第154話『三分間の奇襲作戦』
そうりゅう型潜水艦〝でいりゅう〟。
日本国防衛省が完成させた、世界初の地中潜航システムを搭載した地中潜航型潜地艦の試験艦だ。
元々フィリアでは使い道が限定的でお蔵入り予定だった旧海上自衛隊の潜水艦。
地球時代では世界最高峰の潜水艦で、海のニンジャとしてその名を轟かせていた。
しかし、内陸に転移してしまった転後日本にとって潜水艦の運用はほぼ無意味となった。
海から軍事勢力が来ることなく、日本の海も接続地域で切り離されては移動制限が著しく、海の秩序は海上保安庁で十分だったからだ。
転後六年の間で使い道を探り、一つ可能性を見出して建造途中だった計画2900トン型潜水艦8127号艦を、試験艦として予算を回して改修作業を行った。
目的はレヴィロン機関を使い、浮遊ではなく地中を移動し潜水艦の新たな運用法と戦術・戦略を確立するためだ。
これが実現すれば、割譲されたユーストル領日本領をパトロールして探知困難な地中から敵に対して攻撃することが可能となる。
その考えを見出したのはリーアンにとって天敵であるグイボラだった。
グイボラ自身が持つ生体レヴィロン機関によって土中のフォロンに干渉して土砂を移動または密度を著しく減らすことで、通常であれば身動きすら取ることも出来ない地中を高速で移動することを可能とした。
そのことに目を付けた防衛省と防衛装備庁は、使い道がなく維持費だけで莫大な予算が飛ぶ潜水艦に施そうと考えたのだ。
当然この改修計画はイルリハランを含めフィリア社会には極秘裏に行われた。
グイボラを参考に地中潜航システム構築して、しかも探知困難な兵器を作ろうとしているのだ。
リーアンからしたら脅威でしかないし、愚弄以外何ものでもないから同盟国であるイルリハランにも秘密にして研究・開発を続けて来た。
最初は小型の試作機で潜航可能かどうかを実証し、幾度の成果を経て建設途中だった計画2900トン型潜水艦8127号艦へ施すことを決定。
一年半前、秘密裏に〝でいりゅう〟として竣工したのだった。
とはいえ潜航出来る深さは三十メートルと潜水艦としては出来損ないの深さだ。
理由は万が一土中で取れなくなった際、浮遊用レヴィロン機関のみで自力生還出来る最深度だからであり、五十メートルからは干渉不可の結晶フォロン層もあって潜ることが出来ない。
基本的な武装はそうりゅう型を踏襲している。戦略原潜のような艦背面に垂直発射管は搭載していないため、地中から攻撃する場合は艦体を垂直に起こしてハープーン対艦ミサイルを同時に六発発射する。
この試作艦を経て次に作られる時は背面からの攻撃となるが、元々試作艦だったため攻撃手段は深く考えていなかった。
それがチャリオス本島による侵略行動で、機転に繋がる艦として見直されて急遽運用することが決まり、同時に秘密裏に人を運搬できるとしてエルマたちを乗せることにしたのだ。
懸念点で言えばロームウォーや新型早期警戒機による地中探査が出来る装備を、チャリオスが保有しているかどうかだ。
エルマからの情報だと探知能力はブラフとのことらしいが、アメリカ軍が保有しているバンカーバスターでは〝でいりゅう〟の最深度に届いてしまう。もし地中探査が出来る早期警戒機相当のシステムを持っていたら、奇襲開始前に攻撃を受けて終わりだ。
そしてそれを天自や〝でいりゅう〟が知る術はない。
しかし現況では〝でいりゅう〟以外に奇襲を仕掛けられる艦は存在せず、危険を承知で横須賀は出撃を命じ、さらに追加任務も課した。
作戦決行は午後五時のヒトナナマルマル。
日本は嘗てハワイ真珠湾に奇襲攻撃を仕掛け、以後八十五年間日本はどれだけ他国と対立しても武力行動も含め奇襲攻撃を仕掛けていなかった。
