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陸上の渚 ~異星国家日本の外交~  作者: 龍乃光輝
フェーズ4 戦後処理偏

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第180話『陸上の渚』

 星は歌うように軌道を巡り、雲は雨雲と交差をしながら広大な空を絶え間なく漂い続けた

朝と夜が交わり、光と影が溶け合ううち、五十年という時は、あっけなく過ぎ去った。

 国土転移から五十年。転後五十年。


 エルテミア歴261年(西暦2073年)。

 半世紀と月日が流れ、異星国家として地球からフィリアに国土ごと転移した日本列島の様相は、大きく変貌を遂げていた。

 陸続きとなった接続地域だけでなく、日本領に割譲された日本の海と隣接するユーストルの陸地にも港町が作られ、夜の宇宙から見ると日本列島だけでなくその海周辺も明るい不夜城となっていたのだ。

 ユーストル側の岸壁は大きく削られる形で埠頭が建設され、輸送船が停泊できると同時にそのまま空に浮くことも出来る海空両用で運送が出来るようになった。

 直径四千キロになる巨大クレーターユーストルもまた、日本と数点しか灯っていなかった光が十以上の強い光を放つようになっていた。それら全てが浮遊都市で、各都市が各々の特性を生かした営みをしている。

 全ての始まりである、日本本州とユーストルが陸続きとなる接続地域、通称『陸上の渚』は十万人級の大型都市となり、その郊外には幅二キロにもなる堀が出来ていた。堀には海水が流れ、その両端は陸続きとなったことで分断された旧太平洋の北側と南側が繋がっている。

 そして堀の中心部には幅五十メートルのアーチ状の橋が架かり、二キロの橋によってユーストルと繋がっていた。その橋の下では、北側から南側に向けて緩やかにだが人工的な流れが出来て、北側の海水を南側に送っている。

 発展と人口の増加に伴い須田町は須田市となり、転後日本を象徴する街となった。

 さらにその象徴を確たるものとする、国家的イベントが明日執り行われる。


      *


「今、私たちがいますのは、明日行われる式典会場が一望できる――須田市上空です。ご覧ください。あちらに見えるのが、幾度もの実験を経て安全性が確認され、十分な物資と希望者を乗せて明日、地球へと転移する――艦隊です」

 転後生まれの男性レポーターが、須田市上空に滞空する大型飛行車の中から実況している。

 彼の眼前には、大小取り混ぜた十隻の船が、整然と空中に浮かんでいた。

 須田市の中心部を抜け、郊外に広がる農業地帯。その広大な耕作地の上空に、転移艦隊は滞空している。

「艦隊の中でも最大の大きさを誇るのが――恒星間転移派遣隊の旗艦、〈かが〉です」

 レポーターが指をさす先、艦隊の中央に位置する一隻。

 全長五百メートル。かつての「いずも」型に似た外形を持ちつつ、旧米空母のような斜め滑走路はない。艦体は滑らかな輪郭を描き、どこか未来的な様相を湛えていた。RFフィールドと呼ばれる自身を中心に気体フォロンフィールドを展開し、自身以外のレヴィロン機関を使うことが出来る装置を搭載している。これにて地球でも浮遊やコクーンを展開できる、まさに艦隊の中核だ。

 続いて紹介されたのは、日本独自の防衛システム〈アマテラス〉を搭載した〝あかぎ〟型護衛艦だ。

「あかぎ型護衛艦は〝かが〟を始め艦隊を守るために設計された純日本産護衛艦です。特徴的な五角形のアンテナはアマテラスシステムと呼ばれ、旧来のイージス艦を上回る性能を持ちます」


 五隻で構成され、全長二百メートルの艦体は、外見こそ半世紀前のイージス艦を思わせるが、表面には凹凸がほとんどない。艦橋の下部には五角形をしたフェーズドアレイレーダーが設置され、様々な最新鋭技術を備えている。

 その周囲を囲むように配置されたのが、資源と物資を大量に積み込んだ二隻の輸送艦、そして転移希望者を乗せた二隻の大型クルーズ船だった。

 いずれも海上でも運用可能であり、全艦にレヴィロン機関を搭載。静かに空に浮かぶ姿は、まるで巨大な彗星群のように見えた。

「国土転移から今年でちょうど五十年。ついに――悲願であった、地球への帰還転移が行われます」

 カメラは艦隊からレポーターへと向ける。

「帰還転移計画が正式に始動したのは今からちょうど十年前。JAXAと防衛省が中心となり、地球の観測に成功したのがきっかけでした。観測データは良好で、技術的な制約はあるものの、艦隊単位での転移は可能と判断されました。その後、日本政府は「帰還の意志」を示すため、各国に先触れとして映像と記録データを内包した記憶メディアを転移。異星日本がどのように歩んできたかを詳細に記録し、支援を仰いだのです――が」

