第152話『夜襲』
異星国家の首都に向けて移動し続けるチャリオス本島は、移動しながらその途中で三機の戦闘機を出撃させた。
出撃に合わせてベーレットを一時解除し、出来た空間を縫うように戦闘機が大空を翔る。
夜間に出撃した戦闘機はステルス戦闘機だ。ステルス仕様の塗料と形状により視覚とレーダー、レヴィロン機関での無音移動ともあって異星国家は察知すら出来ていないだろう。
チャリオス本島が直々に移動すると言うインパクトを作ることで意識を逸らさせ、その隙に静かなる使者を放ったのだ。
三機の戦闘機は三角形の編隊を作って高度を上げる。
目指す高度は六十三キロ。目的地は異星国家を覆うベーレットの内の一つ。異星国家を構成する四つの島の、主島中央部のベーレット発生装置である。
バスタトリア砲の砲撃は、ただ異星国家へのけん制だけでなくベーレットの発生地の特定にも利用していた。
向こうからすれば無駄撃ちと見ていただろうが、ベーレットへの着弾による波紋によって場所の特定は可能なのだ。
ベーレットは常に発生源かららせん状に力場が流動しているので、その流動を解析すればその発生源の位置を計算することは可能だった。
例え悟られないように発生地を移動していたとしても範囲の割り出しは可能である。
チャリオス本島にあるエミエストロンは、その多数の砲撃によって波紋の動きを解析し、異星国家を覆う全数は位置的に分からずとも三つまでは場所を解明。さらにその一つが首都を含む大都市を複数覆っていることが分かった。
そこを叩けば異星国家の首都は丸裸となり、バスタトリア砲一発で一気に形勢逆転に行くことが出来る。
そしてこの重大な任務を仰せつかったステルス戦闘機は無人ではなく有人だ。
相手の急所を狙うのに遠隔の無人機では対応に遅れが出る。無人システムに十分な信頼を持つていても、その有無には心身的に覆せない何かがあることをパーシェ(バーニアン)は理解していた。
パイロットに選抜されたネムラは戦歴も十分なベテランだ。過去に敵機を何機も傭兵時代で落としていた実績があり、パーシェはこの重大なその三人を任務に抜擢させた。
パイロット自身士気は高く、良き戦果を出してくれるだろうとパーシェは期待する。
三機のステルス戦闘機は高度を上げつつ、異星国家の領土に入らないよう注意する。
国土転移後六年間の調査で、異星国家の上空にもフォロンが存在する空域があることは分かっていた。
その空域はフォロン圏最上層から厚さ二キロの間だ。それ以下に下がるとフォロンが無くてレヴィロン機関で浮くことは出来ない。
フォロン圏の下層境界で起伏はないから上層境界付近を移動していれば落下することはない。
側面の境界も起伏無しの垂直なため、三機の戦闘機は横移動はせず縦移動のみで高度を上げる。
高度メーターは見る見る数字を上昇させ、地表から高度六十四キロとなったところで上昇を止めた。これ以上は上昇することが出来ない。
公表されている限りでは異星国家上空に差し掛かっても問題なく、計算上では異星国家のベーレットよりも上空だ。ベーレットに接触して撃墜及び察知される恐れはない。
確認のための攻撃をすれば確実なのだが、それをすれば異星国家は異変に気付くだろう。
奇襲を達成するには一切触れずに行くほかない。
コックピットにあるモニターには、エミエストロンが算出した異星国家ベーレットの展開図が立体で地図上に表示され、それを見ながらパイロットはステルス戦闘機を操り、三機は異星国家とユーストルの境界線を越える。
幸いなことに落下はしない。
そのことにパイロットたちは安堵しつつ、隊長機を中心として異星国家上空を無音で移動し続けた。
今回の任務はジェットエンジンによる加速や接近戦を考慮していないから、レヴィロン機関は稼働し続けてもアイドリングをしない。
つまり、最高速度は七百キロしか出せず失敗すればいかにステルス機だとしても帰島は厳しいだろう。
だからこそ成功させるべく行動は慎重に慎重を重ねる。
眼下には全世界が漆黒に包まれていながら、陸地が分かるように明かりが灯っていた。
光は国の発展の指標だ。光が強ければ発展している証左であり、国の形ではっきりわかるならよりそれが強調される。
