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第2話 進展のない関係


 シオシオになった部長が、ソファーで寝ている。

 その顔を朝日が照らすのを見るたび、私はいつも、不思議な気持ちになる。


「推しが死んだので会社を休みます」と言ってから、部長とは週末になるたび映画を一緒に見に行く仲になった。

 最初に行った映画は、もちろん我々の推しが死んだ映画だ。

 電話口から察していたが、私の推しは部長の推しでもあった。

 その死をなんとかして受け入れるべく、私たちはその後毎晩レイトショーに出かけ、そのたび傷つき、自分を奮い立たせ、25回目にしてようやくすべてを受け入れた。

 おかげで寝不足になり、私はミスを連発したが、職場での部長は疲れと悲しみを顔には出さず、完璧に仕事をやり遂げていた。

 だが今思うと、きっとあの頃の部長も心はシオシオだったのだと思う。


 でも私たちはなんとか、推しの死を乗り越えた。時間はかかったが、この先もシリーズを追いかけよう。推しが残した未来を見届けようと、そんな気持ちになっていた。

 そうこうしているうちに見たかった別の映画がたまり始めた。

 手始めにジェイソンステイサムが無双する映画に行くことにすると、なぜだか部長もついてきた。

 単館系映画がものすごく似合う顔と雰囲気をしているくせに、部長は物理ですべてを解決するような映画がとても好きらしかった。

 それは私も同じで、見たい映画が軒並みかぶり、気づけば週末になるたび一緒に映画を見に行くようになっている。


 それを3年も続けば飽きる……のが普通なのかも知れないが、奇しくも私も部長も大の映画好きだった。

 基本的には派手なアクション映画やヒーロー映画が好きだが、ジャンルや国を問わず見たい映画があれば都内の映画館をはしごするレベルの映画好きである。

 そして可能なら公開日に、出来るだけ大きなスクリーンと良い音響で診たい派である。

 となると作品だけでなく、行きたい時間とスクリーンまで合致するため、我々の間には「あれ見に行く?」という確認さえ発生しない。


『21時、丸の内ピカデリー』

『朝8時、TOHOシネマズ新宿』


 などと時間と場所を送ったときには、既に送信した方がチケットを抑えている。


 ちなみにふたりとも、映画はど真ん中前寄りで見たい派なので、席で揉めることはない。

 ただ部長は長身なので、後ろの妨げにならないよういつも身体をちっちゃくしている。

 つらくないかと聞いたこともあるが、「一番迫力のある場所で見たい」と言い、必死にシートに沈み込んでいる。

 とはいえさすがにつらそうなので、最近は私の年収も上がったこともあり、シアターによってはプレミアムシートをとるようになった。

 ちなみに、映画代は自分で自分の分を出すスタイルだ。

 私は、趣味にはしっかりとお金を使いたいタイプであり、むしろ映画に行くために働いているような物だ。

 だから絶対に払わせたくない!! という頑なな意志を、部長は察しているらしい。


 ただ、ポップコーンなどの食べ物はおごって貰っている。

『そういうところは遠慮しないんだな』と言われたが、浮いた分でグッズやパンフレットを買いたいし、昨今は動画配信サイトの課金だって馬鹿にならないので甘えている。

 そしてそういう私のずるさを、部長はすんなり受け入れてくれた。


 むしろ私のほうが、仕事場とは全く違う部長を受け入れることに時間がかかった気がする。

 部長は映画を見ているときだけ、感情が豊かだ。良く笑うし泣いたりする。

 後に聞いた話によると、部長が感情を殺しているのは処世術だそうだ。

 なにせ部長は、小さな頃からとにかく顔が良かった。故に、ちょっと微笑んだだけで、相手を片っ端から恋に落としていたらしい。

 同年代はもちろん大人から変態まで、ありとあらゆる物が部長に魅了された。そのせいで煩わしい人生を送ってきたらしく、少しでも相手に好かれないようにと考えに考え抜いた結果「そうだ、T-1000になろう」と思ったらしい。

 ちなみにT-1000とは、私と部長が大好きな映画『ターミネーター2』に出てくる液体型ターミネーターのことである。

 あの笑わない男をみて、自分もこうなろうとジョンコナーなみに美しかった思春期の部長は決めたのだ。

 とはいえ感情を殺しても美形は美形。異性同性問わず熱い眼差しを向けられることも多い。

 そうした目を退けるためにも、部長は私を映画仲間に選んだのだろう。

 私たちはいつしか「お付き合い」していることになり、職場でも公認の仲だ。

 また部長は映画館でもすぐ声をかけられるため、私たちはいつもくっつき、手を繋いで歩いている。

 その距離感の近さに最初は戸惑った。部長はいつも良い匂いがするし、手もおっきくて、近くにいるとなんだか妙に意識してしまう。

 ただ、映画館だけでなく家でも一緒に映画を見るようになっても、その映画にどエロいHシーンが出てきても、そういう雰囲気にはならなかった。

 そうしているうちに「そういう展開はないんだな」と私は察し、以来平然と部長と接することが出来るようになった。


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