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陸上の渚 ~異星国家日本の外交~  作者: 龍乃光輝
フェーズ2 潜入偏 全15話

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第128話『三者苦境』

 広報部戦略室営業課。

 敵側トップとの運命の面談を経てルィルに届いた書状には、採用の旨と同時に配属先の辞令が記載されていた。

 その部署の趣旨は一言で言えば、チャリオスの影響力を高めるために広報活動の営業をしろ、だ。

 取引のない国や個人への広報活動をし、可能であれば取り引きのきっかけを掴むことをするらしい。その後は営業部へと引き継いで正式契約へと向かう。

 要は斥候のような仕事と解釈でき、それをルィルは今後の仕事とするようだ。

 ルィルは知名度こそ主要国要人並だから、不名誉除隊と言うマイナス要素はあれどチャリオスの新しい顔として売れるとしての配属先なのだろう。

 広報部になることは事前から予想しており、仮に別の部署であってもルィルの潜入調査の内容は大きく変更はなかった。


 肝心なのは配属先でどう評価されるかだ。

 この潜入調査を成功させるには、絶対の条件として正攻法での高評価をチャリオス内であげなければならない。下っ端ではどれだけチャリオスにいたところで、永久にテロに関する証拠は手に入らないからだ。

 短期間での昇格は大企業故に難しいが、想像を上回る成果を上げれば動かないわけには行かない。

 ただ、ルィルには成果を上げるのに助力してくれる頼れる味方が大勢いる。

 敵陣で余計な見張りが二人以上いてもルィルに不安はなかった。

 チャリオスは各部ごとにビルが設けられ、そのビルの中で室や課が分かれている。

 常識で考えれば一つのビルに部や室、課が別れるものだが、何万人と抱えるがためにそうした贅沢が許された。

 広報部も専用のビルが設けられており、ルィルはナビの案内で広報ビルへと向かった。


「ルィル!」

 ビルの入り口を通ってロビーフロアに向かうと、先に出社していたティアが出迎えて来た。

「そう言えばティアも広報部だったわね。って抱き付かないで」

 出迎えてきたティアはそのままルィルの胸に抱き付く。

 元々こうしたスキンシップをするタイプではないルィルとって少々鬱陶しい。

「本日付でルィルの相方として業務に入るように言われました。よろしくお願いします」

 分かりやすい見張りだ。

「前のようによろしくね」

「はい。あ、軍にいた時はルィルが上官でしたけど、ここじゃ私の方が先輩なので敬ってくださいね」

「え、いやよ?」

「そこは先輩を立ててくださいよ」

「先輩って少しだけ早いだけじゃない。尊重はしても先輩としては見れないわ」


 なによりティアはルィルより年下だ。軍の階級を無視しても無条件の敬いは出来ない。

 そして上に上がらなければならないのだからへこへこなどしてはいられなかった。


「ぷー」

「ほら膨れてないで職場に案内して。先輩」

「もうちょっと敬意を込めて」

「……せ・ん・ぱ・い」

「あはは……」

「そう言えば研修について説明がなかったけどちゃんとあるのよね?」


 社員として無事登用した書類は受け取り、給金も事前の通りの額の支払いが明記されていた。

 ただ、研修に関する文字はどこにもなかった。