 レポーターは一瞬、口調を落とした。

「帰還の意図は、残念ながら歪められました。転移した記憶メディアは一部の大手企業によってコンテンツとして編集され、ドラマや広告に転用。肝心の政府や国際機関には正式に届かず、我が国が異星から帰還しようとしているという重大情報は、「壮大なフィクション」の一つとして扱われてしまったのです。その結果、日本は地球における政治的な支援を得ることができず、自力での帰還転移を決断。国民投票の末、計画は続行され、五年前から志願制での訓練が始まりました」

 レポーターは艦隊に体を向ける。


「派遣艦隊の目的は、ゲート型ペオ・ランサバオン〝天翔門〟の設置です。 天翔門は、日本・イルリハラン・アルタランで共同管理されており、すでにフィリア各地に設置されています。これによって惑星の裏側であっても一瞬で移動が可能となり、物流に大きな変革を来たしました。今回はこれと同様の転移門を地球に設置し、安定した往来と地球との持続的なつながりを確保することが目的です。そのために、派遣艦隊は地球へと旅立つのです」

「しかし、地球側の理解も支援もない状況で艦隊が突然現れれば、所属不明の艦隊として混乱を招くおそれがあります。そのため政治的な柔軟対応が求められる派遣艦隊には、日本政府と同等の外交・交渉権限が与えられています。まずは無人で安全が確認されている転移地点〝ポイント・モネ〟に転移し、そこからアメリカへ向かう予定です」

「その後、各国との信頼と理解を得られれば、日本列島と入れ替わる形で地球に出現したユーストルへと向かい、天翔門の設置作業を開始します」


「ですが、地球のユーストルにはすでに複数の国による街が形成されており、順風満帆な旅路とはいかないかもしれません。しかし、日本が奇跡的にも転移した理由の先を見出すため、さらなる人類の発展のため、派遣艦隊は明日、地球へと旅経ちます」

 派遣艦隊の説明が終わると、レポーターは窓から覗ける艦隊から離れて大型車の内側へと歩き出した。

「明日に迫った派遣艦隊の転移を前に、今回は特別に、ある方々へのインタビューの許可をいただきました。今から五十年前、日本が国土転移した際に国家存続に尽力された、羽熊洋一さんとルィル・ビ・ティレナーさんです」

 カメラはレポーターから横にスライドし、二人の高齢者を映す。

「今回はインタビューにお答えいただきありがとうございます」

カメラが捉えるのは、地球・日本史上初の異星人とファーストコンタクトを果たした地球人・羽熊洋一と、リーアンのルィル・ビ・ティレナーだ。

二人とも齢八十を超えている。年相応の皺や肉体の老化が見え隠れするが、羽熊と比べるとルィルの肌にはやや張りがある。リーアンの平均寿命は地球人よりも四十年ほど長く、その分老化が遅いのだ。


「今年で転後から五十年――あの瞬間から半世紀が経ちました。この日を迎えて、率直に今、どのような思いを抱いていらっしゃいますか?」

レポーターの問いかけに、最初に口を開いたのは羽熊だった。

「そうですね。気づけば五十年、といったところでしょうか。とにかく落ち着く暇がなかった」

「そうね。目の前の問題が落ち着いたら、また次の問題。その繰り返し。何もなくて暇だった時期なんて、ほとんどなかったわ」


「国土転移。濃度政策。バーニアン問題。コクーン管理。エミエストロンの利用法。天翔門。〝かいりゅう〟の埋没。そしてRFフィールド……振り返れば常に何かしらの問題と向き合っていましたね」

「ええ。私はバーニアン問題以降は直接の関与はありませんが、当時の政府関係者は本当に大変だったと思います」

「ただ、国土転移からユーストル争奪戦までの問題に比べれば、その後の課題はどれも政治的利権に関するものが多くて、むしろ『楽』だったとも言えます」

「若井さんは、当時は大変だったと愚痴をこぼしていましたね」

「若井さんとは、若井元総理のことですね?」

 若井は、総理臨時代理、戦後復興大臣、そして正規の総理大臣を歴任し、輝かしい政治経歴を残した人物だ。現在は国会議員も引退して隠居生活を送っている。

「私たちと若井さんは旧知の間柄でして、現役時代から友人としてよく話をしていました。もちろん機密には触れていませんが、人としての愚痴はよく聞いていましたよ」


「ありがとうございます。では、続いての質問ですが……この五十年の間、いくつもの国家的危機がありました。お二人にとって、もっとも大変だった出来事は何だったでしょうか?」