人口比が根本から異なるためで比べられるわけではないが、国家の地力は推察できる。
そうでなければ奇襲など仕掛けず、正々堂々正面からねじ伏せられたのだ。
これは相手へのある意味称賛だ。
無線通信は傍受を恐れて無線封止をしており、三機は闇夜の中でも異星国家から灯る光を元に、わずかに見える輪郭を頼りに視認し合いながら異星国家主島上空を進む。
そして衛星と高性能カメラによる合成映像がディスプレイに表示される。地に付く異星国家の中で特異にも領土上空に漂う浮遊物体を。
パイロットたちは出撃前に異星国家版ベーレット発生装置の形状を衛星写真と資料から確認していた。
異星国家は戦闘機運搬兼整備基地として浮遊戦艦クラスの大きさの水上艦を保有している。
艦種を『空母』と呼ぶ軍艦。
異星国家は特大の空母一隻、大型二隻、中型二隻、準中型三隻を保有している。
衛星で確認しているのが、特大の空母以外の七隻で異星国家の領土をベーレットで包んでいることだ。
異星国家を縦長に五つに区分し、上下四ヶ所は大型と中型の四隻が一隻ずつベーレットを発生させ、残りの準中型三隻が中央部を守っている。
奇襲編隊は三ヶ所を守る内の、主島中央部のベーレットを発生させている三隻の準中型空母を狙う。
ベーレット同士は近づき合うと干渉しあって展開そのものがしなくなるが、十メートル以上離れていると干渉せずベーレット同士が合わさって防御力がより上がる性質がある。
基本的に発生装置は一つあれば十分だが、範囲が範囲だけに三隻使っているのだろう。あれでは最大出力のバスタトリア砲でも撃ち抜くのは困難だ。
異星国家は新参ながらベーレットを研究し尽くして我が物としている。
だからこそ三機で三隻を奇襲し、一気にベーレットを無力化する。
パイロットたちは滞空する準中型空母の艦底からケーブルが地上に垂れているのを確認する。
これはパーシェから説明を受けていた。
いかに大型の軍艦を用いようと約十五万平方キロになるベーレットを発生させるには電力が足りない。それを補うため、地上の発電施設から有線で伸ばして補っているのだ。
そのケーブルを切断すればたちまち停止するも、それはベーレットの内部で切断は出来ない。
異星国家を覆うベーレットを発生させる準中型空母は、チャリオスの軍艦とは逆に甲板に発生装置を設置している。
下から発電所が発電した電気をケーブルで送電し、その電気で甲板からベーレットを発生させ、地表に向かって幕を展開する。
そうすることで国土を守るシールドを展開しているのだ。
よって甲板にむき出しのベーレット発生装置を破壊すれば任務完了だ。
しかし、異星国家軍も当然そこを狙って来ることは予測していたようで、護衛として駆逐艦クラスの軍艦が準中型空母の上空に滞空している。
距離は百キロ。
ステルスによってまだ探知されていないか、武器管制レーダーの照射はまだ受けない。
ベーレット発生装置の護衛だ。異星国家にとって最新鋭の軍艦を配備しているだろうから、レーダー性能も随一と見ていい。
だが高速戦闘が出来ない任務上、敵艦まで百キロではまだ遠い。それに敵護衛艦にもベーレットは積んでいるだろうから、いま撃ったところで阻まれて反撃を受けるだけだ。
最低でも二十キロ近くまで接近して撃つ必要があり、三機は射程内に入っても撃たずに進み続ける。
ここはパーシェ特製の最新ステルスを信じるだけだ。
九十キロ、八十キロと敵艦との距離が縮まる。
各パイロットたちはヘリメットの中で冷や汗を流し、操縦桿を握る手に余分な力が籠る。
敵は察知しているのか、察知されていないのか、パイロットたちに確認する術はない。
距離が五十キロを切る。
現代戦であれば非常識な距離だ。ミサイルの速度を考えれば撃てば当たると言われる距離を超えて尚、チャリオス編隊はミサイルをまだ撃たない。
三十キロ。
発見時は遠距離過ぎて衛星との合成による表示であったが、この距離になるとカメラだけで存在を視認できるようになる。
やはり準中型空母の上空に四隻の軍艦が滞空していた。
資料にある通り近年に就役したとされる艦種と酷似しており、対空戦に特化した軍艦と予測。
レーダー能力も最高峰とのことだから、いかにステルス機でもこれが限界か。
