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6

あれから十年の歳月が流れた。

街の景色は変わり、人々の暮らしも移り変わった。


だが、俺だけは、あの日から止まった時間の中を生き続けていた。

古びたマンションの一室。

朝日が薄いカーテンを透かし、静かな部屋を照らしている。


部屋の片隅には、一人の子どもが立っていた。

十二歳の子供。

長く伸びた髪に、中性的な顔立ち。

誰が見ても少女だと思うだろう。


俺はボロボロのソファーに腰掛けたまま、その姿を見つめる。


「あの女に……似てきたな」


子供は何も答えない。

表情も変えず、ただ俺の言葉を受け止めている。


俺が連れ去った子供は、女の娘だと思った。

だが、それは違った。


俺があの日、施設から連れ出したのは双子の片割れの娘ではなく、息子だった。

それでも、女の子供の髪を伸ばし、女物の服を着せ続けることで、子供は俺の理想の女の姿になっていった。


俺はソファーに腰掛け、ぼんやりと窓の外を眺める。

子供は何も言わず、部屋の隅に立っている。


女の子供と過ごして十年。

長かったような、短かったような時間だった。

過ぎ去った時間に想いを馳せていた、そのとき、不意に玄関の扉が蹴り開けられる。


俺はゆっくりと顔を上げる。


「……くそっ」


玄関には二人の男が立っていた。


風間…。

高価であろう黒いスーツを身に纏った、黒髪の中年の男…。

かつて刑事だった俺の元同僚だった。


その隣には黒いコートをまとった片腕がない殺し屋の男。

あの女を愛し、あの女に愛された男だった。


男が俺には目もくれず、真っすぐ子供のもとへ歩いていく。


「もう大丈夫だ」


その一言だけを子供に告げると、子供は少しだけ表情を揺らし、殺し屋の後ろへと身を寄せた。


俺は何も言わなかった。

いや、言えなかった。

もう終わりだと分かっていたからだ。


おそらく、風間と殺し屋の男はずっと、あの女の子供を探し続けていたのだろう。


風間がゆっくりと拳銃を抜く。

その銃口は真っすぐ俺へ向けられていた。


「田中。動くな」


昔と変わらない声だった。

冷静で、迷いがない。


「ずいぶん偉くなったじゃないか、風間」


俺が笑うと、風間は表情一つ変えなかった。


「両手を背中へ回せ」


俺は素直に従った。

抵抗する気はなかった。

手首に冷たい金属の感触が伝わる。


カチリ、と手錠が閉まる音が、妙に大きく聞こえた。


「田中。児童誘拐の容疑で逮捕する」


その言葉を聞いた瞬間、胸の奥にあった張り詰めた糸が切れた。


「……ははっ」


笑いが漏れる。

止まらない。


「ははははっ!」


自分でもおかしかった。

こんな終わり方になるなんて。

風間は黙って俺を見つめている。


「聞きたいんだろ?」


俺はそう言って、風間を見た。


雨音(あまね)ってお前が名付けた女のこと、全部話してやるよ」


もう隠す理由はない。

一度も忘れることがなかった記憶…。

連続殺人事件の容疑者だった女と出会ったこと。


あの女の計画に加担(かたん)して、風間と女を監視していたこと。

嫉妬に取り憑かれ、正義を捨てたこと。

女の子供を連れ去り、十年間、自分の過去から目を背け続けたこと。

<女を自らの手で殺した>それ以外のことを俺は一つ残らず、自分の口で語り始めた。






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