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月の剣:奪われた王家本流への返り咲き  作者: 伊路八


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第二十六話 南へ

 これが、白龍――


 それは、薄曇りの空から滑らかに降りてきた。

 見上げるほどの大きな蛇のような体は、真っ白く艶やかな鱗に覆われている。

 頭には鹿のような角があり、虎のような手には鋭い爪がある。

 まるで水面にでも降り立つように、地面に着いた。


 ショウもケイトも、初めて見る白龍に驚き、声がでなかった。


 ツキミ姫の妹を探しに行くことにはなったが、

 どうやってどこに探しに行くかを話していた時、

 ケイシー騎士が言うには、

「今は北にいる。この貿易街に来るまで騒ぎはなさそうだった。それならば、南の方へ向かってみよう」

 ということだった。


「フィンリー竜騎士がいれば、空から探すこともできるが……」


「それならば、白龍で探しましょう」

 ツキミ姫の一言で、ショウ、ケイト、ケイシー騎士の四人は、

 貿易街の外の人目のない場所まで移動した。


 そして、ツキミ姫が空に向かい声を放つと

 白い龍が目の前に現れたのだ。


「こちらの国の竜には、羽があるようですが、扶桑国ではこのような姿をしております」


 ツキミ姫が優しく白龍に触れると、

 首を地面に降ろした。


「白龍に乗って探しに行きましょう」

 ツキミ姫は、軽やかに飛び乗った。


 ケイトに小突かれて、ショウが先に飛び乗った。

「……あたたかい」

 手触りと同時に感じる温もりに思わず声が出た。

 続けて、ケイトが飛び乗った。

 最後に、ケイシー騎士が飛び乗ると、ツキミ姫の声で

 白龍は空高く舞い上がった。


「南の方へ向かってくれ」

「分かりました」


 白龍は地上が見える高さで、南の方へと向かっていった。


 頬に当たる風から徐々に冷たさが消えてゆき、

 初めて見る空からの光景に、

(凄い!世界はなんて広いんだ)

 と、ケイトは少し胸が躍っていた。


 ショウは、230年前……前世でジュリアス竜騎士の竜に乗り、

 共に国を巡察したことを思い出していた。

(あの頃と比べて、大きく変わった様子はなさそうだが……なんというか……枯れている……ように見える)

 豊かさを感じることができずに胸が痛んだ。


 ケイシー騎士とツキミ姫は、用心深く地上を観察していた。

(このまま南へ進むと、ネス家の領地まで行くことになる……まさかネス家が関わっているのか?それとも……)


 徐々に寒さが和らいできた。

 ショウもケイトもコートの前ボタンを外した。


「あそこに土煙が」

 ツキミ姫が地上を指差した。


 森を抜けた平地を南の方向へ走っていく土煙があった。


「近づいてみます」

 ツキミ姫が白龍へ声を掛けると、スッと高度が下がっていった。


 ツキミ姫の言葉を待つことなく、全員が確信した。

 五頭の走る魔獣。

 その後ろの戦闘用馬車。

 それに乗っている男と子供の後ろ姿。


「マヤ!」


 安堵の表情で叫んだツキミ姫の表情は、一瞬で憎悪に変わった。


「……なんて惨い」


 ケイシー騎士が声を掛ける前に、ツキミ姫は衝動的に動いていた。


 戦闘用馬車に乗っている男は、

 魔獣の走る怒涛の音で

 後ろから近づく白龍に気づいていなかった。


 目の前に突然、現れた白龍の姿に、

 男も子供も魔獣もひどく驚いた。


「テイ!」

 ツキミ姫が、空まで届きそうなほど大きな声で叫ぶと、

 魔獣はピタリと止まった。


 男も戦闘用馬車を慌てて止めた。

 土煙が静かに収まっていく。

 男の手に握る鎖がはっきりと見える。


 そして、子供の首には、首輪と鎖が繋がっていた。


「酷い……農奴以下の扱いだ」

 ショウが思わず言葉を漏らす。


「いつもそうだ……望んでいても、いなくても魔の手は迫ってくる。こんな……こんな小さな子供までも……」

 ショウは、もううんざりだと言うように吐き捨てる。


「マヤ!」

 ツキミ姫が白龍から降り、駆け寄っていく。


「姉様……」

 マヤが涙を堪え、声を絞り出す。

 グッと鎖を男が引っ張る。


「セバスティ大典守……なぜ、あなたがこのようなことを!」

 ケイシー騎士が、ツキミ姫の後を追いながら問いかける。


「キ!」

 走りながらツキミ姫は、魔獣へと次々と叫ぶ。

 すると、魔獣たちは、のっそりと北の方へ歩き出していった。


「おまえ!何を!」

 セバスティ大典守は、ツキミ姫に向かって怒りをあらわにした。


「呼び戻せ!」

 グイッと首輪を掴み、マヤを乱暴に扱った。


「無駄よ!姉の私の方が、魔力は上だわ!」


「くっ」

 セバスティ大典守は、即座に思考を巡らせた。


(騎士がいるとは、面倒だな。しかも、魔獣もいなくなった。この娘はもう使えん。分が悪すぎる)


 セバスティ大典守は、慈悲の欠片もなくマヤを放り出すと、

 即座に戦闘用馬車を走らせて逃げた。


「マヤ!」

 ツキミ姫は、地面に叩きつけられたマヤへと駆け寄り、抱きしめた。


 ショウとケイトが、逃げる戦闘用馬車を追いかけようとしたが、

 ケイシー騎士が止めた。


「なぜ、追わないのですか?!」

 ケイトは、憤っていた。

「あれはセバスティ大典守だ。大典守は政治ではナンバーワンの権力者だ。今はこのまま逃がしておいた方がいい」

 ケイシー騎士が、冷静に答えた。


(セバスティ大典守……アラン王子と何か関係があるのか?)

 ケイシー騎士は、嫌な予感がした。


 ショウ、ケイト、ケイシー騎士も

 ツキミ姫とマヤの方へと駆け寄っていった。

 マヤは、ぐったりとしているが、息があるのを確認すると、

 ひとまずほっとした。


 突如、風が巻き起こった。

 五人を大きく囲うように地面から水が沸き起こり

 水の渦となって取り囲んでいった。

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