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月の剣:奪われた王家本流への返り咲き  作者: 伊路八


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第三十話 紋章

「入れ」


 はじめてこの部屋に来た時と

 同じ穏やかな声が聞こえてきた。


 憤りを隠しきれないケイシー騎士の表情に

 良くない状況だろうと推測するのは容易かった。


 ケイシー騎士が貿易街に向かいここに戻るまでの一部始終の話を

 フィンリー竜騎士は、座ったまま黙って聞いていた。


 ケイシー騎士は、報告のために発する言葉に嫌悪感を覚えた。

 話し終えると思わず、反射的に言ってしまった。


「命を何だと思っているのか。恐ろしい。そんな考えの人がいるなんて。今の王家はいったいどうなっているのだ?」


 その言葉に同調も反論もすることなく

 フィンリー竜騎士は、ゆっくり立ち上がり、

 ケイシー騎士、ショウ、ケイトのところへ少し近寄った。


「そのマヤという少女の聞いた言葉が確かだとしたら、セキ村を襲ったのはアラン王子の指示であり、赤魔女とセバスティ大典守には何か計画があるようだ」


 フィンリー竜騎士は、話しながら何かを考えているようだった。

 王に面会に行った後、偶然アラン王子と城の中で出くわした時のことを思い出していた。

 アラン王子の言葉を思い出し、気分が悪かった。

「もう王に報告に来たのか。献身的だな」

「何の報告か分かるのですか?」

「ふん……セキ村のことだろう。復興が必要か?そのままにしておいてもよいのだぞ。王家には、いつでも一夜で焼き払える力があるという見せしめになるものを……」

 そう吐き捨てて、去っていったのだった。


 フィンリー竜騎士は、慎重に話を続けた。


「……王からセキ村の再建と支援の許可をもらったが、あの様子だと王は何も知らないだろう。きっと、アラン王子の独断だろう……戴冠式まで後、半年か……これ以上、国が荒れるのは防ぎたいものだな」


 ケイシー騎士、ショウ、ケイトは、何も言葉が返せなかった。


「それと……ツキミ姫の話によると、扶桑国の王家の血が流れるものだけが魔獣を操れるということなんだね。ショウがなぜ、魔獣を操れるかは分かったのかな?」


 ショウはドキリとした。


 しかし、この時はもうショウの心は決まっていた。


 はじめは、家の名誉を取り戻そうと十三村を出たが、

 ここに来るまでに230年前よりも、

 ムン王国が荒れている様子を目の当たりにし、

 悔しくてたまらなかった。


 ――自分が国王ならば、こんな事態にはしない。


 しかし、この大きな問題を一人では解決できない。

 この先、国を治めるには仲間を信頼し任せることも必要なのだ。


 信頼してもらえるから……では、ないのだ。

 まずは、私から信頼をしなくてはならない。

 私も誠実であり続けなければならない。


 ショウは、ケイトに話したことを全て話すつもりでいた。


「なぜ私が、魔獣を操れるか……その理由をお話しします」

 ショウはケイトを見て頷くと、

 フィンリー竜騎士、ケイシー騎士を見て話し始めた。


 岩の紋章のこと、指輪のことを話した。

 先祖はムン王国本流であったこと、そして、その座を分家に奪われたこと、農奴に貶められたこと。

 その理由を知るため、本流の座を取り戻すために、十三村から抜け出してきたことを話した。


 そして、230年前の反乱のことを話した。

 ビュー家のレイナ公妃が、赤魔女たちと反乱を起こし、ルース家のムン王国23世であった国王を暗殺したこと。

 王家の紋章も変えられ、ルース家の全ての記録も消され、国王の家族だけが農奴とされてしまったこと。


 ショウは、首元から服の中に手を入れた。

 長い紐を通して首にぶら下げていた指輪を取り出して見せた。


「この月と王冠がルース家の……本来のムン王国の紋章です」


 フィンリー竜騎士とケイシー騎士は、指輪を確認した後、

 驚いた様子で、お互いの顔を見合わせた。


「これは……信じてもらえるかどうか分かりませんが……私には、ムン王国23世の記憶があります。230年前の反乱の時、白魔女が私の命が途絶える直前に転生させてくれたのです。さきほどのフィンリー竜騎士からの問いかけの答えは……ルース家の血筋であり、前世の記憶で魔獣を操る言葉を知っていたので、私は魔獣を操れるのです」


 ショウは、思いを止めることができず、話し続けた。


「ムン王国ができてから23世代続いてたルース家の王座を私が途絶えさせてしまいました……必ず、ルース家を復興させてみせる。そう思っていましたが、今はそれ以上の決意があります。今のムン王国の荒れた状況……このままでは他国に攻め入られる隙にもなります。一刻も早く国王の座を取り戻し、この国の平安を築かなければならない」


 ショウは、真っすぐにフィンリー竜騎士とケイシー騎士を見つめていた。

 フィンリー竜騎士は、くるりと背中を向けて机の方に歩いて行った。

 ショウは、話している間、高鳴っていった鼓動が、一気に冷めた。


 ガタッガタ。

 フィンリー竜騎士は、無言で椅子を壁際に寄せると、

 下に敷いていたマットをめくり、隅に寄せた。

 ケイシー騎士も直ぐに傍に行き、フィンリー竜騎士と共に床のレンガを外し始めた。


 大きな布袋を取り出すと、ショウとケイトの前に持ってきた。

 フィンリー竜騎士とケイシー騎士は、黙って袋を開けて中を出した。

 かなり古い大きな布だった。

 ゆっくりと破れないように広げていった。

 部屋いっぱいに広げられた紫紺の布には、白い模様が入っていた。


「月と王冠……」


 ショウの鼓動は、再び高鳴った。

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