第二十話 油断
南の方角に向かってナイト街を目指して行った。
枝だけになっている林の中を馬で駆け抜けた。
北から吹く風が頬を斬るようだったが、
心の中は温かかった。
しかし、それは一瞬で消え去り、胸が背中が凍った。
(油断した!)
ショウは、高らかに前足を上げる馬を制御できなかった。
ケイトと共に地面に叩きつけられた。
馬の足元の地面に矢が刺さっていた。
「くそっ、外したか!」
「逃がすな!」
叫びながら、木々の間から、数人の男たちが武器を持って駆け寄ってきた。
ショウとケイトはすぐさま立ち上がり、棒と剣を構えた。
「ケイト、大丈夫か?」
「大丈夫。ショウと白魔女は?」
小声で囁くショウに、ケイトも小声で返した。
「あぁ、大丈夫だ」
襲ってきた男たちは、数歩ほど距離を置き、武器を構えた。
(五人……身なりが粗い……盗賊か?いや、武器が鋤や斧だ。木の陰には隠れているものはいないようだ)
ショウは、一番背が低い男に向かって声を掛けた。
「お前たちが盗むようなものは持っていない」
一番背が低い男は、一瞬目を細めた。
「どうかな。そのリュックと馬をもらおう」
(諦めるわけはないか……)
ショウは、小さなため息をついた。
(あの一番背が低い男がボスだ。ケイトの方にいる二人は戦い慣れしてないな。だが、油断はできない。早めに勝負をつけなくては……)
「ケイト、左側の二人を頼めるか?あとは私が」
小声で素早く伝えた。
「わかった」
ケイトは、深く深呼吸をした。
――したが、体中から怖れが消えることはなかった。
(大丈夫だ、大丈夫、やれる)
ケイトは、声に出ない言葉をずっと頭で反芻していた。
一番背が低い男が、首を傾け、合図を送った。
四人の男たちが、一斉に襲い掛かってきた。
ショウは、すぐさま踏み出し、手前の男の脇腹を払い、後ろの男の肩を叩き落した。
二人とも、斧を落とし、地面へと倒れ込み、唸った。
そのまま、一番背が低い男のところまで走った。
ガキン!
ショウの棒と一番背が低い男の斧の柄が、重なり、止まった。
そのまま、じりじりと間合いを探り合っていた。
布で隠していた顔を睨んだ。
その目に覚えがあった。
ケイトは、襲い掛かってきた二人に向かい剣を構えた。
初めて剣を人に向ける腕は、震えていた。
護身用のナイフは持っていたが、幸い今まで使うことはなかったのだ。
ドレイクや魔獣と対峙した時とは違う怖れが体中を走った。
二人が同時に勢いよく鋤を振り下ろし襲い掛かってきた。
(覚悟を決めろ)
腹の下が重くなり瞬間に震えは止まり、ケイトは鋤を避け後ろに下がった。
一人の空を切った鋤は、再び横から振られた。
ケイトは、それを目掛け下から剣を振り上げた。
キン!
男の鋤は上へと弾き飛ばされ、離れた地面に刺さった。
振り上げた剣先の向こうから、もう一人の男の鋤が真っすぐにケイトに向かってきた。
グサッ
ケイトの脇腹を捉えかすめていった。
ケイトが地面に倒れ込んでいくその瞬間を
ショウは一番背が低い男と鍔迫り合いのような状況のままで見逃さなかった。
頭に一気に熱い血が駆け上っていった。
そこからは、頭で考えるよりも先に体が動き、覚えていなかった。
一番背が低い男を蹴り飛ばすと、首の後ろを叩き気絶させた。
素早く倒れている男たちの武器を全て拾い上げ、ケイトを襲った男たちへと走った。
二人の男は、鋤で襲ってきたが、ものともせず、あっという間に首の後ろを叩き気絶させた。
全ての武器を拾い上げ、倒れたケイトのところへ走った。
「ケイト!」
ショウは、地面にうずくまるケイトを抱き支えた。
ケイトの顔は真っ青で、目を開けなかった。
わき腹から血が流れ出ていた。
逸るショウの胸元から声が聞こえた。
「これを。出血をしばらく抑えられます」
白魔女が、身に着けていた白いマントを渡した。
ショウは、急いで傷口に当てた。
白いマントは小さかったが、みるみる赤く染まっていき、流れ出る血は収まったようだった。
ショウは、ケイトのリュックを自分で背負いなおし、ケイトを抱きかかると馬に乗り駆けた。
――なにが「二度と友を失う気はない」だ。
全く実力が伴っていない自分に歯がゆさを感じた。
ナイト街の門の前まで来ると、監視塔の兵が気づき、すぐに跳ね橋を上げてくれた。
「医者はいますか?!」
ショウは、叫んだ。
ケイトの脇腹の血を見た兵はすぐに、医務室へ案内してくれた。
白髪の医者は、ベッドにケイトを寝かせるとすぐに診てくれた。
「これは……傷口が塞がっておる……どういうことだ?」
驚く医者にショウが手に持ったものを見せた。
「白魔女のマントで傷口を押さえました」
「あぁ、それでじゃな。しかし、出血がひどいようだからしばらくは安静が必要だ」
「じゃぁ、ケイトは大丈夫でしょうか?」
「あぁ、この様子なら数日で回復するじゃろう」
ショウは、大きく息をついた。
バタン!
扉が勢いよく開いたところに、ウル騎士がいた。
「何があった?」
「帰る途中で、襲われました。五人の男です。あれは……おそらくセキ村の者だと思います」
「セキ村の者が……?なぜだ」
ウル騎士は合点がいかないといった顔だった。
「私にも分かりません。ナイト街に来る途中で一晩泊めてもらった時には、変わった様子はなかったのですが……」
ショウも全く分からないといった様子で答えた。
「あ……おそらくまだ、襲われた場所で気絶したままかもしれません。ケイトが借りた剣もそこに置いたままです」
「分かった。我々で行ってみよう。セキ村にも何人か向かわせてみよう。ショウは、ケイトの様子を診ていてくれ」
「分かりました。ありがとうございます」
ウル騎士は、すぐにフィンリー竜騎士に報告すると、二つの隊を送った。
一つはショウたちが襲われた場所に。
もう一つは、セキ村に。




