風間瞬 2
「能力者から能力を奪い取れるなんて……まるでダークヒーローみたい!!」
女は楽しそうに笑った。
俺はその言葉に返事をすることもできず、ただ半透明になった右腕を見つめる。
頭の中が真っ白だった。
理解が追いつかない。
だが、一つだけはっきりしていることがある。
この女を、このまま野放しにはできない。
震える左手で無線機を取り出す。
「こちら風間。応援を要請する。至急、XX町一丁目の住宅へ」
声がかすれる。
それでも俺は、最後まで状況を伝えた。
数分後。
住宅街にサイレンの音が近づいてきた。
赤色灯の光が窓を赤く染める。
パトカーが次々と家の前へ停まり、多くの警察官が現場へ駆け込んできた。
その間も、玄関先で八雲は京を抱き寄せていた。
京は声を上げることなく涙を流している。
八雲は何も言わない。
ただ、その小さな体を強く抱きしめ続けていた。
リビングへ戻ると、女が警察官たちに囲まれていた。
手錠を掛けられ、玄関へと連れていかれるその背中を、塩谷が呆然と見つめていた。
やがて塩谷は、震える声で口を開く。
「雨音、ずっと俺をだましていたのか!?」
女はゆっくり振り返った。
そして、どこか哀れむような笑みを浮かべる。
「ええ」
短く答える。
「あなたを愛してなんかいない」
玄関を出て、一歩、また一歩とパトカーへ向かいながら続ける。
「私は、私を愛してる」
女は上を向きながら言う。
「愛してる!」
もう一度。
「愛してる!!」
さらに繰り返す。
「愛してる……愛してる……愛してる……愛してる愛してる愛してる!!!!」
その声は次第に高くなり、やがて笑い声へと変わっていく。
「きゃはははははははっ!!!」
住宅街に不気味な笑い声が響き渡る。
「雨音」
八雲が片手で女の腕をつかむ。
「どうしたの?」
「俺はお前を許さない」
八雲が冷たい口調で言った。
「そうやってずーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっと、私を覚えてて、ね?」
女はそう言うと、自らパトカーの後部座席へ乗り込んだ。
ドアが閉まる。
赤色灯が静かに回り始める。
俺はその光景を、ただ立ち尽くしたまま見送っていた。