隊長機はまだ予定距離に達していないが、今がチャンスと攻撃する決意をした。
ここからは一瞬の決断の遅れがミッションの失敗と死を招く。コンマ単位の判断を必要するとして、隊長機はレーダー照射を行った。
ヘッドマンドディスプレイに護衛艦と準中型空母がターゲットとして表示される。
体内時計で二秒と掛かる前に護衛艦にターゲットを選定。ミサイル数を五発にして発射機のボタンを押した。
三秒遅れ、僚機二機もミサイルを発射した。
暗闇でハンドサインも送れない以上、隊長機の動きに合わせて僚機は動くほかないからだ。
そしてターゲットは、隊長機が最寄りで僚機はその左右だ。
十五発のミサイルが亜音速に加速して三方向に散る。もう数秒遅れて隊長機はさらに五発を、最奥の敵護衛艦に向かって発射した。
これは四隻同時に落とさなければ意味ないからだ。
出し惜しみはしない。多段攻撃として準中型空母へのミサイルを半分残しつつ、他半分時間差を持って護衛艦に向けて発射した。
発射されたミサイルは数秒で音速を超え、着弾時には残るミサイルの燃料も爆薬の一部として護衛艦撃沈への足しとなる。
距離が三十キロであれば着弾まで二十秒前後。
全自動の対応ならともかく、人が間に挟むなら反応するにはあまりに短い。
が、ミサイルは全弾護衛艦の手前で爆発した。
やはりベーレットを搭載しているようだ。常時展開していれば時間の有無は関係ない。
隊長機はプラン1が失敗したことでプラン2に移行の決定をする。
無線封止を解除。僚機に指示を出し、敵護衛艦が反撃する前に護衛艦から準中型空母への攻撃へと切り替える。
三機は急上昇して敵護衛艦より高度を取った。
敵護衛艦の高度は六十四キロ以下。さらに上空一キロならまだ安全に飛行できる。
最悪フォロン圏を突破し、惰性で飛んでいるところで撃つつもりだったからまだよかった。
三機のステルス機は時速七百キロで移動しながら艦種を地面方向に向け、途中までの宙返りをする要領で敵護衛艦を飛び越えた。
敵護衛艦は三隻の準中型空母の直上からは少し離れている。そのためコックピットからは準中型空母の甲板が一瞬見えた。
おそらく護衛艦が落とされてその直下の準中型空母に直撃することを避けるためだろう。
フィリアの軍艦にはない平面の上部甲板には後付けされたベーレット発生装置があった。チャリオスのとは形状は違うもすぐに分かる。あれが異星国家主島の三分の一を乗算する形で守っているのだ。
三機の戦闘機はその敵準中型空母のベーレット発生装置に向けてミサイルを全弾発射した。
敵護衛艦からの攻撃は見られない。
突破できる。
三人のネムラパイロットは自身の保身よりも、最低限の任務達成に安堵した。
その安堵も束の間だった。
命中を確信した瞬間、敵ベーレットまで五十メートルほどのところでミサイル全弾が爆発したのだ。
何に誘爆したのかは通り過ぎてしまったため分からなかったが、攻撃が通らなかったことは全機のパイロットが理解する。
任務失敗。
その言葉が過り、ミサイルはないから機銃で追撃するか逡巡する。
隊長機は機銃による決死の攻撃を決断した。
機首を地面に向けて水平移行しているステルス機の機動を、強引に地面方向に向けて方向転換をした。
ダララララと機体内部に収納してある機銃が火を噴き、毎秒百発もの弾丸が敵ベーレットへと向かう。
ある程度の範囲に対しての掃射。何に妨害されても当たるだろう。
必中のミサイルが迎撃されたことと、思考時間がコンマ単位しかないことから隊長ネムラは最も単純な対策法を見落としていた。
横からの攻撃には敵護衛艦からの迎撃やベーレット、または体当たりで対処できる。
敵護衛艦と準中型空母の間にミサイルを撃って自爆し、その破片で攻撃をするには水平方向への速度が速すぎて破片がベーレットに当たらないし、座標計算が間に合わない。
そのため真上からの攻撃しかないのだが、異星国家はそれすら対策を講じていた。
先の戦闘で味方艦隊を落とした無人機。その無人機がベーレットを起動して直線的な蓋の役目をしたのだ。
敵護衛艦と準中型空母には十分な空間がある。その中で低範囲で展開するなら干渉しあって出来ないことも防げる。
ミサイルはその小型ベーレットに防がれたのだ。
