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あれから十年の歳月が流れた。
街の景色は変わり、人々の暮らしも移り変わった。
だが、俺だけは、あの日から止まった時間の中を生き続けていた。
古びたマンションの一室。
朝日が薄いカーテンを透かし、静かな部屋を照らしている。
部屋の片隅には、一人の子どもが立っていた。
十二歳の子供。
長く伸びた髪に、中性的な顔立ち。
誰が見ても少女だと思うだろう。
俺はボロボロのソファーに腰掛けたまま、その姿を見つめる。
「あの女に……似てきたな」
子供は何も答えない。
表情も変えず、ただ俺の言葉を受け止めている。
俺が連れ去った子供は、女の娘だと思った。
だが、それは違った。
俺があの日、施設から連れ出したのは双子の片割れの娘ではなく、息子だった。
それでも、女の子供の髪を伸ばし、女物の服を着せ続けることで、子供は俺の理想の女の姿になっていった。
俺はソファーに腰掛け、ぼんやりと窓の外を眺める。
子供は何も言わず、部屋の隅に立っている。
女の子供と過ごして十年。
長かったような、短かったような時間だった。
過ぎ去った時間に想いを馳せていた、そのとき、不意に玄関の扉が蹴り開けられる。
俺はゆっくりと顔を上げる。
「……くそっ」
玄関には二人の男が立っていた。
風間…。
高価であろう黒いスーツを身に纏った、黒髪の中年の男…。
かつて刑事だった俺の元同僚だった。
その隣には黒いコートをまとった片腕がない殺し屋の男。
あの女を愛し、あの女に愛された男だった。
男が俺には目もくれず、真っすぐ子供のもとへ歩いていく。
「もう大丈夫だ」
その一言だけを子供に告げると、子供は少しだけ表情を揺らし、殺し屋の後ろへと身を寄せた。
俺は何も言わなかった。
いや、言えなかった。
もう終わりだと分かっていたからだ。
おそらく、風間と殺し屋の男はずっと、あの女の子供を探し続けていたのだろう。
風間がゆっくりと拳銃を抜く。
その銃口は真っすぐ俺へ向けられていた。
「田中。動くな」
昔と変わらない声だった。
冷静で、迷いがない。
「ずいぶん偉くなったじゃないか、風間」
俺が笑うと、風間は表情一つ変えなかった。
「両手を背中へ回せ」
俺は素直に従った。
抵抗する気はなかった。
手首に冷たい金属の感触が伝わる。
カチリ、と手錠が閉まる音が、妙に大きく聞こえた。
「田中。児童誘拐の容疑で逮捕する」
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥にあった張り詰めた糸が切れた。
「……ははっ」
笑いが漏れる。
止まらない。
「ははははっ!」
自分でもおかしかった。
こんな終わり方になるなんて。
風間は黙って俺を見つめている。
「聞きたいんだろ?」
俺はそう言って、風間を見た。
「雨音ってお前が名付けた女のこと、全部話してやるよ」
もう隠す理由はない。
一度も忘れることがなかった記憶…。
連続殺人事件の容疑者だった女と出会ったこと。
あの女の計画に加担して、風間と女を監視していたこと。
嫉妬に取り憑かれ、正義を捨てたこと。
女の子供を連れ去り、十年間、自分の過去から目を背け続けたこと。
<女を自らの手で殺した>それ以外のことを俺は一つ残らず、自分の口で語り始めた。




