第八話 マーケット街の反乱
近頃、マーケット街ではそこら中でため息が聞こえていた。
「今でも税が五公五民だ」
「それでも暮らしはきついのに」
「通行料なんて新しい税、他では聞いたことないぞ」
「今の領主は酷すぎる」
「通行料を入れると六公四民だ!」
「もう限界だ!」
日に日に、ため息が憤りに変わっていっていた。
「九年前の領主は良かった。あの疫病さえなければ……」
「そうだ。今の領主になってから、だんだん税が上がっていったんだ」
「領主を追い出せば、また新しい領主が来るんじゃないか?」
「今の領主より、きっとマシになる!」
「そうだ!」
「領主を追い出せ!!!」
様子をみようという商人たちの声は、もはや届いていなかった。
怒りに身を任せた商人たちが、群れをなしていた。
「領主を追い出せ!!!」
「領主を追い出せ!!!」
マーケット街に声が響いた。
店の中にいても聞こえてくる怒涛の声に、サムが飛び出した。
「何事だ?!」
ショウ、ケイトも後を追って外に出た。
叫びながら駆けていく群衆がいた。
商人たちは、売り物の鍬、隙、包丁、鉄のフライパンや箒、思いつく限りの武器になりそうなものを持っていた。
大声をあげながらマーケット街の巨大な門を飛び出していった。
「早まったことを……」
サムの呟きをケイトは聞き逃さなかった。
「領主に逆らったら、みんな、どんな目に合うか。俺、止めてきます」
「ケイト!もう止められない。危ないから止めるんだ!」
「まだ、間に合うかも!」
「ケイト!」
ケイトは、群衆の方へ走っていった。
ショウは店の中に飛び込むと、二階へ一気に駆けあがった。
部屋から棒を掴むと、猛スピードで外に出た。
「俺が行きます」
サムに一言だけ告げると、ケイトの後を追った。
「頼む!!!」
背中でサムの声を受け止めながら、駆けて行った。
「領主を追い出せ!!!」
「領主を追い出せ!!!」
叫び声をあげながら群衆は、一気に領主の館までなだれ込んだ。
ケイトも群衆の後方に追いついた。
「領主を追い出せ!!!」
「領主を追い出せ!!!」
領主の館の前で、群衆は叫び続けた。
大騒ぎに気づき、領主の館の後ろから兵が二十数名ほど走ってきた。
兵たちは、剣と盾を構え、館を守るように立ちふさがった。
ジャキン――
剣と盾の無情な金属音が響いた。
群衆は一瞬たじろいだ。
緊迫した空気が流れた。
その時、ケイトが群衆と兵の間に走ってきた。
「待って!領主に逆らったらだめだ!みんな、ひどい目に合う!戻ろう!」
兵を背に、群衆に向かって説得しようとしていた。
「俺たちはもう我慢ならんのだ!」
「そこをどけ!」
群衆の前方にいる商人たちが大声で言った。
追いかけてきたショウが、ケイトを庇うように前に出て叫んだ。
「何もかも失うぞ!」
商人たちは、ぐっと黙り込んだ。
魔獣の件で、商人たちはショウのことを一目置いていた。
「そうだ!まだ手を出していない今なら引き返せる」
ケイトが必死に叫んだ。
商人たちは顔を見合わせた。
一旦ここは引き下がろうか。と言うものも現れた。
――ギィ。
館の扉が開いた。
「なんの騒ぎだ」
その場にいる全員が扉の方を見た。
――領主だ。
その場にいる誰もが分かった。
背の低い男性は、煌びやかな服に身を包んでいた。
手に首に宝飾品を纏っていた。
まるで、自分がこの領地の主役だと言わんばかりの姿だった。
ゆっくりと階段を降りてきた。
兵はサッと道を空けた。
「商人ごときで私に逆らうなど……腹正しい」
歩きながら、ねっとりした視線で群衆を見回した。
「ふん、お前で腹の虫をおさめるか」
ぐぃっとケイトの首元を掴んだ。
地面へと叩きつけた。
ケイトはバランスを崩し、地面に倒れ込んだ。
領主は、サッと腰の剣を抜くと振り上げた。
――また無二の友を失うというのか!
ショウの目の前の全ての動きが止まった。
鼓動が高鳴った。
――また?
ショウは目の前で、ケイトが領主に斬られそうになったその瞬間、自分の頭の中で反芻された言葉に戸惑った。
なぜ「また」と思うのだ?
以前にも同じことがあったというのか?
どういうことだ?
いつだ?
高鳴っていく鼓動。
一気に頭に上っていく熱。
浅く速くなる呼吸。
――その間、コンマ数秒。
まるで堰を切ったかのように全てが理解できた。
奪われた悔しさ、憤り、憎しみの感情に体中が満ちていた。
目の前止まった全ての動きが、再び動き出した。
領主が剣を振り下ろしていた。
バチンッ!!!
ショウは、地面に倒れ込むケイトと領主の振り下ろす剣の間にいた。
ショウの持つ棒が、振り下ろす剣を止めていた。
ぐっと力を込め、剣ごと領主を弾き飛ばした。
領主は、よろけながらも倒れることなく後ずさりした。
刹那の速さに兵たちも動けずにいた。
商人たちも声を出すこともできず、見ていることしかできなかった。
ショウは守るようにケイトの前に立ち、棒を振ると領主に向けた。
「二度と友を失う気はない」
全ての記憶が蘇っていた。
ケイトを商人たちを守らなくてはいけないという使命感が湧き上がってきた。
胸の奥が熱くたぎっていた。
――そうだ。私は国王だったのだ。




