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月の剣:奪われた王家本流への返り咲き  作者: 伊路八


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第二十一話 セキ村

 カチャ――


 ショウは、医務室の扉を閉め、庭の方へ歩いて行った。

 手に握る赤く染まった小さな白いマント。


 ケイトの血だ――


 僅かに手が震えていた。

 呼吸が、歩く速度が速くなっていく。


 もっと、もっと強く、賢くならなくては――


 自分自身を追い詰め、焦っているのが頭では分かってはいたが、

 止めることができなかった。


 井戸の前で立ち止まった。

 井戸の横にある手押しポンプのハンドルを動かし、

 流れ出る水にマント浸した。


 この罪悪感も流れ去ればいい――


 ぼんやりと眺めていると

「もう、それくらいでいいわ」

 と、胸元のポケットから声が聞こえてきた。


「あとは、こちらで……」

 白魔女がポケットから小さな手を差し出している。

 ショウは、言われるまま白魔女を手のひらに乗せ、

 まだ血が染まったマントを手渡した。

 白魔女が小さく囁くと、マントは白い光に包まれていった。

 フッと光が消え、マントは真っ白い色に戻っていった。

 白魔女は、それを手際よく羽織った。


「ケイトを巻き込むべきではなかった……」

 ショウが漏らした言葉に白魔女は答えた。

「王座を取り戻しても、一人で国は守れないでしょう。たくさんの人たちの力が必要になります」

「犠牲を出してまで……か?」

「……今、ここで戦わねば、もっと多くの犠牲が出る」

 ショウがハッと白魔女の目を見た。

「かつて……前世であなたが皆に言った言葉です。サン王国が攻めてきたあの時、降伏することなくこのムン王国を守り抜いた時です」

「そうだったな……今更、重責から逃れようなど都合が良すぎるな」

 ショウは、顔を上げ、呑み込むように空を見た。

 白魔女は、ふぅと疲れたように息を吐いた。

「まだまだ休息が必要なようです。休みます」

 ショウは頷くと、ゆっくりと白魔女を胸ポケットに戻した。

「早く魔力が完全に戻るといいのですが……」

 申し訳なさそうな声が聞こえた。

「焦ることはない」

 そう返すと、医務室に戻っていった。


 ウル騎士と四人の騎士は、ショウとケイトが襲われた場所まで急いで馬を走らせた。

 ショウの話した通り、五人の男が地面に倒れていた。

 ケイトに貸した剣も傍に落ちていた。

 ウル騎士たちは、慣れた手つきで五人の男たちを縛った。

 男たちはケガはなく気絶しているだけのようだった。

(こんなところまで治安が悪くなっているとは。今の国王は何をしているのだ)

 ウル騎士は、作業をしながら憤っていた。

 そして、武器を拾い男たちをそれぞれの馬に乗せて、ナイト街へ戻っていった。


 ケイシー騎士と四人の騎士は、セキ村まで急いで馬を走らせた。

 冷えた風に異変を感じ取った。

「風が焦げ臭い……急ぐぞ!」

 セキ村に近づいて行くほどに、焦げた匂いは強くなっていく。

(嫌な感じだ)

 ケイシー騎士は、青い目を細め、更に速度を上げた。

「……なんだ、あれは」

「一体何があったんだ」

 セキ村が見えてきたところで、後ろを走っていた四人の騎士の声が聞こえてきた。

 村の入口で、五人は馬に乗ったまま、呆然と立ち尽くした。


 目の前には、全焼したセキ村があった。

 家や家畜の燃えた匂いが鼻をついた。


「戦場にでもなったのか……」

「家がほとんど燃えている」

 騎士たちが、ゆっくりと馬を進めながら言った。

「これほどの火災ならば、塔から煙も見えたはず。なぜ、気がつかなかったのだ……いや、それよりも今は救命を急がなくては」

 ケイシー騎士は、疑問はひとまず置き、四人の騎士へはっきりと伝えた。

「村人を探そう」

 奥へと進んでいくと避難壕があった。

 見つけた騎士たちが、急いで扉を開けると、怯えた様子で村人たちが隠れいた。

「もう、大丈夫だ。騎士団が助けに来た」

 その声に安堵した様子で避難壕から外に出てくると、

 村人たちは惨状や感謝や嘆きなどを口々に言葉にした。

 ケイシー騎士は、翻弄される騎士たちに声を掛けた。

「私は急ぎ戻り、応援と物資を手配してくる。救命を最優先しろ。それから、油断するな」

「分かりました」

 四人の騎士は、真剣な面持ちで答えた。


 ケイシー騎士は、馬の首筋に手を当てると

「もう少し頑張ってくれ」と囁き、

 ナイト街へ馬を走らせた。


 ナイト街へ着くと、フィンリー竜騎士の部屋へ急いだ。

 途中、ウル騎士たちが五人の男を連れて、医務室へ入っていく姿が見えた。

(あの連中が、ショウの話していた男たちか……)


 ケイシー騎士が、目線を前に戻すと、

 フィンリー竜騎士もちょうど、医務室へ向かっているところだった。


「フィンリー竜騎士!」


 ケイシー騎士が駆け寄っていくと、即座に

「どうだった?」

 と尋ねられた。


「それが……ひどい状況で。村全体が焼け落ちてます。応援と物資の手配をお願いに戻りました」

「そんなにひどい状況なのか……応援を十名……いや、二十名。人選は任せる。食料と物資、テントも急いで持っていくんだ」

「分かりました」

「待て。手配をしたら、ケイシーは医務室へ来てくれ。事情が分かるかもしれない。その後、セキ村へ行ってくれ」

「はい」

 ケイシー騎士は、倉庫へ駆けて行った。


(それほどの火災ならば、塔の見張りは、なぜ、気がつかなかったのだ……)

 フィンリー竜騎士も、同じように疑問を持った。

(ウル騎士が連れ帰った男たちの話を聞いてみるか)

 医務室の扉をゆっくりと開けた。


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