表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
13/14

八雲 2

柊結衣(ひいらぎゆい)だ」


その名前を口にした瞬間だった。

零の瞳が大きく揺れる。

ぽろり、と一粒の涙が頬を伝い、そのまま床へ落ちた。

零は何も言わず、俺に背を向ける。

肩が小さく震えていた。


「……零」


俺は鉄格子によりかかる。


「こっちに来い」


零はゆっくりと振り返る。

涙を拭うこともせず、一歩ずつ俺のもとへ歩いてきた。

俺は牢屋の隙間から左手を伸ばす。

そして、零の頭をそっと撫でた。

柔らかな髪の感触が指先に伝わる。


ずっと触れたかった。

話したかった。

それがようやく叶った。


「……京は元気か?」


零は小さく頷く。

それだけで十分だった。

京は生きている。

それだけで救われる気がした。


俺は零を見つめながら、静かに話し始める。


「零。よく聞いてくれ」


零は真っすぐ俺を見つめ返す。


「俺は殺し屋だった」


その言葉に、零は驚いた表情を見せる。


「だから今も、命を狙われている人間だ」


俺は一度目を閉じる。


「外では、俺が父親だと言うな」


零は息をのむ。


「お前たちまで危険な目に遭うかもしれない」


それだけは避けたかった。

父親として、最後まで守りたかった。

零は涙を拭い、小さく頷く。


「……うん、わかった」


短い返事だった。

だが、その一言には強い決意が込められていた。


「もう行かなきゃ…。見回りの人に見つかっちゃう。

早く、風間さんのところに戻らないと…」


零はゆっくりと鉄格子から離れ、扉の方へ歩き始める。

数歩進んだところで立ち止まり、振り返った。

少しだけ笑って言う。


「また来るね」


一呼吸置いて。


「お父さん」


その一言が、胸の奥深くまで染み渡る。

俺は何も答えられなかった。

零が去り、足音が遠ざかっていく。

静まり返った牢の中で、俺は一人うつむく。

頬を伝う涙は、もう止めることができなかった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