か?我が呪い子を知っていた時点で、一万年前から呪い子があるのは、分かると思うのだがな。
「そもそも呪い子とは、神から伝わったものだからな」
「そうなのですか?」
そしてナグリュスは呪い子について語り始めた。
「呪い子とは、1人の神になった紋様を持った者が神界で暴れた事から始まり、その神の体に紋様があった事から、体に紋様を持って産まれてくる子供が忌み嫌われて、呪い子と言われる様になったのだ」
「そんな!?その1人の神のせいで呪い子が生まれたのですか!?」
「そうだ。だがもうその神はいない。今更恨んでも無駄だ」
今まで呪い子に苦しめられて来たメルには苦しい事だろう。
その証拠にメルは手を握り締めている。
「大丈夫だ。今のお前には俺が居る。お前が自分から離れようとしない限りは、俺はお前を見捨てはしない」
「っ!?···ありがとうございます。すいません、話をずらしてしまいました。では呪い子が神から伝わって知っているとして、どうして忌み嫌われたのですか?」
「む、すまない。少し食い違いがあった様だ。確かに呪い子は神から伝わったものだが、どうして呪い子が忌み嫌われたのかを知っている者は神だけだ。人はただ神に流されて忌み嫌っていたのが定着しただけで、何も知らぬ」
メルとナグリュスの間に少し食い違いがあった様なので、ナグリュスはそう訂正する。
(まぁ、我があの様な言い方をすれば、勘違いするのは当たり前か)
「そうだったんですか·····あれ?あの、神しか知らないと言っていましたけど、どうしてナグリュス様は知ってらっしゃるのですか?」
するとメルがふと疑問に思った事を聞いてきた。
「その事か、簡単だ俺が神の1人だからだ。俺が神なら知っていても不思議はあるまい」
「えっ!?ナグリュス様が···神?え、え?ええええええええ!?」
すると、ナグリュスの事を神だと知ったメルが、驚きで大声を出し始めた。
「そんなに驚く事か?神なら一万年経った今でも居るだろう。それに新たな神も生まれているだろう?」
そしてナグリュスはメルの驚きに、さも何かおかしな事でも言ったか?という感じに言葉を返す。
「そ、それはそうですが、神など奴隷の私には上のまた上の存在です!それに神は滅多に姿を見せる事はありません!奴隷ではなくとも驚かない方がおかしいです!」
「そ、そうか」
まさかここまで驚かれるとは思ってなかった。それに神が滅多に姿を見せない?一万年でそこまで変わったのか。昔は結構頻繁に地上に降りて居たのだが····。
(これは我が神だと言う事は隠していた方が良さそうだな)
「メル、俺が神である事は隠す事にする。いいな?」
「は、はい。分かりました」
これで我が神だとバレて、面倒を起こす事はないだろう。
この分だと、まだ一万年の間に変わった事がたくさんありそうだが、それは今は気にしなくても良いか。
そしてナグリュスとメルの2人は、帝国に向かって歩き出した。