「ありませんよ?」

「は? ない? ちょっとまって、広報の仕事なんてしたことないわよ。軍人として生きてきていきなり広報なんて出来ないわ」

「私も初めは同じリアクションだったんですけど、私たちは他の人よりお金を貰ってる分特殊なんですよね。戦略室営業課だって私の転職に合わせて新設したみたいですし」

「要人並の待遇ね。ってだからこそ研修は必要でしょ」


 破格の報酬を出すのなら相応の成果を出させるのが企業の役目だ。なのに放り出されては欲しい成果が出せず、ただの給料泥棒となってしまう。


「まあだから成果が上げられないのに、お金だけもらってるから息苦しかったんですよね」

「だったら尚の事研修は必要でしょうに。で、なにを命じられてるの?」

「チャリオスをユーストルに置けるようにしろ」

「ああー、それは無理難題ね」

「そうなんですよね。ただでさえ安全云々で拒否されてるのに、元兵士の声で聞いてくれるわけないですから。何度連絡をしても聞く耳持たなくて」

「だとしたら先日のアルタラン安保理は千載一遇のチャンスだった?」

「はい。イルリハランにとっては大変な裏切りではありましたけど、実はあの時裏方で動いてたんです」


 苦笑ながら答えるティアを見て、瞬間的に感情が荒ぶった。

 今はティアと同じ立場だから全力で抑えるが、そうでなければ平手をするところだ。

 どんな経緯でチャリオスに移ったとはいえ、国を裏切ったのだから愛国者であるルィルならその反応をしてしまう。

 だが今はルィルも裏切り者だ。罵倒をされる側であってする側ではない。


「だからクビの直後に私も呼んだわけね。もう一度進出を推すために」

「だと思います」

「とりあえずこれからの仲間に挨拶したいんだけど」

「分かりました。こちらです」


 ティアの案内で、ようやくルィルは広報ビルの中へと入った。


      *


「やはり予想通りの展開ですね」

 ルィルが広報部戦略室営業課に配属されたことを発信器によって知り、エルマはボソッと呟いた。

「向こうからすりゃユーストルに堂々と乗り込めれば万々歳だからな。ルィルの知名度を考えたらそっち方向で行くだろ」

 リィアもエルマの呟きに同調する。

「ルィルさんの営業手腕はどうあれ、必ずチャリオスの支部かなにかをユーストルに設置するよう働きかけて来るでしょう」

「まさかティアがアルタランの安保理で働きかけていたとは思いもしなかったがな」

「大変な裏切り……ですけどすでに軍属ではないので何も出来ませんね」

「ティアもティアで仕事をしたに過ぎないからな。倫理や感情で語れば許せないが……」

「これからルィルさんも同じように裏切り行為をするんです。一々怒ってられませんよ」

「というか、俺らも同罪だろ」


 チャリオスにはチャリオスの計略があるだろう。それはエルマ達に考え付くものか、それとも斜め上を行くものかは分からない。

 だが常識的に考えればルィルにさせたい仕事はある程度推測は出来る。

 それに乗じてエルマ達もルィルに見えない援助を行う。


「今はとにかくチャリオス幹部にルィルさんを売りつけることを第一に考えねばなりません。そうでなければルィルさんは高収入のいち社員に過ぎない」

 潜入捜査をするとき、顔が知られているのと知られていないでは大きな隔たりがある。顔が知られていないなら政府による信用度の高い人材を創造できるが、知られた人間はそれ以上の人材を作れない。

