第二十五話 ツキミ姫
人気のない路地で
ショウ、ケイト、ケイシー騎士と
黒髪の少女と壮年の男が対峙していた。
男は、腰の刀に手を掛けた。
「待って!僕たちは情報がほしいだけなんだ!」
ショウが、両手を上げながら
ゆっくりとケイシー騎士の傍に歩いて行く。
ケイトもゆっくりとついて歩く。
「情報?」
刀に手を掛けたまま男が聞き返す。
「数日前、村が襲われて、そこで魔獣を操る黒髪の少女を見たという話を聞いたんだ。貿易街なら何か情報も分かるかと思って来た。それで、さっき思わず君の腕を掴んだんだ」
少女が、ピクリと反応した。
ショウは、それを見逃すことなく、警戒心を解こうと名を名乗った。
「僕はショウ、今は騎士見習い中だ」
「僕はケイト、僕も騎士見習い中」
「私は、騎士のケイシーだ」
男は、刀から手を離した。
「私は、護衛騎士のソウジだ。こちらは……」
「扶桑国の第一姫のツキミです」
ショウは、胸ポケットで白魔女が反応したことに気づき、
そっと胸に手を当てた。
「魔獣を操る黒髪の少女と言いましたね。村が襲われたのはいつですか?」
ツキミ姫が尋ねた。
「三日前だ」
ケイシー騎士が、即座に答えた。
ツキミ姫とソウジは、互いの顔を見た。
「もしかしたら……その少女は妹のマヤかもしれません」
「えっ!妹は、魔獣を操れるの?!」
ケイトが驚いて尋ねた。
「……はい。我が国には古い伝承があります。扶桑国の王家の血が流れるものだけが魔獣を操れるというものです。そして、王家の血筋である父や私、そして妹のマヤは実際に魔獣を操る言葉を使えます……」
ツキミ姫は潤んだ黒い瞳で、声を張り上げた。
「マヤも三日前から行方不明になっているんです!」
「いなくなる前、不審な点などはなかったのか?」
ケイシー騎士は、心配そうに尋ねた。
「いえ、何も……マヤなら魔獣を動かすことは可能です……しかし、村を襲う理由が分かりません……」
「あの……このムン王国でも魔獣を操れる者はいるの?」
ケイトの質問にショウはドキリとした。
ショウは、前世で魔獣を操る言葉を前王から直々に教わった時に、
その由縁も教わっていた。
しかし、ケイトの質問を遮ることはしなかった。
「えぇ、ムン王国のルース家です。父から聞いた話によると、二百数十年以上前、扶桑国からルース家に姫が嫁いでいます。その子孫であれば可能でしょう」
ツキミは、話を続けた。
「これは余談ですが、その当時、扶桑国は他国から攻められ、どこからも見捨てられていました。しかし、ムン王国だけが援軍を送ってくれたそうです。そして、その援軍により侵略から逃れることができたそうです。それ以来、扶桑国の第一子には、ムン王国の由来である月にちなんだ名前が代々つけられています。私の名、ツキミもそうです」
「ムン王国のルース家の血筋なら、魔獣を操れるってこと?」
ケイトは、確認するかのように尋ねた。
「ええ、ルース家に嫁いだ姫が、その子供たちに代々、魔獣を操る言葉を教えていれば可能です」
(ショウの先祖はムン王国本流であったこと、その座を分家に奪われたこと、純銀の指輪を持っていたこと、月と王冠の刻印があったこと……そして、魔獣を操る言葉を知っていること……ショウの話の全てのつじつまが合う……)
ケイトはショウの顔を見た。
その話は後で……というふうにケイトに目配せをすると
ショウは誰にでもなく言った。
「マヤ姫を探そう」
「私も一緒に探します!」
ツキミ姫の黒い瞳が、パッと一筋の希望にすがるように輝いた。
「……セキ村から魔獣の足跡を追った方が早いか……」
ケイシー騎士が、青い瞳を細めながら呟く。
「空から追った方が早いでしょうか?白龍で追いますか?」
ツキミ姫が、提案するかのように尋ねる。
「白龍?初めて聞く……どんなものなのだ?」
「百聞は一見にしかず……私を貿易街からムン王国内に連れて行っていただけますか?」
ケイシー騎士は、一呼吸し考えた。
「二人は無理だが、ツキミ姫だけなら、連れていけるだろう」
ツキミ姫は、ソウジを見上げた。
「お前たちの話が信じるに値するか……」
ソウジは、腰の刀に手を当てた。
フッと微笑むと、
「手合わせするか……」
ケイシー騎士も剣に手を当てた。
ピンと一瞬で空気が張り詰めていく。
誰もその場から一歩も動けない。
瞬きもできず。
息をするのさえ、ためらった。
一秒一秒が長く感じた。
ソウジが、刀の柄から指を外した。
ケイシー騎士も剣から手を離した。
その瞬間、空気が一気に緩んだ。
ソウジとケイシー騎士は、
――抜いた瞬間に斬られる
同じことを感じ取っていた。
「姫様をよろしくお願いいたします」
ソウジは、一礼した。
「無事にここに連れて戻ろう」
ケイシー騎士も会釈をして答えた。
――話は、三日前にさかのぼる。
燃え盛る炎を目の前に
セバスティ大典守は、今までになく高揚していた。
(素晴らしい!なんという破壊力!私兵の何倍も威力だ!)
その横には、黒髪の少女が立っていた。
黒い瞳には今にも涙が零れそうだった。
しかし、自分のしたことを思うと涙を流すことはできなかった。
例え、望んでしたことではなくても。
泣く資格など自分にはないのだ。
首につけられた首輪と鎖の重み以上に、
自分の罪の重さに耐えようと涙を堪えていた。
セバスティ大典守は、燃え落ちる家々をニヤリと眺め満足していた。
(一夜にして村を滅ぼすとは……この娘、思った以上に使える)




