第十九話 竜の鱗
「さっきは魔獣に気を取られて気づかなかったのか」
「薄暗いしね」
ショウとケイトは平たくなった岩を手で触れながら確かめていた。
「石板で床に蓋をしている……箱、ドレイク……どちらにも魔力がかかっていた。それに魔獣。魔法使いが絡んでいるのか……」
ショウが床に右手を触れたまま言った。
「じゃぁ、これも魔力と関係ある?」
「どうだろう……しかし、魔力がないと開けられないというわけでもないと思うが……」
ケイトが石板の縁に指を入れて、開けようとした。
「お、重い」
「ケイト、無理するなよ」
ザリッ――
ショウは、石板をなぞるように動かしていた指先に微かに違和感を感じた。
床に寝そべると、ふぅっと息を吹きかけた。
石板の上に薄く刻まれた魔法陣が現れた。
「これは……」
ケイトが立ち上がり全体を見渡した。
「魔法陣だな」
ショウも立ち上がりながら言った。
(雪の結晶が描かれている……)
その時、魔法陣から白い光が立ち上がった。
――!?
ショウとケイトは、あまりの眩しさに後ずさりした。
白い光が消えると、魔法陣の真ん中に宝箱が二つ置かれていた。
洞窟にあった宝箱の半分くらいの大きさで、皮張りだった。
『騎士になりたいのは真実か?』
透き通った冷ややかな声が聞こえてきた。
「宝箱の方から聞こえる?」
ケイトが囁いた。
『騎士になりたいのは真実か?』
同じ声で同じ言葉が聞こえてきた。
「そうだ。騎士になりたい」
ショウは、はっきりと宝箱の方を見て答えた。
『お前たちはこれからこの宝箱を開けるのだ。もし、邪な心であったなら、即座に洞窟の岩と化すだろう。もし、騎士にとって最も大事なことを理解していれば、龍の鱗を手にするだろう。宝箱を開けずに引き返すか、開けるか、お前たちが選ぶのだ』
「騎士にとって最も大事なことって……」
ケイトが戸惑い気味に言った。
「ケイト、引き返してもいいんだぞ。無理して付き合わなくてもいい」
ショウはケイトの肩に手を置いた。
手の重みに温かさにケイトの迷いは即座に吹っ切れた。
「いや。開けるよ」
ケイトは宝箱に向かって進んだ。
ショウも進んだ。
二人は宝箱の前にひざまずいた。
宝箱に手をかけると、お互いの顔を見て頷いた。
同時に蓋を開けた。
鱗が一つあった。
両手で抱えるほどの大きな鱗。
一枚の美しい鱗がオーロラのように輝いていた。
美しい――。
ショウは、竜の鱗だと直感で分かった。
それを手に取ろう両手で触れた瞬間、
ブワッと記憶の渦に飲み込まれた。
「ジュリアス……」
胸が張り裂け、涙が溢れそうになった。
『騎士の試練』のことを知っていたのは、ジュリアス騎士自身が、そうだったからだった。
今のショウと同じ17歳の時に、『騎士の試練』に挑戦したと言っていた。
入口で楽しそうにすると案内する小人が気になって出てくることもジュリアスから聞いて知っていたのだった。
ジュリアスとの記憶がありありと蘇り、体中に迸った。
――もう二度と過ちは繰り返さない。必ず王家本流を取り戻し、豊かな国にしてみせる。それが私の誓いだ。
頭ではなく、体の奥深いところから自然と想いが湧き上がってきた。
ショウは、竜の鱗を抱き上げるように取り出した。
パタン――
宝箱の蓋が閉まり、宝箱の姿がスッと消えた。
横を見ると、ケイトも竜の鱗を手にしていた。
「僕も大丈夫だったってこと?」
ケイトの頬が紅潮していた。
ショウは、その姿を見てホッとした。
「よし、ここから出よう」
ケイトのリュックに二つの竜の鱗を入れると、二人は来た道を戻っていった。
小人と出会った場所まで戻ると、
そこにまた同じ小人がいた。
「お前たちに会いたいというので連れた来た」
小人はそういうと、手のひらを差し出した。
小人の手のひらの中には、
一寸ほどの小さな小さな人がいた。
ショウが、ホッとしたような懐かしそうな声で言った。
「白魔女……やはりあなたでしたか」
「国王、お久しぶりです」
「……私が誰だか分かるのですか」
「もちろんです。私が、国王を転生させたのですから。あの時、魔力を使い果たし小さくなってしまいましたが……少しずつ回復しております。それにしても、随分、長く待ちました」
「今は、ショウという名前です。ショウと呼んでください」
「分かりました。ショウ様。私が白魔女だと分かっているということは、前世の記憶は戻っているのですね」
ショウは頷いた。
「この騎士の試練は、あなたが創ったのですか?」
「そうです。創ったのは、もう1000年以上前になるでしょうか……ジュリアスもこの試練を通り騎士になったのです……」
ショウも白魔女も、ジュリアスを偲び、しばし無言になった。
沈黙を破ったのは、ショウからだった。
「まだ、商人の身分ですが、必ず王家本流を取り戻します」
白魔女は、小さな体でお辞儀をした。
「ショウ様。どうか私をお連れくださいませ。力になりたいと思っております」
「もちろんです!あなたが力になってくれるなら、こんなに心強いことはない」
ショウは、両手を差し出した。
その両手に、白魔女は歩いていった。
「隣にいるのは、ケイトです。ここまで来るのにいろいろ助けてくれました」
「そのようですね。ケイト、これからよろしくお願いします」
「は、はい」
急な展開にケイトは驚きながらも、きっとこれはよい出来事なんだなと察していた。
「それじゃ、ナイト街に戻ろう」
ショウは、白魔女を胸のポケットに入れると、小人にペコリとお辞儀をした。
小人もペコリとお辞儀をすると森の中へ消えていった。
ショウとケイトは、馬を走らせて戻っていった。
二度と会うことはないと思っていた人物との再会に、
ショウの心は晴れやかになっていた。




