魔の森
「·····すいません!奴隷の分際で、こんなナグリュス様にご迷惑を!」
「気にするな。そもそも痩せ細って消耗しているメルに、森を歩かせた俺の責任だ」
「で、ですが、奴隷が主に背負われるなど·····」
帝国に向かって魔の森を進んでいたナグリュス達だが、元々消耗していたメルが力尽きてしまい、現在はナグリュスがメルを背負って森を進んでいた。
メルはナグリュスの背中で縮こまっているが、現在のメルに森を抜けるのは、流石に無理があった様だ。
「しかし、メルは少し軽過ぎるな。まずは肉を付けて、体力を付ける事に専念しろ。これは俺について来る上での最低条件だ。良いな」
「は、はい、分かりました!」
それに呪い子は魔法などに高い適正を持っている為、ナグリュスはメルが将来的に、足手まといになるなど考えていない。
それに幾ら歩きとは言え、神であるナグリュスに魔法の補助無しについて来るなど、無理なのは当たり前なので、ナグリュスは微塵も気にしてなかった。
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それから数分した時だった。
ナグリュスはこちらに近くづいてくる複数の魔物の気配を感じとり、メルを木の陰に下ろす。
「ナグリュス様?」
「魔物がこちらに向かって来ている。そこでじっとしていろ」
「わ、分かりました」
メルがそう返事をした事を確認した後、ナグリュスはこちらに向かってくる魔物を迎え討つ準備をする。
そしてそれから数分した頃、ナグリュス達からかなり離れた場所で、何十体もの狼が見えて来た。
「あ、あれはBランクのカイザーウルフです!カイザーウルフは群れで行動する魔物です。逃げた方が···」
「ふむ、また狼の魔物か。あの程度なら何体いようと変わらんな」
「え?」
そしてメルが気の抜けた声を挙げた瞬間、ナグリュスが起こした風の鎌鼬によって、前方にいた全てのカイザーウルフの首が飛ぶ。
(ふむ、倒すのは楽だが、こうも散らばれると時間が掛かりそうだな)
しかしそのナグリュスの考えは杞憂に終わった。
ナグリュス達の前方の首を撥ねられた仲間を見た狼達が、一斉に逃げ出したのだ。
「む、魔物が逃げるなど、珍しいな」
「も、もしかしたら先程ナグリュス様が倒した中に、群れの主が居たのではないでしょうか?それに仲間が一瞬でやたれた事が相まって逃げてしまったのではないかと」
「ふむ」
(強さ的には一万年前の方が強いが、その時の魔物には、知性を持つ者は少なかった筈だ。どうやら我が封印されていた間に、魔物も進化している様だな)
そう考えた後、ナグリュスは倒したカイザーウルフを収納し、再びメルを背負って森を歩き出した。
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「ところでメル、先程言っていたランクと言うのは何だ?」
そして暫くして、ナグリュスは先程メルが覚えのない言葉を言っていた事を思い出し、何なのか聞いてみる。
「えっと、ランクとは魔物の強さによって付けられる階級の様な物です。冒険者などの魔物を討伐したりする職の者は、これを目安にして自分が討伐する魔物を決めていたりします」
そしてナグリュスの疑問に対して丁寧に説明してくれる。
(なる程、神にとっては魔物の強さなど余り気にする事ではないが、人間のとっては確かに強さの目安は必要かもしれぬな)
「ふむ、では先程言っていた冒険者と言う職を詳しく頼む」
「はい、冒険者とは――――――――――」
その後、ナグリュスがメルから聞いた冒険者の事を簡単に纏めるとこんな感じだ。
冒険者とは、依頼を受けて雑用や魔物の討伐、採取などをする何でも屋の様な職業であること。そして冒険者にもランクがあり、魔物を討伐する依頼には、ランクによって受けられる依頼が決まっているらしい。
「ふむ、ではその冒険者なら金を稼ぐ事も出来るという事か?」
「はい。それと、冒険者に与えられるギルドカードは、その人物の身分証明にもなるので、冒険者に登録しておいて損はありません」
「なる程な。····では冒険者になる事でデメリットはあるのか?」
「デメリットは、まず危険な職業なので命の危険があること、他には町などに危機などがあった時に、緊急依頼という強制的に参加させられる依頼があります」
「その緊急依頼とやらに参加しなかった場合はどうなる?」
「その場合は冒険者の身分を剥奪されます」
「ふむ」
神であるナグリュスには、命の危険はあって無いような物なので、メルの話を聞いた限りでは、デメリットという程のものはなさそうだった。
そしてそれからも暫く森を進んで行くが、目に映る景色は森の木々や魔物ばかりで、面白みが全くない為、一先ず休憩をする事にした。