「それはもう、国土転移直後ですね」

「おそらく、それを上回る問題はなかったと思うわ。ユーストル争奪戦も確かに大変だったけれど、やっぱり異星人との初邂逅が一番ね」

「お二人がそこまでおっしゃるなら、さぞかし大変だったのでしょう。もしよろしければ、もう少し詳しくお聞かせ願えますか?」

「転後生まれの人たちにとってリーアンはなじみ深い存在でしょうけれど、私たちの時代には異星人なんて、映画や小説の中の話だったんです。それなのに、何の前触れもなく異星に来てしまった……だから、どう対応すればいいのか、全く分からなかった」

「私たちも同じよ。あの日のことは今でも鮮明に覚えているわ。パトロール中に『日本』という未知の存在の情報が入ってきて、でもどんな姿かも分からないまま偵察に向かったの」

「私は言語学者として、原住民と接触した際は言語を解析して理解するよう指示されていました。正直、完全なゼロから言葉を理解するのは非常に困難です。でも、原住民の理解と協力がなければ、日本は干上がってしまう。もう、やるしかなかったんです。当時の日本には今のような余力はなくて、転移から一年未満で貿易を成立させる必要がありましたから」

「逆に私たちは、彼らが侵略者なのかどうかを見極めなければならなかった。あの時代でも、異星人といえば『侵略者』というイメージが強かったから」

「そうそう。それはこちらも同じで、初めて会ったときは銃を下ろしてと言いました。撃ったらすべてが終わると、直感でわかっていたんです」

「それで洋一が前に出てきて、手ぶり身ぶりでなんとか意思疎通を図ろうとしたのよね。そのあと、レーゲンが領空を侵犯してきて解散になったけど」


「羽熊さんの手記には、そのとき腕時計を交換したと書かれていますが、その腕時計は今どうされているんですか?」

「今も大事に持っています。受け取った当初は、技術水準の調査のため国防軍に預けられましたが、交流が進んだ後に返還されて、今は自宅で大切に保管しています」

「私も同じね。今でもちゃんと動いているわ」

 二人が交換したのは、どちらもアナログ式の腕時計だった。部品が摩耗しないかぎり動き続け、定期的にメンテナンスされていたため、五十年が経った今でも、友情の証として静かに時を刻み続けている。


「この五十年の中で、これだけは絶対に間違ってなかったと思える決断はありますか?」

「色々とあって絞るのが難しいですね。どれもが間違えると窮地に立たされることばかりですから」

「私はチャリオスに潜入していたときかしらね。とにかく裏切り者として最後まで徹してたから。いつ演技を止めようかと悩んだけど、最後まで守ったから欺くことが出来たわ」


「もしあのとき、ファーストコンタクトが失敗していたら、今の世界はどうなっていたと思いますか?」

「間違いなく日本は滅んでいたか、奴隷として地下資源採掘をしてバーニアンが世界を支配していたでしょうね」

「全てが正解の選択をしたから今があるけれど、やっぱり原点はそこね。そこで失敗してたら洋一が言ったようにバーニアンが世界を支配したわね」

 フィリア社会と日本が手を携えて発展出来たのは、五十年の中の全ての選択肢で正解または最適解を引き続けてきたからだ。そしてそのスタートとなるファーストコンタクトで、お互いを知りたいとする意志を共有出来たから進むことが出来た。

 そこを失敗すれば、おそらくすべての選択肢で不適解を選んで最悪の今を迎えていただろう。

 そして今を迎えることが出来たのは、日本が転移した国がイルリハランだったからだ。

 その他の国ならばこうした対等で協力的な関係にはならなかった。

 五十年を経たからこそ確信を持って言えた。

 隣国がイルリハランでよかった。


「羽熊さんにお聞きします。ゼロからマルターニ語を習得しなければならなかった当時、もっとも大変だったことはなんでしょうか」

「それはもう概念の理解が大変でした」

「概念、ですか?」

「簡単に言うと、『時計』はマルターニ語では『サッチ』で、『腕時計』は『マーレサッチ』です。それは腕時計を指さすとマーレサッチと呼びますが、でもそれは腕時計であって『時間』が知りたくても時計指すだけではサッチしか返ってきません。概念には分かりやすい指標がないので、そこが苦慮しましたね」

「なるほど。確かに形のない言葉を聞くのは難しいですね。ではどうやってそれらを理解したのですか?」

「とにかく単語を埋めていき、そのあとに助詞に当てはまる言葉を予測して実演し、間違ってたら直していき、当てはまらないのはこれかと埋めていきました。それは相手も同じで、あとはジェスチャーも組み合わせて理解していきました」

