第1話 イケメンもシオシオになる
悲壮。
その二文字を背負った部長を見た瞬間、私の脳裏に「ちーん」という仏具の音が響く。
そんな姿をみながら、私は紙コップに僅かに残ったオレンジジュースを「ずぞぞ」と吸った。
「……立てます?」
「……立てると思うか?」
「だから言ったじゃないですか、あのキャラ絶対死ぬって」
「今、死ぬとか……言うな……」
切れ長の目を潤ませながら、部長が私をジト目で睨む。
そんな顔さえ絵になる美形だなと思いつつ、私は隣の席に置いていたコートを羽織った。
かつては「うっ、目が……」と彼の美しさに臆したが、さすがに3年も側で見ていれば目も慣れてくる。
「ほら、掃除の人困ってるんで帰りますよ」
「無理だ、立てない」
「立てなくても立って下さい」
駄々っ子のようになっている部長にコートを着せ、ポップコーンとドリンクの空き容器がのったトレーを持ち上げる。
そして無駄に高い革靴を蹴っ飛ばせば、部長はふらつきながら歩き出した。
悲壮感さえも美しく纏う部長に、すれ違った掃除係のお姉さんが見惚れている。
わかる。わかるよ。
この男、顔が良いよね。うんうん。
などと考えながら、私はふらつく部長に「トイレ行きます?」と声をかけた。
推しの死に打ちひしがれた部長は「いく」と頷き、ふらふらと男子トイレの中に消えていく。
あんな状態で排泄など出来るのだろうか……などと下世話な心配をしながら、私は空き容器をゴミ箱に捨てる。
本当ならもう一本このあとに映画を見る予定だったが、あの様子ではとてもではないが無理だろう。
とりあえずお酒を買って、今日は朝まで部長を慰める回だな……と考えていると、不意に手をギュッと握られた。
「手、ちゃんと洗いました?」
「俺をなんだと思ってる」
「好きになったキャラがもれなく死ぬ男」
「……今回は、大丈夫だと思ったんだ」
全然大丈夫じゃないし、過去いち死亡フラグが立っていた。
そう思ったが、今にも泣きそうな顔をしているので黙っておいた。
「とりあえず、下でたこ焼きでも買って帰りましょうか」
「ドーナッツも買おう」
「部長の死んだ推し、あのドーナッツ好きでしたよね」
「思い出させるな」
「いや、思い出して追悼しないとまた引きずりますよ」
部長は、見た目に寄らず引きずるタイプだ。
普段は感情を表に出さず、人の心を知らないターミネーターみたいに振る舞っているくせに、心はすぐ実写版ピカチューのようにシオシオになってしまう。
そして最近は、私の前限定だが顔もシオシオになるようになった。
今もどんどんシオシオになっている。
「とりあえず、帰って飲みますか」
「……飲む」
「ビールまだありましたっけ?」
「買い足した。だから、朝までいてほしい」
「今日見れなかった映画、明日見に行きたいんですけど」
「明日、夕方一緒に行こう」
「一日で立ち直れます?」
「立ち直る……」
全くもって説得力がなかったが、この状態の部長を放置することも出来ず、私は繋いだ手を引っ張って歩き出した。