三十四半世紀を経て、戦況を変えるべく日本は奇襲攻撃を行い、エルマ達をチャリオスに送る危険度最大にして最重要任務を実施する。
*
地面からちょこんと出る潜望鏡がチャリオス本島の下部を確認した。
チャリオス本島は横須賀司令部からの定期通信で移動進路と速度、到着予定位置が伝えられており、その通りにチャリオス本島は迫って来ていた。
地中潜航型潜地艦〝でいりゅう〟艦長は目視で確認したことで、司令部からの命令の通り作戦決行を判断する。
〝でいりゅう〟は運用方法から全艦に対して椅子が艦首に向くよう固定され、完全に固定出来ないものは全て蓋つきの収納棚等に収納することが出来るようになっている。
艦長は作戦実行指示を艦内放送で行い、乗員は全員椅子に着席してシートベルトを締めた。
リーアンらはともかく、重力に縛られる天自隊員は浮遊ジャケットを着なければ艦尾に落ちてしまうからだ。同時に運用法から必要に応じて垂直にならねばならず、あらゆるものが落ちないように固定する必要もあった。
艦体は地下三十メートルの土の中で、水平から三十度へと五分ほど時間を掛けて角度を変えた。魚雷発射管は艦首正面なので、時間を考えると垂直なのだが地表から五十メートル地下には結晶フォロン層があって移動することが出来ないのだ。
そのため角度は緩いが、攻撃の瞬間に地面から飛び出て垂直となって攻撃するしかないのである。
元々潜水艦として設計しているがために、ある程度角度が付いても艦体に影響は特になく。垂直になろうと特に異常は検出されない。
深度を示すモニターには艦首から地面までの距離は一メートルと表示されている。
時間は午後四時五十分。あと十分で本作戦は開始され、牽制として気を逸らすため陸自が決死の攻撃を仕掛ける。
その牽制の結果を〝でいりゅう〟が知ることは出来ない。
その理由は〝でいりゅう〟の艦体は厳密には土に触れておらず、艦体と土の間にはほんのわずかな隙間があるため、地中を伝わる振動はその空間によって遮断されてしまうからだ。無音とは言わないが状況は著しく不明となる。
潜望鏡も艦首にはないから、〝でいりゅう〟は戦況が不明なまま作戦を強行を余儀なくされる。
そこは地上のチームをただただ信じるだけだ。
艦長席に座るでいりゅう艦長は刻々と作戦決行時刻に迫る時計を見つめ、背中にかかる自重を感じながら地上の健闘を祈った。
*
地表をスレスレで五十両の戦車が時速七百キロで掛ける。
接続地域に配備していた滞空戦車部隊だ。
現代を生きる人なら詳細は知らずとも誰もが見たことがある戦車。その戦車の中で日本が世界に誇る最新世代の10式戦車で、それを浮遊化したものだ。
その馬力から生み出す電力によってレヴィロン機関をフルに活用でき、最高速度の七百キロに加えてコクーンも装備している、地球社会であれば最強の部類に入る車両だ。
元々は接続地域防衛のためと浮遊化の試験ともあって三十両の改修であったが、チャリオス侵攻に合わせて必要になるとして、日本各地の駐屯地に配備していた10式戦車全車両の浮遊化を決定。国家総動員を機に施した。90式戦車は性能不足から本土防衛に限定。
10式戦車に限らず、国防軍の戦車自体が初の実戦投入である。
任務はチャリオスの意識を戦車部隊に集めてでいりゅうの奇襲のチャンスを作ることだ。そして敵コクーンが無力化されれば、バスタトリア砲の破壊に務める。
分厚い装甲を持ち、尚且つコクーンを装備していればバスタトリア砲であっても直撃さえしなければ生き残れる。さらにコクーン装備の武装鉄甲も共に任務に就くので生存性はさらにあがるはずだ。
