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月の剣:奪われた王家本流への返り咲き  作者: 伊路八


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第十八話 宝箱の中

 ショウは宝箱に両手をかけたまま、はっきりとした声で言った。


「全部、竜の鱗じゃない」


「え?」


 ケイトは、左右の手に持つ鱗を下げ、ショウと宝箱の方を見た。


 その先の言葉をかける間もなく、

 ふっと、両手が軽くなった。

 手に不快な纏わりつくような感覚がした。


 同時に、

 宝箱の鱗は消え、真っ黒い幾多のものが溢れ出てきた。


 溢れ出るスピードと数の勢いに押され、

 ショウもケイトも両手で顔を覆いながら宝箱から離れた。


 まるで黒い煙のボールのようなものが

 全身に纏わりついてくるように

 次々と宝箱から飛び出していた。


 ショウとケイトはじりじりと後ろに下がっていった。


「くっ……なんだこれ?」

 ケイトが、両腕で顔を庇いながら、目を細めて確かめようとした。


「宝箱の蓋を閉めよう!」

 ショウが、片腕で顔を庇いながら、右手に握る棒を振り回しながら言った。


 真っ黒い物体に棒が当たっても、

 まるで煙のように空を切ったが、わずかに視界が開けた。


 ケイトもそれを見て、剣を抜いた。

 両腕でしっかりと剣を握り、

 出せる限りのスピードで真っ黒い物体を切っていった。

 ショウと宝箱を結ぶ最短のルートで剣を振っていった。


 ショウもケイトの横に走り出ると

 共に無心に真っ黒い物体を切っていった。


 じりじりと宝箱に近づいて行った。


 あと、数歩で宝箱のところまで来た。

 棒を剣を振るう二人からは、汗が飛び散っていた。


 あと、一歩――


 ケイトが剣を振り下ろした瞬間、

 ショウが飛び込み、

 宝箱の蓋を閉めた。


 バタンッ!


 空洞に静けさが満ちた。


 が、不快な感覚は消えなかった。


 空気中に飛び散った黒い煙のようなものが

 ゆらゆらと浮いていた。


 ショウもケイトも、無言でそれらを見回した。


 ゆらゆらと浮いていた。


 ……と思ったら


 スーッと空洞の真ん中に集まりだした。


 あっという間に、黒い大きな煙のような塊になった。


 ――嫌な予感がした。


 ショウもケイトも、それから目が離せなかった。


 黒さはどんどんと濃さを増した。

 濃さを増すごとに床に降りてきた。

 そして、風船が割れるかの如く

 ブワッ!

 と弾け消えた。


 ゴォォォ !!!


 聞いたこともない咆哮が、響き渡った。


 巨大な恐竜のような生き物が叫んでいた。


「これが……竜?」


 ケイトが剣を構え、見上げていた。


「竜じゃない……ドレイクだ」


「ドレイク……でかい……」


「あぁ、でも竜よりは小さい。翼もない」


 ショウがケイトの横に立った。


「……俺たちと仲良くするつもりはなさそう……だよね」


 ゴォォォ !!!


 ドレイクは咆哮し続けていた。


「そうだな。急所は心臓だ。戦うしかない!」


 ショウは飛び出していった。


 ドレイクは前足を大きく振り下ろした。

 風圧と共に、鋭い爪がショウの顔面ぎりぎりをかすめていった。


 振り下ろした前足よりも、更に低い姿勢で

 ショウは、勢いを増し飛び込んでいった。

 ドレイクの膝へと飛び上がり、素早く背中へと登っていった。


 ドレイクが背中に気を取られている隙に、

 ケイトは懐へと走っていった。


 ――急所は心臓だ。


 ショウの言葉を頭に留めていた。

 ケイトは真っすぐ、ドレイクの胸へ走った。


 ショウは渾身の力でドレイクの首元を背中から突いた。

 痛みに仰け反り、大きく胸が広がった。

 ケイトは剣を構え、飛び上がった。


 背中側から尻尾がケイトへと襲い掛かった。


(叩き飛ばされる!)


 ケイトは剣を振り下ろしながら、尻尾を避けた。

 剣は、腹部をかすめた。


 怒ったドレイクは大きく左右に体を振った。

 ショウはバランスを崩した。

 ドレイクの背中を掴もうとしたが、手は空を切った。


 ドンッ!


 ショウが背中から落ちた。

 ドレイクは前足を大きく上げ、下した。

 前足の大きな影が、ショウの体を覆った。


 ケイトは滑り込み、下から前足に剣を刺した。


 ビュオオオ!!!


 ドレイクが前足を上げ、後ずさりした。

 その隙を逃さず、ショウとケイトは飛び込んでいった。


 ショウがもう片一方の前足を叩き潰した。


 ケイトは、再び飛び上がった。


 剣が、ドレイクの胸をついた。


 ……。


 音もなくドレイクの姿が黒い煙のように霞み、消えた。


 カラン――


 剣が地面に落ちた。


 空洞は、来た時と同じ宝箱があるだけになった。


「不快さがなくなってる」

 ケイトが剣を鞘に納めながら言った。


 ショウは棒を背中に納めながら、空洞を見回し言った。

「そのようだ」


「竜の鱗はどこにあるんだろう……空洞はここで行き止まりだし……」

 ケイトは宝箱をながめながら言った。


「魔獣の本来の役割は守り神だ。この宝箱を守っていたんじゃないのか……」

 ショウは考えていた。


「……あそこで何を守るというのだ?」


 ――!!!


「ケイト!魔獣のところに戻ろう!」


 ショウとケイトは、暗い細い通路を戻っていった。


 魔獣は丸まって眠っていた。

 一定のリズムで動いていた。


「あの下だ……」


「魔獣の下?」


「あぁ。あの下にきっとある」


 ショウは、魔獣へと近づくと一言だけ発した。


「ドウ!」


 のそり――


 魔獣はゆっくりと起き上がると、隣へと動き座った。


「この下だ」


 岩だけでの空洞の中で、

 魔獣が眠っていた下の岩だけが、

 平たくなっていた。

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