 ルィルはいかに高収入を約束されてもいち社員に過ぎないから、チャリオスが何を求めるにしても功績を作るには多大な労力が必要だ。

 それをエルマ達が秘密裏に援助して、ルィルが自力で掴んだように見せる。

 要は出来レースをするのだ。

 エミエストロンの監視下で援助をするのは厳しいが、凡人であるエルマ達がバーニアンを出し抜くにはそれしか思い浮かばない。


「そのためにはチャリオスにユーストルを売るように細工をする。売国奴がどっちなのか分からなくなるな」

「責任は全て私にあります」

「ここまで来て責任を背負い込むな。ルィルも含めて全員が負う業だろ」

「そうですよ。さすがに自分可愛さに逃げ出すような奴らはここにはいませんよ」

 日本が国土転移してからずっと活動してきた旧知の仲間だ。今更一人に責任を押し付けて逃げ出すような仲ではない。

 ルィルもエルマ達仲間を信じているから、裏切りを罵られても単身潜入捜査を買って出てくれたのだ。

 王室の一員にして別動隊の総責任者。さらに自身の性格から背負い過ぎる節があるが、そろそろ考えを改めないとならないかもしれない。


「ですね。ではこちらも仕込みを始めるとしましょうか」

「ある意味ここが最難関だな」

「けどここをクリア出来ればルィルさんへの最大限の援助になります」

 ルィルが敵地に赴く前から一連の計画はメンバー全員で考え抜いてあった。

 日本の言葉に敵を騙すにはまず味方からとある。チャリオスやバーニアンを騙すため、エルマ達はルィル以上の騙しを味方である母国にする。

 ユーストルをチャリオスに売る算段を付けるのだ。

 問題点はルィルがどこに配属されるかでエルマ達の行動ルートは左右されるが、予想された部署に配属された上にどのような業務内容なのかも発信器から知ることができた。

 バーニアンの手のひらにどこまで踊らされているのか、エルマ達には予測を上回ることは出来ないものの、今できる最善手を取ってルィルと言う駒を動かすしかない。

 これはチャリオスを盤上とした盤上遊戯だ。ルィルやティア達を駒としてエルマやバーニアンが動かし、目的を取って勝ちを得る。

 エルマ達の目的はテロ首謀者の逮捕。バーニアンの目的はユーストルの実効支配。

 その目的のために見えない盤上と見えない駒を使い、一進一退騙し騙されの攻防をするのだ。


「これからイルフォルンに行ってきます」

 ジェット旅客機もロケット旅客機も使えない、浮遊艇を使っての往来だ。

 テロ後一度目のイルフォルンでも往復で四日を費やしている。自動操縦で夜間も移動していても、四泊五日のほぼ移動漬けは堪える。

 しかしエミエストロンから隠れるにはこれしかない。

「誰か一緒に行かせるか?」

「いえ、王宮へは私しか入れないでしょうし、このレベルだと王室総会での話になると思います。誰が来ても同席はされませんね」

 ソレイ王はまだ幼い。王としての判断は総会の総意と言う形で下されるから、ユーストルをチャリオスに売るなら総会の通過は欠かせない。

 良くてつるし上げられ、悪くて王室資格はく奪だろう。

 それでも前向きな検討をするだけでも容認するよう仕向けなければならない。

「とりあえずここに戻ってこれることだけ祈っていてください」

 ルィルばかりに苦労は掛けられない。相応の労力も裏方もしなければならないのだ。

「では行ってきます」

 エルマは事前に準備しておいた旅行鞄を持って浮遊艇へと向かった。


      *


「桃田さん、今の天上自衛隊の軍備ってどれほど進んでます?」

「どれほど、と言いますと?」


 日本の総理官邸にて、若井総理、井河官房長官、桃田防衛大臣の三人は話し合いをしていた。

 安全保障会議とも違う低レベルでの話し合いで、若井総理は個別に大臣から各分野の説明を受けている。

 これは若井総理がキャリアとして若すぎるばかりに専門分野の知識が乏しく、それを補うために多忙の中出来た時間の中で勉強をしていた。

 若井総理の境遇は歴代総理の中で厳しく、国会で選ばれた訳でもなく自身も望んでなったわけでもない。国民の支持もない中での総理代行は国会では格好の的だ。

 まだ若さと言う武器が世論では多少の支持に繋がっても、それは同年代から若者で年上の多くが若いばかりに信頼できないとして不支持が多い。

 最新の世論調査でも支持は三割の六割が不支持。残り一割がどちらとも言えないと、内閣としてはデッドラインすれすれだった。

 幹事長を始め与党幹部は軒並み、今後のキャリアを考えたら退くべきと説得を試みてくる。幹部らからしても若井の失脚は元より、自分たちの地盤が崩れることを恐れてのことだが、若井は頑なに総理代行を降りない。

 テロ事件を解決するまでは降りない決意なため、それまでは時間を稼ぐためにも内外の評価を上げられるよう仕事をこなすしかなかった。

 適切な時に適切な判断が出来るように勉強の日々で、今回は天上自衛隊に関することだ。


「いざ防衛出動を掛ける時に出せる戦力の事です」

 エルマ曰く、チャリオスとの戦闘は必至とのことだ。

 ユーストル争奪戦となれば一部主権を持っている日本も黙っているわけには行かない。チャリオスだけでなくレーゲンやシィルヴァスと言った、ユーストルの利権を得たい国々も便乗する可能性もある。