機関銃の弾薬を全弾消費しても無人機のベーレットを突破できず、武器弾薬はすべて消費してしまった。
もうできることは二つだけとなる。
隊長は失態として自認すると同時に決断をした。
僚機に対して直ちに撤退する指示をし、自身も撤退行動に移った。
破れかぶれの特攻でベーレットを狙う考えもしたが、任務失敗しようと『帰還』を疎かにするのは軍人として愚の愚の判断だ。
大失態をしようと『次』があれば挽回できる。この経験を糧として次に活かせばいいが、特攻してそれすら失敗すれば、自身の今までのコストやステルス機自身を無駄にすることになるのだ。
任務は片道切符では意味がない。任務は成功失敗に関わらず、基地に戻ってこそ終わる。
直感でも自機を武器として特攻をしかけても成功はしないと訴えており、すでに奇襲部隊に攻撃の意思は消失していた。
異星国家主島を覆うベーレットに触れないように方向と異星国家沖へと向けて時速七百キロで離脱する。
あとはステルス性能による命中率の悪さと欺瞞弾でしか身を守れない。
隊長はチャリオス司令部に対して任務失敗を告げ、帰島を命じられた。
世界を敵に回す軍事行動を取っていても、チャリオスやパーシェは身内にまで非道ではない。下等人種のリーアンであり、使えるコマ程度だろうが使えるなら無駄死にをさせる薄情さまでは持っていなかった。
この失敗を次に繋げる。
ことは出来なかった。
敵護衛艦から発射されたミサイルが僚機に命中し、光る大地に照らされる暗闇に歪な爆炎が発生した。
砕かれた破片は異星国家へと落ち、ベーレットで弾かれる。
隊長機ともう一機の僚機は欺瞞弾を放ちながら左右に回避行動に移る。
墜とされた仲間を悔やむ余裕はない。
敵護衛艦からさらにミサイルが放たれる。
隊長機と僚機は自機のベーレットを起動した。
ジェットエンジンによる発電が出来ず、自機バッテリーのみでの起動だからレヴィロン機関や機体システムへ回す電力を考えると展開時間は数分と短い。
墜とされた僚機は展開が間に合わずに墜とされたが、残り二機は展開が間に合って追撃のミサイルを防いだ。
しかし、バッテリー残量が見る見る下がる。
ベーレットは防御の強弱に関係なく一定量で電力を消費する。生き延びるためにはオンオフを繰り返すほかなく、両機は攻撃を防ぐと同時にベーレットのスイッチを切った。
オンオフ時の余分な電力消費は無視する。
バッテリー残量と消費量から帰還までの必要量を産出。自機がそうであれば僚機も同じであろう。隊長は簡潔に指示を出して回避行動に専念する。
敵護衛艦からさらにミサイルが飛んできた。
ただ、ステルス機としての特性は死んでいないからミサイルの誘導が甘い。
第二波のミサイルは至近弾であっても命中せず、欺瞞弾にも誘われてベーレットのスイッチは入れない。
敵護衛艦から数キロ離れる。
風切り音がすぐ近くで聞こえた。敵艦は主砲を放ったのだろう。ただ、ステルス機の性能は伊達ではない。異星国家のような余計な固定翼を付けて面積を増やしていないし、ミサイルも撃ち尽くしたから敵からは胴体の直径でしか捉えられず、それもステルス塗料と形状で爪くらいの大きさでしか捉えられない。
レーダー上に映らないこそ至高でも、物体として実在する以上完全は出来ない。けれど限りなく小さく見せることは出来て、これはチャリオス製ステルス機として最低値だ。
いかに異星国家であっても捉えられない敵を捉えるのは難しいようだ。
任務失敗で仲間を一人失ったのは大失態だが、得た情報は大きい。
敵護衛艦は自機を見失ったのか攻撃が止んだ。
それでも緊張の糸を緩ませるわけにはいかず、いつでもベーレットのスイッチを入れられるよう手を掛けたまま移動を続ける。
同時に無線封止を再度行い、高度をチャリオス本島に向けて下げ始めた。
機体を最小にするべく敵艦と相対するよう留意し、レヴィロン機関だからこその横移動を駆使してチャリオス本島を追いかける。
敵からの攻撃はついに来ることはなかった。
*
「〝おおすみ〟型三隻の損害はありませんか?」
首相官邸地下、情報収集センターは喧騒としていた。
初のコクーン発生機への直接攻撃に、警戒を続けていたとはいえ至近距離まで近づかれたことで騒乱としたのだ。
もちろん敵は日本にとってアキレス腱であるコクーンを狙うことは分かっていた。