「メル、そろそろ腹が減ったであろう。これを食え」
そう言ってナグリュスはさも空間魔法で収納していた物を、出すかの様に食べ物や水を出して、メルに食べる様に指示を出す。
「は、はい、分かりました」
すると、メルはそれを恐る恐る食べ始めるが、何故か途中で食べる手が止まる。
「どうした?食欲がなくても、体力を回復させる為には食べた方が良いぞ?」
「いえ、その·····」
「なんだ?言いたい事があるなら言って良いぞ?」
「····その、ナグリュス様はお食べにならないのですか?」
するとメルがそんな事を言ってくる。
「ふっ、自分は痩せ細って消耗しておるのに、こちらの心配とはな。心配するな、別に食料が不足している訳ではない。神は余り食べる事を必要としないだけだ」
そもそも神に最も必要なのは自分を存在させる為のエネルギーだ。つまりそのエネルギーが不足してない限り、死ぬ事はないのだ。
そしてナグリュスにとっては、今まで奴隷として色々な目にあってきた筈のメルが、どうしてこうも優しく育ったのか理解出来なかった。
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それから数時間、ナグリュスは更にスピードを上げて、森を進んでいたのだが、森の終わりが全く見えない。
「これでも結構なスピードで進んでいたつもりだったのだが、この森は予想以上に深いな」
「王国と帝国は一応魔の森を挟んで、隣通しの国ですけど、実質は、この広大な森のせいで、相当離れているそうです」
するとメルがナグリュスがふと口に出した言葉に、反応してそう答えてくれる。
(ふむ、もう少しスピードを上げても良いが、これ以上のスピードだと、メルには厳しいかもしれぬな)
「メル、今日はここまでにしよう。背負っていたとはいえ、あのスピードでは消耗もするだろう」
「いえ、私はまだ大丈夫です!」
するとメルはそう言って来るが、迷惑を掛けない様に言った事だと、ナグリュスには直に分かった。
「メル、今のお前は弱っている。ここで無理をされて、体調を崩される方が困る。今日は休め」
「····分かりました」
メルにはこう言ったが、実際は時間に困っている訳ではない。寧ろ神であるナグリュスにとっては、時間は有り余っている。
そしてナグリュス達は森の横断を一度中断して、野営の準備を始めた。
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深夜、メルが寝入った後、ナグリュスはメルの周りに結界を張り、1人で森を歩く。
ナグリュスが夜に森を出歩く理由は1つ、魔物を狩るためだ。
何故魔物狩るのかというと、昼間メルに冒険者ギルドについて聞いた時、魔物の素材を売る事で金が貰えると聞いたのだ。
正直、物を自由に創り出せるナグリュスにとっては、金など要らないのだが、人間の世界で過ごすなら金は何かと必要になると考えたのだ。
それなら魔物が蔓延るこの森で、魔物の素材を集めた方が効率が良いと考えた。
そしてナグリュスは魔物の気配に従って森を進んで行った。
気配に従って森を進み、まず最初に出会ったのは、ナグリュスの軽く3倍はある巨大な熊だった。
「グアアアアアアァァ!!!」
(ふむ、これは人間が定めたランクでいうと、何処の辺りだろうか?)
そしてそう考えた時だった。
熊の魔物がその剛腕を振り下ろして来た。
「グア?」
しかし、その攻撃はナグリュスを傷つける事はなく、ナグリュスが瞬間的に創った、1本の剣に受け止められていた。
「腕を振り抜く動作が大き過ぎだな。知性があるならもう少し工夫をしたらどうだ?」
そしてナグリュスはそう言い、熊の魔物の首を斬り落とす。
(筋力も落ちた感じはないな。我を封じたあの封印は状態を停止させる類のものだったか)
そしてそんな事は考えながら、ナグリュスは更に魔物を探して森を進み始めた。
そしてナグリュスが次に出会った魔物は、十数mはあろうかという大蛇だった。
「シュアアアアア!」
すると蛇の口から漏れた唾液が地面に触れた瞬間、地面が溶け始めた。
(ふむ、如何にも酸やら毒やらをもってそうな、この蛇も売れるのか?いや、そもそも売れる部位があるのか?)
「···むぅ、分からぬ」
そしてナグリュスは、売る時になれば分かると考え、取り敢えず先程創った剣で大蛇の首を斬り落とす。
その後、斬り落とした大蛇の首が、突然こちらに飛び掛かって来た時は驚いたが、ナグリュスはそれも冷静に対処して、今度こそ完璧に大蛇に留めを刺した。
そしてナグリュスは朝になり、メルが起きる時間になるまで、魔物を狩り続けて行った。