「まあ私たちも日本語を理解しようとしてたから出来たことね。片方が理解しようとしなければできなかったわ」

「こちらもすぐにルィルたちが理解しようとしてたのが分かったから助かったよ」

「それはお互い様。言葉が通じなかったら理解なんて出来ないもの」

「相当大変だったのですね」

「制限時間の半分近くは言語理解に費やしましたからね。けど言葉が分かってくるとスムーズにいきました。お互いがお互いを知ろうとしてるのですから」

「なるほど」

 なにせ大量の食糧や資源の輸入を求め、かつ主権も確立させようとしたのだ。生半可な理解ではできないから、完全理解をするためには時間は必要だった。


「次ですが、今でこそ、バーニアン問題以降、異星間恋愛は事実上のタブーとなっていますが、当時はどうだったんでしょうか?」

「異星間ハーフに天才的な性質が現れると判明する前は、“ファーストコンタクター同士で付き合うのか”みたいな話題ばかりでしたね。天地の生活環境が違うから無理だとわかっていても、ネットではそればかりで正直うんざりしていました」

「私も洋一のことは好きよ。でもそれは“人として”好きなのであって、異性としてではないわ。だからそういう話題はすごく迷惑だったの。でも、インタビューでしっかり否定したり、バーニアン問題が出てからは、さすがに沈静化したわね」

「お二人は、今も友人関係を続けていらっしゃるんですね」

 二人は顔を見合わせ、穏やかに微笑んだ。

「そうですね。“男女の友情は成立しない”なんて言いますけど、ルィルは私にとって大切な友人です」

「私も同じ気持ちよ」

「ありがとうございます」

 羽熊とルィルはテレビ局が用意した水のペットボトルを飲む。


「非常に貴重なお話をありがとうございました。それでは最後の質問とさせていただきます。明日、フィリアと地球をつなぐため、派遣艦隊が恒星間転移を行います。安全性については確立されており、転移自体には問題はないとされていますが、地球で活動する隊員たちへ、もし何か伝えたいことがあればお願いいたします」

「……分かりました。長々と話すと疲れるので簡単にいきます」

 羽熊は一度咳払いをしてカメラ顔を向けた。

「派遣隊の皆さん、これから皆さんは、過酷な旅に就くことになります。予想通りにいくことも、想定外のこともあるでしょう。でも、あまり気負いすぎないでください。皆さんがいま感じている不安は、五十年前、私たち全員が経験したものです。目の前に巨大な難題があっても、必ずどこかに糸口はあります。そして、それを一人で解こうとしないでください。周囲を見渡せば、同じように悩んでいる仲間がいます。一人で悩まず、皆で考えて、皆で乗り越えてください。いってらっしゃい」

「素晴らしいスピーチありがとうございました。ルィルさんもよろしければお願いできますか?」

「私? そうね……派遣隊の皆さん貴方たちは異星人である私たちとも心を通わすことが出来たわ。であれば同じ人種同士、仲良くできないはずはない。貴方たちを知ったことで向こうでも思惑は生まれるでしょうけど、それを乗り越えて手を握り合えることを願ってるわ」

