風間瞬 3
女を乗せたパトカーが走り去り、住宅街は静けさを取り戻した。
俺はふと、自分の右腕へ視線を落とす。
さっきまで半透明だった腕は、何事もなかったかのように元の姿へ戻っていた。
俺は何度も手を握ったり開いたりする。
異常はない。
「……能力者…か…」
誰に言うでもなく、小さく呟いた。
俺はリビングへ戻る。
塩谷はソファーに腰を下ろしたまま、うなだれていた。
信じていた相手に裏切られた現実を、まだ受け止めきれていないのだろう。
俺は静かに口を開く。
「塩谷…」
塩谷はゆっくりと顔を上げた。
「…なんだ?」
「俺とお前で、新しい組織を作る」
「……え?」
「能力を持つ者を取り締まる組織だ」
俺は窓の外を見つめながら続ける。
「特別収容施設を造る。能力者はそこで保護・収容し、二度と同じ悲劇を繰り返させない」
俺は自分の右手を見つめる。
「あの女が言ったとおり、俺のこの力で能力を奪い取れるなら、能力がある者の能力を奪い無力化する、その役目は俺が担う」
塩谷はしばらく黙っていた。
やがて、小さく頷く。
「……風間。前に彼女が言っていたんだ。透明人間になって、人の身体の中に入れると…。
さっき、お前の右腕を見てわかった…。冗談だと思っていたんだが…、本当だったんだな…」
その言葉には、不安と覚悟が入り混じっていた。
俺は玄関へ向かった。
京を支え続けていた八雲が、静かにこちらを見る。
「八雲」
俺は真っすぐ八雲を見据えた。
「これから京は、俺が面倒を見る」
八雲の表情が険しくなる。
「お前は刑務所で、自分の罪と向き合え」
八雲は何も答えない。
俺は続ける。
「零についても同じだ。探偵を使って養親を探し、居場所を特定する。あの子も必ず保護する。
だから心配はいらない」
「京と零は……俺の子だ」
八雲が低い声で言う。
俺は一歩近づいた。
「本当に、そう言い切れるのか?」
八雲の眉が動く。
「……なんだと?」
「DNA鑑定をしない限り、真実は誰にも分からない」
玄関先に重い沈黙が落ちる。
俺は八雲から目を逸らさなかった。
「殺し屋の子供と警視長の子供、どちらが幸せな人生を歩めるか…考えなくともわかるだろ」
八雲は何も言い返さなかった。
ただ京の肩に置いた手に、静かに力を込めるだけだった。




