風間瞬 1
京の後を追い、俺と八雲は歩道を歩く。
京は一度も振り返らない。
そのまま迷いなく住宅街を進み、一軒の小さな家の前で足を止めた。
その瞬間だった。
京は体から力が抜けるように、その場に崩れ落ちる。
「京!」
八雲が駆け寄り、倒れる寸前の体を抱き留めた。
俺は京を八雲に任せ、迷わず玄関のインターホンを押した。
ほどなくして扉が開く。
「風間……?どうした……?」
寝間着姿の白髪まじりの中年の男。
姿を現したのは、同僚の塩谷だった。
俺は塩谷の肩を押しのける。
「話はあとだ。そこをどけ」
「お、おい!」
制止する声を無視し、俺は家の中へ踏み込んだ。
リビングの扉を開けた瞬間、息をのむ。
ソファーに一人の女が座っていた。
寝間着姿、腰まで届く金髪のロングヘアの女…。
20代くらいのその女は、静かな笑みを浮かべ、まるで俺が来ることを知っていたかのように見つめている。
「ようやく会えたね、瞬」
その声を聞いた瞬間、胸の奥で何かがざわついた。
俺は拳銃ではなく、腰の手錠へ手を伸ばす。
一気に距離を詰め、女の両手首へ手錠をかけた。
金属音が部屋に響く。
「やめろ!」
背後から塩谷が飛びかかってくる。
「彼女が何をしたっていうんだ!」
俺は振り向きざまに塩谷を突き飛ばした。
塩谷は床へ倒れ込み、驚いたように俺を見上げる。
俺は女から目を離さない。
「雨音、お前は人間じゃない」
自分でも驚くほど低い声が出た。
「化け物だ」
女は手錠を見下ろし、くすりと笑う。
「私に手錠をかけるなんて、無駄なことするのね」
「……何?」
「幽霊みたいに、すり抜けられること、まだわからないの?」
次の瞬間、俺は反射的に女の腕を掴んだ。
逃がしてはいけない。
ただ、その一心だった。
触れた瞬間。
全身を、言葉では表せない奇妙な感覚が駆け抜ける。
冷たいような、熱いような。
電流にも似た何かが、女の腕から俺の体へ流れ込んできた。
「……っ!」
思わず腕を離し、後ずさる。
「なんだ……これは……?」
自分の右腕へ視線を落とす。
そこにあったのは、信じ難い光景だった。
肘から先が、薄く透け始めている。
肌の向こうに、壁の模様がぼんやりと見えた。
「なっ……」
俺の喉が震える。
女は目を丸くしたあと、嬉しそうに微笑んだ。
「私から能力を奪ったの!?」
その声は弾んでいた。
「瞬も能力者だったの!?」
「違う!!!」
俺は思わず叫ぶ。
半透明になった腕を見つめながら、必死に首を振る。
「違う……俺は、化け物なんかじゃない……」
だが、その言葉とは裏腹に、目の前で起きている現象は、俺自身の常識を静かに壊し始めていた。




