第二十四話 貿易街
ケイトの容体の回復は早く、翌日には出発することができた。
ショウとケイト、そして、ケイシー騎士は、準備を整えると
それぞれ馬に乗り、ナイト街を出た。
「貿易街は北の端だ。ここよりもっと寒くなるが、お前たちが着ている防寒具なら大丈夫だろう」
ケイシー騎士の言葉に、ショウもケイトも、
サム親方にもらったコートがありがたいと改めて感謝した。
ナイト街から北に向かう途中、セキ村の前を通った。
その惨状に、三人とも思わず馬を止めた。
家は真っ黒に焼け落ち、まるで戦場跡のようだった。
「なんて酷い……」
ケイトが思わず声を出す。
「魔獣の足跡が、三……いや、五つも……なんでこの村に」
ショウがたまらないといった顔で言う。
村の中では、騎士たちと村人たちが、
焼け跡を片づけたり、再建をしている様子も見えた。
ウル騎士も遠くに見えたが、
汗を流し懸命に働いている様子を見て
ケイシー騎士は今は声を掛けるべきではないと思った。
「我らの為すべきことをしよう。そして、必ず原因を突き止めよう」
自分に言い聞かせるかのようにケイシー騎士はそういうと馬を走らせた。
ショウとケイトも後に続いた。
北へ進むほどに、頬に当たる風がますます冷たくなる。
皮の手袋を通り越し、指先の感覚がなくなるほどだ。
地面に数センチの雪が積もっている。
ショウとケイトは必死に、後をついて馬を走らせる。
一面、雪化粧の森を抜けると、
冷たい空と海が目の前に広がった。
海沿いの崖には一つの端が掛かっている。
ちょうど、馬車が二台ほど通れるくらいの幅だ。
その先に、島が一つ浮かんでいる。
「あの島が貿易街だ」
ケイシー騎士が白い息を吐きながら言った。
「あれが貿易街……僕、初めて来るよ」
ケイトも白い息を吐きながら、鼻と頬を真っ赤にしたまま言った。
一見、230年前と島の姿は変わっていないように思えたショウは、
島の中、貿易街へ入ると、その煌びやかさ、進化している文明に驚いた。
その艶やかさに、ケイトは横で目を輝かせていた。
「凄いな……」
ショウが、あちこちと見ながら興奮気味に言った。
「この島には様々な国からの船が着く。そして、貿易商はこの島からムン王国の領土へ入ることは許されていない。交易ができるのはこの島の中でだけだ」
ケイシー騎士がゆっくりと馬を進めながら言った。
「さて、ここに一旦馬を預けておこう。ここは、騎士団の建物で、この貿易街の治安を守るために配属されている騎士たちがいる」
建物から出てきた騎士が、三人の馬を預かり裏へ行った。
「少し、休憩していくか?」
「いえ、貿易街の中を歩いてみたいです」
ケイシー騎士へ好奇心を抑えられない様子でケイトが答えた。
色とりどりに並ぶ店や行き交う人々を
右に左に眺めながら、通りを歩いていく。
老人から子供まで異国の風貌の人や言葉が溢れている。
(黒い……髪……)
ショウは、すれ違う少女の腕を思わず掴んだ。
「あ、黒髪の少女」
ケイトが言った。
真っすぐに切り揃えられた艶やかな黒髪の少女が驚いて立ち止った。
が、すぐさま技をかけると、するりと逃げていった。
ショウは声を出す間もなく、あっという間に地面に尻もちをついていた。
(なんだ?あの技は?)
少女の走っていった方向を見たが、
雑踏の中、既に姿はなかった。
雑踏の中を軽やかに駆けていく少女は驚いていた。
(あいつは誰だ?なぜ、腕を掴んだ?)
濃紺の短めの袴に深緑の小袖と羽織をはためかせ走っていく先に、
黒の袴に濃紺の小袖、腰には刀を差している壮年の男が振り向いた。
少女は男の横を走り抜けた。
男も少女の後を走った。
建物の隙間の路地に入ると、少女は立ち止り、
ついて来た男に話しかけた。
「ソウジ、知らない少年にいきなり腕を掴まれました」
「姫様を?」
「えぇ……黒髪の少女と言っていました……もしかして、マヤのことを何か知っているのかもしれません……」
「マヤ姫が行方不明になって三日になりますが、一向に手がかりが掴めません」
「……あの少年たちを探ってみてもいいかもしれません」
「複数人だったのですか?」
「私を掴んだ少年とその横にもう一人。あと、騎士も一緒のようでした」
「なるほど……怪しいやからではなさそうですね。後をつけてみますか?」
「そうね。マヤのことが少しでも分かるかもしれない」
少女と男は、路地を出て、来た道を戻っていった。
ほどなくして、少女は、腕を掴んだ少年を見つけることができた。
雑踏の中、距離を置きながら静かに後をつけた。
少年二人と騎士は、何かを、誰かを探している様子だと分かった。
「何を探しているのかしら?」
「人を探しているようですね」
少女と男は、用心深く後を歩いた。
しばらく歩くと、騎士が指を差しながら店の角を曲がった。
(見つけたのかしら?)
少女と男も後を追って、店の角を曲がった。
(しまった!)
そう思った時は、既に遅かった。
騎士がこちらを向いて立っている。
後ろから少年二人が出てきた。
「話をしようじゃないか」
穏やかな声で騎士が言った。