だから各コクーンには旧米海軍のイージス艦を三隻以上を配置し、対空監視を厳とさせた。
それを敵戦闘機は掻い潜って至近距離でミサイル攻撃をしてきたのだ。
日本にとって危機的状況だっただけに、就寝前だった若井は再び情報収集センターで声を掛けたのだった。
「被害はありません。護衛艦、武装鉄甲ともに問題ありません」
幸い幾重の防御網を敷いていたため、コクーン発生機を取り付けた〝おおすみ〟型三隻に被害はなく、コクーン出力も何ら問題ないらしい。
万が一一隻が落とされても東京、大阪間のコクーンは他二隻で守られるが、守りを固めるには三隻は維持したい。それにコクーンが破壊されても浮遊には問題なくも、もし落ちれば八千トンもの物体が六十三キロの高度から落ちることになる。
各コクーン搭載護衛艦は人気のない山間部上空に滞空しているが、それでも落ちれば処理に時間と予算が掛かる。
他の地区を蔑ろにするつもりはないが、東京と大阪間にある政令指定都市を人質にとられれば短期降伏も視野に入れないとならなくなる。
バスタトリア砲の被害は甚大だ。命中した弾着地域だけでなく、純粋物理による衝撃波で原爆規模の範囲で被害が出てしまう。
ミサイルならまだしもあれは規模が大きく、何発も撃たれれば被害者は百万を優に超すだろう。だからこそ食い止められたことに安堵し、接近されたことを悔やむ。
やはりチャリオスことバーニアンは油断ならない。
「大至急各コクーン搭載護衛艦に警戒するよう通達を。コクーンが突破されたら形勢は一気に変わります」
「もっと鉄甲を増やすか?」
「コクーンや武器搭載の武装鉄甲は自衛官しか操縦させられない。非武装は民間だし、させたとしてもし魔が差してコクーンに体当りなんてしたらことだ」
「自衛官だけでなく、警察から資格を持つ者を呼ぶのはどうだ?」
「それなら海保の人もですね。海保でもドローン配備で資格取得をさせてるので」
「けど法的に運用させられるのは非武装のみですよ? 武器を取り扱うとはいえ、非軍事組織の警察と海保の職員に武装鉄甲は任せられません」
「非武装にコクーン搭載は?」
「武装鉄甲から重火器を取り除けば。ですがバランスチェックや不具合がないかテストが必要なので一晩とは行きません」
「早急に始めましょう。少なくともコクーン搭載護衛艦を守るには必要です」
「人選とシミュレーション訓練をさせます」
そう応急的ながら指示を出したところで報告が上がる。
「チャリオスがバスタトリア砲を発射。着弾地点はラッサロンです!」
ついにチャリオスは日本と同盟で、同じく有事に備えていたラッサロン天空基地に向かって攻撃を仕掛けた。
「……位置的に射程には入ります」
「被害は?」
「ありません。ロナルドレーガンのコクーンがラッサロン天空基地を覆っているので被害はゼロです」
ラッサロン天空基地には、自身の浮遊と基地内維持のための発電施設がある。
しかしその発電量は火力発電所一基分しかなく、バスタトリア砲の直撃を防ぐには出力が足りない。
余波程度であればジェットエンジンが生み出す発電量で十分だが、直撃をすると護衛艦の発電量でも賄えない。
よってラッサロンにコクーンを施しても直撃には耐えられないため、原子力空母ロナルドレーガンを物理的にラッサロンに付けることでコクーンの対象内とし、原子炉の出力でバスタトリア砲に耐えられるコクーンを発生させているのだ。
理論上防ぐことは可能とのことであったが、幸いにもそれが今実証された。
同時にラッサロンは放棄せず運用状態である可能性をチャリオスに伝えてしまってもいる。
「今後はラッサロンも飛行艦を出撃させますね。国防軍との連携が取れるように情報交換は密にしてください」
今までは戦線が遠方だったのと、チャリオスを欺くためラッサロンは沈黙していた。それに対して疑われた以上ラッサロンも動くだろう。元々そういう取り決めだ。
例の特殊艦も時間的に明日には作戦が開始されるから、日本とラッサロンの共同作戦が必須になって行く。
勝負の分かれ目は明日だ。
「鹿児島県沖と和歌山県沖。主戦場が二ヶ所ありますが冷静に対処していきましょう。もちろん夜襲も」
そう言って若井は明日に備え眠ることにした。