五十両の浮遊戦車はバスタトリア砲を含め各種兵器の攻撃を防ぐため三百メートル単位で距離を取り、コクーンを一機車体に載せることで共に移動していた。
当然戦車は有人だ。乗員三名、全百五十名の陸自隊員は覚悟を持って任務に就いている。
日本を守るため、この日のために訓練を続けていた陸自の自衛官の士気は先に戦闘を行った天自自衛官同様に高い。
すでに戦車部隊は空中に佇んでいるチャリオスを肉眼でも光学カメラでも捉えており、全車でバスタトリア砲の射線に注意する。
チャリオスのバスタトリア砲には欠点がある。
軍艦に搭載した特務艦であれば艦首の向きを容易に変えられるためある程度接近されても射線確保が出来たが、チャリオスのバスタトリア砲の砲門は島内に収められており、その巨体から島全体の角度を変えることは困難だ。
つまり、低高度から接近されると射線確保が出来なくなるのである。
そして自信を守るコクーンも、展開中は攻撃できない制約から中遠距離で仕留めそこなうと攻撃できなくなってしまう。
チャリオスはレーダーで感知出来た段階からバスタトリア砲による砲撃を戦車部隊に行っている。
だが戦車部隊はピンポイントによる攻撃を防ぐためにジグザグ航行を立体的に行っていた。
秒速三百キロ以上出せるとしても砲弾の直径は五メートル。10式戦車の幅は三メートル弱。常に不規則に回避行動を取り、尚且つコクーンを展開しながらでは命中率は低い。
そもそも鹿児島沖で護衛艦ですら常時回避行動とコクーンで命中を防げたため、静止状態でなければ命中しないことを国防軍はすでに把握していたのだった。
その原因は、島そのものを砲台にしてしまったことだ。
バスタトリア砲の隠蔽と弾数、エネルギーに連射、弾速を考えると島を土台にするほうがメリットがあるも、反面機動性を犠牲にしてしまう。
もしバスタトリア砲搭載特務艦が六十隻いたのなら、ピンポイント射撃で壊滅的な被害を受けただろう。
だからこそ日本がコクーンを自力開発し、国家総動員で全国に施した功績は絶大なのだ。
バスタトリア砲は戦術兵器ではなく戦略兵器。本土に命中すれば甚大な被害を産んでいた。
とはいえ、バスタトリア砲搭載特務艦がいない保証もないため、戦車部隊に限らず国防軍は楽観視しない。
軍事行動で最も愚かなのが戦況や任務が順調過ぎて楽観視することだ。楽観とは即ち油断となる。その油断は反射速度を低下させ、イレギュラーに対して瞬時な判断と対応を遅らせて敗北の要因になってしまう。
戦車部隊の先頭車両とチャリオス本島の距離が十キロを切った。
時刻は十六時五十七分。
先頭車両群は砲撃を開始した。
10式戦車の射程は三キロ。この時点では精密射撃は出来ずとも、砲弾の初速を助ける車両の速度が従来の十倍ならば、巨島に当てるだけなら十分だ。
放たれた数十発の砲弾は弧を描くように飛び、それら全てがチャリオスのコクーンに命中する。
効果がないのは織り込み済みだ。
チャリオスとの距離が近づくにつれて戦車部隊は散開する。
滞空戦車部隊としては発足したばかりで、車長を含め操縦士も空戦に関しては天自から指導を受けている立場だ。本格的な空戦は全車で出来る状態ではなく、あくまで戦車としての運用としてアクロバットな飛行はせず、車体は常に水平を維持して地表スレスレから百メートルを上限とし、情報共有システムを駆使して衝突を防ぎながら移動をする。
チャリオスからミサイルが発射された。それに合わせてコクーンが解除され、たまたまタイミングがあった砲弾が外壁に着弾する。
着弾した結果は直ちに首相官邸へと送られる。
運よくバスタトリア砲の砲塔に当たればよいが、当たればいいだけの遠距離砲撃だ。都合よく当たることはない。