 国家存続のため防衛出動が求められる以上、適切な戦力を把握するのは行政府の長として必須だ。


「……護衛艦の浮遊化は三隻。一隻が改修中です。浮遊化した護衛艦は第二護衛隊群第六護衛隊の〝きりしま〟〝たかなみ〟〝おおなみ〟〝てるづき〟で、イージス護衛艦〝きりしま〟が現在浮遊化の改修中です」


「イージス艦が最後なのは?」

「イージスシステムは日本防空の虎の子のシステムです。検証も無しに浮遊化をすることは出来ません。防衛省としては本年度中の改修も時期尚早だったのですが、佐々木元総理と笠原前総理の鶴の一声があって早まったのです。今のユーストルを考えると先見の明と言えますが」

「他に浮遊化する護衛艦は?」

「ありません」

「ない?」

「浮遊化及び実戦配備の時間は掛かりません。元々洋上での運用なため、高速移動に伴う慣性対処と低空ならば早期配備が可能です。ですが基地が須田基地にしかないため浮遊化を施しても、須田基地からしか離水出来ないんです」


 周知の事実として、共に転移して来た海はユーストルの境から気体フォロンが存在しない。

 いかに飛べるようにしても、ユーストルに船体を持っていかなければ飛べないのだ。

 現在日本の海で、ユーストル側に海を食いこませたのは須田町を挟むように二ヶ所に建設された東京側の須田基地と東北側の須田湾だ。その他の地方にはまだ建設はされていないから、その他の護衛艦隊の浮遊化をしても運用できない。そのため護衛艦は四隻にとどまったとのことだ。


「確か異地仕様の護衛艦の研究予算が計上されましたね」

「予算は組まれましたが、就航は十年後を想定しています。さすがに異地の飛行艦をコピーするわけには行きませんから、試験艦を一隻建造した後に様々な試験を経て空母クラス一隻、護衛艦クラス二隻、護衛基地一島を建造する構想です」

 最終的にはユーストル防衛のために空母三隻、護衛艦九隻の三つの護衛艦隊が護衛基地を母港として生まれるらしい。あくまで予算の都合に左右されるから、既存の護衛艦の浮遊化もと随時行われる。

 何であれ、艦船の戦力は四隻が限度だ。

「その他の戦力は?」

「戦闘機はF-15J約半数の浮遊化改修を施しています。戦闘機の浮遊化は継戦能力の向上に役立つため、実績と経験蓄積でまずはF-15Jを浮遊化。再来年を目途にF-22とF-35の第五世代戦闘機に着手します」


 若井は戦闘機の説明を受ける。

 戦闘機の最大の問題点が燃料を大量に、短期間で消費してしまうことだ。

 飛行機ゆえに飛行距離がそのまま時間となるが、速度によって距離も時間も激減する。

 浮遊化はその問題点を大幅に軽減する可能性を持ち、ジェットエンジンで飛行せずにレヴィロン機関で滞空出来ればその使い分けで三倍から四倍以上の出撃時間が確保できる。

 それでもステルス戦闘機であるF-22やF-35は数が少なく失敗が許されないため、数が多い第四世代が先行して浮遊化をしているのだ。

 レヴィロン機関は機体や船体のデッドスペースに後付けで設置出来る拡張性に優れており、既存の戦闘機でも滞空に主眼を置けば工期も三日で終わる優れものだ。


「天自の対潜ヘリはこの星だと無用の長物なので運用は控え、逆に陸自の攻撃ヘリや偵察ヘリには施しています。陸自は他に10式戦車と90式戦車の浮遊化をしており、すでに須田駐屯地にそれぞれ三十両ずつ配備しています」

「それらが主な戦力ですか」

「他に個人用浮遊スーツの開発やドローンなどもありますが、主力はそれくらいですね」

 戦車、護衛艦、戦闘機。陸海空の花形装備は一部隊分の浮遊化は果たし、その他の浮遊化も随時進めている。

 決して戦えないわけではないが、軍にそこまで精通していない若井でも懸念は分かっていた。

「異地での戦闘での訓練はどうですか? 国防軍は戦えますか?」

 国会や会見では断じて言えないが、この場で咎める者は誰もいない。

「異地艦隊との戦闘訓練そのものはラッサロンの協力で積んではいます。ですが純粋に戦力不足で一艦隊ならともかく天空基地規模ではまず勝ち目はありません」

「その時はイルリハラン軍との共闘ですか」

「ええ、ですが元々ユーストルはイルリハラン王国の領土ですので、そこは率先して出るでしょう」

 一応日本もユーストル条約によってユーストルの秩序を守るため国防軍の行動が無制限で許されている。だが主権はイルリハラン王国にあるから、脅威が迫ればまず出撃するのはイルリハラン軍だ。