「ありがとうございました。これにてインタビューは終わりとなります。お二人方、本日は誠にありがとうございました」

「いえ、老い先短い私たちの言葉がためになるならうれしい限りです」

「月並みだけれど、これからは貴方たちの時代。老兵は静かにその行く末を見守らせてもらうわ」


 羽熊もルィル。それだけでなく国土転移以前に生まれた人たちは洩れなく激動の五十年を過ごし、現役と次世代にあとを託した。

 これ以上、半ば引退した先代や喧しく口を挟む必要はない。

 今の日本を、フィリアを、地球を切り開くのは羽熊たちではないのだ。

「では撮影は以上となりますので、飛行車は地上に向かいたいと思います」

 報道用の撮影が終わり、テレビクルーはそう羽熊たちに説明をする。

「……もし時間に猶予があるなら、もう少しだけ艦隊を見てもいいですか?」

「時間ある? あと三十分は大丈夫です」

 レポーターがディレクターらしき人に聞くと三本指を立てた。

「では十五分だけお願いしていいですかな?」

「分かりました。時間になりましたら声を掛けます」

「ありがとうございます」

「こちらこそ、お話が聞けてうれしかったです。映像や資料はたくさんありますが、当時で前線で活動した方の話を聞けるのは貴重ですので」

 レポーターたちは会釈をすると羽熊たちから離れていき、羽熊とルィルは窓際へと移動して優雅に佇む十隻で構成する艦隊を眺める。


「この計画がいい結果で終わると良いわね」

「向こうの状況次第だけど、ここに移民とか言って乗り込んでくるだろうな」

 なにせ手つかずの広大な土地が木星クラスの大きさで存在し、しかも日本が橋渡しをするとなると、地球からすれば侵略してくださいとしか思わないだろう。

「五十年前と今とでは違うと思わずにな」

 今の日本は転後前の日本とは違う。政治的にも、経済的にも、軍事的にも大幅に変わった。

 過去の大戦の負い目、経済的外需依存から脱却した日本は、一国の権利をもって堂々と意見をするだけの自負を持った。

 今回の計画は二つの星をつなぐことでさらなる発展を見込むものだが、もし違うなら永続的に断絶するだけである。いまの日本政府はそれだけの覚悟をもって計画に踏み切ったのだ。

「今の日本なら地球ともうまく渡り歩けるさ。きっとね」

「ねぇ洋一、考えたことはある? どうして日本はここフィリアに転移したのか」

 転移技術が科学的に実証された物理学だ。そうなると神の御業で片付けるわけにはいかないが、日本が転移したことに哲学的意味があるのか、それをルィルは尋ねた。

「元々地球もフィリアも、環境が違うだけで生命の根本は同じだった。ものすごい低い確率でしかなかった二つの星の繋がりを、確実にするために日本は選ばれたのかもね。日本ならつなぐことが出来るって」

「素敵な仮説ね。嫌いじゃないわ」

「まあ間違いなく、日本以外の国が転移したらまた違う未来だっただろうね」

「本当、日本が来てくれてよかったわ」

「こちらこそ、転移した国がイルリハランでよかったよ」

 羽熊とルィル。二つの星で生き、交わり、言葉を紡いで理解しあった。

 地に立つ地球人。空に立つリーアン。

 二人はそれぞれ異なる目線から、静かに滞空し続ける未来の象徴である艦隊を見続けた。

 その艦隊旗艦の艦橋には、日本とイルリハラン、かつて異なる空を見ていた二つの国の旗が、いま同じ風に揺れていた。


                                         おわり


『陸上の渚 ~異星国家日本の外交~』を読んでいただき、誠にありがとうございます。

 今作を書き始めて10年。長くもあり短くもありましたが、180話をもって最終回となります。

 陸上の渚を最後まで読んでいただき、本当に、本当にありがとうございました。

 人生においてもこれだけ長い間書いた作品はなく、国ごと転移と言う難しいジャンルではありましたが、こうして最後まで書くことが出来たのは応援してくださいました読者の皆様方です。

 1部最終話でも書きましたが、まさか10年もかかるとは私自身驚いております。

 180話の内容を見ますと地球編も書けないわけではないですが、さすがに主人公を含めて総とっかえ。かつリーアンは登場しないので、もはや別作品となります。

 そして私自身の気力も含めまして、これ以上続けてもダレてしまう恐れがあります。

 最終話だけで登場した名称がいくつかありますが、そこはここまで読んだ皆さんなら想像できるものなので敢えて省きました。それと番外編などは控えさせていただき、読者の皆様のご想像にお任せします。

 やりたいことは全部やりました。宗教関係がちょっと活かしきれませんでしたが、それでも最低限描写して畳むことができたので良しと思っています。


 これは自惚れもあり、おそらくいないと思いますが、もし地球編を書きたい方がいましたら書いていただいて結構です。

 陸上の渚の二次創作と明記して既存のキャラを出さなければ、地球編をどう描こうと特に言うことはありません。


 これ以上長くなってもあれなので、今作に於いてのあとがきも締めに回りたいと思います。

 投稿初期から読んでくださった方。途中、終盤から読んでくださった方。ブックマークをしてくれた方。

 感想、レビューを投稿してくれた方。

 皆様のおかげでこの作品は最後まで書くことが出来て、広げた風呂敷を畳めることが出来ました。

 ストーリーや設定上で不自然なことがあったかもしれませんが、それでも書ききることが出来てうれしく思います。


 次回作は、定番ナーロッパな作品を書いてみたいと思います。少なくとも国ごと転移系や政治・外交系の作品はもうおなかいっぱいです。

 それではさみしくなりますが以上とさせていただきます。


 改めて、皆さま、『陸上の渚 ~異星国家日本の外交~』を読んでいただき、誠にありがとうございました。

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10年間執筆お疲れさまでした。 高校生の時に読み始め、社会人のいまも、更新を楽しみに過ごしていた分、感謝と寂しさがあります。 とても作り込まれていて、面白い作品でした。 次回作も楽しみに待たせていただ…
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