ただ、命中する事実は得られた。日本にとって初の本丸への攻撃成功だ。
着弾した砲弾は少し外壁が剥がれる程度で、遠距離故に本来の破壊力には届いていない。
放たれたミサイルは先頭群の戦車に二発ずつ命中した。
バスタトリア砲と違って最終誘導が可能なためピンポイントでの命中が出来る。
しかし自前のコクーンによって戦車部隊に損害はない。
戦車部隊はチャリオスの半周を取り囲むように展開し、三キロの距離と射線外を意識して一斉射撃を開始した。
敵がコクーンを展開している限り攻撃できず、かといって日本もコクーン突破は出来ない。
バーニアンは日本が無駄に攻撃を仕掛けているはずがないと考えているだろう。
同じか近いレベルで考える者は、自然と同じ結論に至る。
戦車部隊の九割は包囲攻撃を続け、残りの一割は浮遊都市下部へと向かう。
バーニアンも同じく考えてか、今までにいない兵器を忍ばせていた。
それに気づいたのは下部に潜り込んだ戦車部隊の車長だ。
コクーン発生機があるとされるポイントに、鉄甲より数倍と大きい物体がコバンザメのように浮遊していた。
本島を守る装置を守る防御システムは想定内だ。自分らも同じ運用をしていたから、戦車部隊はその防御システムの排除または注意誘導の任務もある。
〝でいりゅう〟の攻撃開始まであと一分を切った。
コバンザメのようにチャリオス本島下部にいる物体は首の長い鳥のような形容のロボットのようだった。
羽ばたくことなく浮遊していることからレヴィロン機関搭載と、金属的な外見からロボット的ドローンと推測が出来る。
ただの動物を模したロボットではなくバーニアンが作り出したものだ。ただそこにいるはずがないし、大きさもF-35並みかそれ以上のあることから攻撃手段もいくつもあるだろう。
それが五機、翼を広げ地面から見てコクーン発生機が隠れるように駐機し、潜り込んだ戦車部隊に対して顔を向けていた。
どんな攻撃手段を持っているのか不明でも、見られ続けてて良いものではないことだけは分かる。
ここは先制と、10式戦車は敵鳥形ドローンの表面積の大きい胴体に向けて徹甲弾を発射した。
すると鳥形ドローンは、羽ばたくようなしぐさで10式戦車の徹甲弾をかわした。
人が遠隔操作して反応できる速さではない。AIかプログラムか自律的に動いているのだろう。
ほかの10式戦車も撃つも生物的な動きでかわされてしまった。
あと三十秒で〝でいりゅう〟が動く。
鳥形ドローンの攻撃性は不明でも危険分子には変わらない。
安全に奇襲を成功させるには破壊一択だ。
10式戦車はロールアウトから十五年以上が経ち、改良をその都度しても性能自体は一級品である。様々なセンサーによってターゲットを自動索敵し、僚車と情報共有することでターゲットを重複させず、人による細かい標準補正をする必要もない。
射撃管制システムによって鳥形ドローンをロックオン。より情報があれば弱所に狙いを付けられるが、そこは大部分の部品がある胴体を引き続きロックし続け、砲手は引き金を引いた。
五両の10式戦車はそれぞれ割り当てられたターゲットに向けて砲弾を放つ。
かわされるも、次弾をすぐに装填して再度攻撃をする。
四発は再びかわされたが、一発が翼と胴体のつなぎ目に命中した。
鳥形ドローンのコクーンはチャリオスコクーンが近くにあるため展開していないようだ。
命中した鳥形ドローンの翼は胴体から切り離されて地上に落下し、付け根部分からは火花が飛び散った。
元々この世界の鳥は、太陽光から受ける熱で発電して生体レヴィロン機関で浮いている。翼に意味はあっても飛ぶ意味ではないから、翼が落ちたところで本体は落ちたりはしない。