「戦力としては乏しいか……」

「こればかりは時間も予算も支持ありませんので」

 何であれ転移してから六年で地球時代のような戦力を確保することは困難と言うことだ。

 今後予想される有事の際には浮遊化した現有戦力でユーストル内で活動し、残りは国内防衛に専念することになるだろう。

「個人的に言えば国防軍の全装備を浮遊化したいところですけどね」

 官房長官も防衛大臣も、バーニアンの真相は知らないがチャリオス幹部が容疑者であることは知っており、エシュロンの上位互換のエミエストロンの存在も知っていた。

 だからこそ計画外の改修を指示することが出来ないのがもどかしい。

「それをすれば予算会議で野党の格好の的になります」

「分かってますよ」


 チャリオスのことを話したことで官房長官と防衛大臣、星務大臣は一応の若井の支持をしてくれるようにはなったが、それ以外の閣僚や与党は若井の総理代行に懐疑的だ。

 水面下で引きずり落とそうと虎視眈々と狙っている。

 とはいえチャリオスのことを知る人間が増えれば情報漏えいする確率が上がってしまう。

 ただでさえ別動隊を組織するのにAE込みとはいえ情報を広めたのだ。これ以上は増やせず、若井自身の技量で抑圧するしかなかった。


「やはりせめて閣僚には話すべきでは? 内閣で分裂しては瓦解も時間の問題ですぞ」

「いや、それは止めた方がいいでしょ井河さん。国交相と農水相は幹事長派閥の人ですよ。高確率で情報漏えいしかねない。携帯電話を掛けるだけで察知されるなら言わないべきだ」

 AEは個々の通信機器にインストールをしなければ意味がない。閣僚に説明してインストールをしたところで、他の者に示唆でもしてさらに他に広まればそれで終わりだ。

 完全に情報をコントロールをするなら少人数かつ誰にも話さない選択を取るしかない。


「若井総理、対策は考えた方がよろしいですぞ」

「対策?」

「情報が知られた時の弁明です」

 政治家は言い訳をするのも仕事の一つ。いや主な仕事とも言える。

 チャリオスの幹部がバーニアンであることを含め、エミエストロンなどが広まった時の合理的な説明ができるよう準備するべきと井河官房長官は言っているのだ。

「一応国民に公表する釈明は考えてます。使わないのが一番ですが」

「原稿を拝見しても?」

「いえ、もう少し推敲したいので待ってください」

「……分かりました」

「総理、そろそろお時間です」

 ノックが数回の後執務室のドアが開き、秘書官が顔を覗かせて来た。

 勉強会はここまでだ。


「分かった。すぐに行く」

「では私たちも仕事に戻りましょう」

「ですな」

「ありがとうございました。またお願いします」


 総理が指名した大臣に頭を下げるのはまずないことだ。

 目上の者が目下の者に諂うのは対外的に面子の丸つぶれ。端的に総理の役職に泥を塗る形だが、若井は良くも悪くも若かった。そしてこの場には若井を知る者しかいない。

 だからからこそ官房長官も防衛大臣も特に何も言わず、総理執務室を後にした。

 内心はどうあれ、秘密の一部を知ってしまった以上逃げることは許されない。官房長官も防衛大臣も泥船で漕ぐしかないのだ。

 若井総理は内心申し訳ないと思いつつ、逃げ出せない重荷を常に覚えながら書類を片付けた

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です。 着々と整備が進む防衛装備・・・・ とはいえ、予算編成を牛耳る財務省と野党の攻撃をかわしながらの整備でそこそこの数も、いざ『実戦』となるとまさに『戦いは数だよ兄貴』の言に…
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