ただ、攻撃が通じるのが肝要だ。
しかし、〝でいりゅう〟への準備は間に合わなかった。
国防軍全軍で共有している時間が十七時を指してしまった。
指すと同時に草で緑一色の地面が盛り上がり、茶色い土が見えると先端が丸く黒い物体が飛び出してきた。
さながら海面に飛び出たクジラだ。
地中から飛び出た黒い物体こと〝でいりゅう〟は、飛び出た瞬間は艦首は地面とチャリオスの中間に向いていたが、出力を高めているのが潜水艦ではまず見ない速度で垂直へと角度を変える。
〝でいりゅう〟から見ては外の様子が分からないのだ。諸元入力も出来ず、ただ真上にハープーンを打ち上げるしか出来ない。
一秒の遅れが作戦失敗につながるため、中の乗員より攻撃が最優先だ。
〝でいりゅう〟は角度を変え続ける。
それに合わせて鳥形ドローンの顔が〝でいりゅう〟に向いた。
ただ見ているのか、それとも攻撃への予備動作なのか、国防軍は分からない。
分かるのは鳥形ドローンを排除する一点だ。
ハープーン発射の邪魔はさせず、攻撃を許して〝でいりゅう〟に傷つけたりはさせない。
五両の10式戦車は砲撃をしつつ鳥形ドローンに特攻を仕掛けた。
〝でいりゅう〟の魚雷発射管が六門の内五門が開いた。攻撃まで数秒。
砲弾では最小限でかわされても戦車本体であれば面積が大きい。
砲撃によって意図的にかわす場所を誘導し、そこに戦車本体で体当りをする。
10式戦車自体はコクーンで守られている。自身の装甲も相まって体当りに躊躇がない。
鳥形ドローンは砲弾と10式戦車ともにかわそうとするも間に合わず、五機中三機がコクーンに接触した。
10式戦車のコクーンに触れた鳥形ドローンはコクーンの流動する力場と衝撃によって破壊され巻き込まれ、コクーン発生機の反対側から排出される。
衝突された鳥形ドローンは受けた被害が大きいのか、機能を停止して地面に落ちた。
〝でいりゅう〟に向かってだ。
〝でいりゅう〟の艦首にある六門の内開いた五門からハープーンが発射された。
五両の10式戦車はもう何もできないと四方に水平移動してスペースを作る。
落下する鳥形ドローンの破片。上昇する五発のハープーンミサイル。
二発が破片にぶつかって爆発し、三発はすれ違って上昇を続ける。
ハープんが向かう先はチャリオス本島を包むコクーン発生機で、打ち上げタイミングと位置は完璧だ。
問題は10式戦車が仕留め損なった二機の鳥形ドローンである。
二機の鳥形ドローンは日本の意図を察してか、翼を広げて表面積を増やして行く手を阻もうとする。
ハープーン三発はその鳥形ドローンに接触する軌道にあり、このままでは攻撃が無駄になってしまう。
一両の10式戦車が独断で砲弾を鳥形ドローンに向け発射した。
ハープーンが鳥形ドローンに当たる刹那のタイミングで、砲弾が盾として回避行動がとれない鳥形ドローンに命中した。
徹甲弾は鳥形ドローンの頭部から胴体に命中。胴体内のレヴィロン機関にも命中してか反動で反対方向に吹っ飛んだ。
三発の内の二発は残存する鳥形ドローンによって阻まれたが、最後の一発が無防備となったチャリオス本島のコクーン発生機に命中した。
*
16時57分。
三十度の角度で待機する〝でいりゅう〟の魚雷発射管室で、エルマ達はフル装備で待機していた。
六門ある魚雷発射管の内、五門には対艦ミサイルのハープーンが装填され、残りの一門には何も装填せずに扉も開かれている。
エルマ達はこの残された魚雷発射管から外に出て船外へと出るのだ。
エルマ達が出るのは17時00分30秒。
攻撃開始が17時00分10秒で、二十秒以内にハープーンが敵コクーンを破壊。無防備となったところをエルマ達が本島に突入する。
試作艦ゆえに艦首から地上の様子が分からないから、地上支援を百パーセント信頼して動くしかない。
成功しようと失敗しようと計画通りに〝でいりゅう〟は攻撃し、エルマ達も突入する。
これは完全に日本を信じての作戦だ。たとえ失敗しても、日本は全力を持って動いたのだから責めたりはしない。
「よし、予定通りなら地上で牽制攻撃を仕掛けているはずだ。予定通りヒトナナマルマルで〝でいりゅう〟が地上に出てハープーンを撃つ。その二十秒後に俺たちも出るぞ」
リィアの指示の下、全員が腕時計の時間を確認し、目を保護するゴーグルを掛ける。
「いいか、ここから先は失敗が許されない戦いだ。俺たちが任務を成し遂げずに負ければこの星の支配者はリーアンではなくバーニアンになる。偶発的に奴らが発生したとしても自然種の人類は俺たちだ。新人類に奪われるようなことは防ぐぞ」
「もし敵に捕まっても、助けることはしても敵の指示は無視してください。例え私でもルィルさんでも無視して任務を最優先に」
負ければ終わりなのだ。人質で任務を妨害されるわけにはいかない。
最先任はリィアでも権威ではエルマが上だから、エルマが話すことでその精神的壁を取っ払う。
「時間だ」
腕時計が17時00分となった。
「〝でいりゅう〟動きます!」
同じく魚雷発射管室にいて固定式の椅子に座ってシートベルトをしていた天自自衛官が叫び、部屋全体の角度が変わり始めた。
先の水平から三十度までの傾きよりもはるかに早く傾く。
部屋全体が垂直になると同時に腕時計の秒針が十秒を指し、魚雷装填扉で振動が起きた。
「ハープーン発射!」
「あと二十秒」
〝でいりゅう〟の艦首が地上に出たことで外の音が伝わるようになり、地上部隊の攻撃が実施されているであろう砲撃音や爆発音が聞こえてくる。
最悪〝でいりゅう〟の艦首が地上に出たところで攻撃を受けて即終了も覚悟していたが、とにかくまだ生きている。
大きな爆発音が轟き、魚雷発射管室が小刻みに震える。
爆発音の大きさからハープーンが爆発したものと思う。だがタイミング的に早い。
妨害を受けて止められてしまったか。しかし音だけで断定は出来ない。
攻撃が成功したのか不安は拭い切れなくも、予定に変わりはない。
「三……二……一……行くぞ!」
最初にリィアが魚雷発射管に入り、その後腰に固定して垂らしている弾薬など物資の入ったザックが入った。続いてエルマも続く。
肩幅より少し遊びがある程度の魚雷発射管内。スムーズに魚雷を発射するためにその内部に凹凸はない。接触による傷は気にしなくていいと言われ、とにかくスピードが大事と肩が内部あたろうと気にせず最高速度で魚雷内を進み、直径ギリギリに収めたザックも少しの抵抗はあっても引っかかることはなかった。
数メートルと進むと魚雷発射管の扉に差し掛かり、久しぶりの外へと出た。
さすがにこれだけ長く地中にいても、任務の重大性を意識すると地面への畏怖は薄れ、外に出た解放感は特に抱かなかった。
それよりも前に落下してくる破片物に目がいった。
黒い金属片と、熱せられて赤くなった破片が多量に落ちてくる。
魚雷発射管からザックを含めて出ると同時にコクーンを展開する。
自身とザックを包んで衝突コースの瓦礫を防ぎ、同時に〝でいりゅう〟から出るまでコクーンを展開できない後続の仲間を守る盾にもなる。
地上からチャリオス本島最下層までの距離は五百メートル。
その空域はまさに戦場だった。
いつも拝読ありがとうございます。
投稿日から本年はあと1ヶ月ありますが、プライベートが繁忙期に入るため今回で本年の投稿は最後です。
次回は新年早々と思います。
1ヶ月と長いですが、次回をお待ちください。




