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月の剣:奪われた王家本流への返り咲き  作者: 伊路八


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第十七話 宝箱

 右手で棒を構え、左手で頭を押さえ、

 ショウは必死で魔獣に向かおうとしていた。


 しかし、薄れいく意識に抗えず、

 背中から壁面にもたれかかった。


(だめだ……意識をしっかり持つんだ)


 ショウは、薄れいく意識と相反する何かが

 記憶の奥底から蘇ってくる予感に触れた。


 高鳴っていく鼓動。

 一気に頭に上っていく熱。

 浅く速くなる呼吸。


 ――その間、コンマ数秒。


 前世の記憶が一気に蘇った時と同じ感覚がきた。


「ケイト!魔獣を殺してはいけない!」


 気づいたら叫んでいた。


 ケイトは、ショウの声に剣を持つ手が一瞬怯んだ。


 それを逃すことなく、魔獣が襲ってきた。


 ショウは、めくるめく情報量に

 頭の中がオーバーヒートしそうだった。


 しかし、もう今は何をすればいいか分かっていた。


 ふらつく足元に力を入れ、

 頭を押さえていた左手を前に広げ、

 大声で叫んだ。


「テイ!!!」


 魔獣の動きがピタリと止まった。


 真っ黒い毛に全身が覆われ、

 頭に大きな尖った角が生えていた魔獣は、

 止まったまま、ゆっくりと呼吸をしていた。


 ケイトは、剣を魔獣に向けたまま、

 静かにショウの方へ歩いて行った。


「ショウ、大丈夫か?」


「あぁ」


「マーケット街でのこと……魔獣のこと……思い出したのか?」


「あぁ」


 ショウは棒を構えたまま、魔獣を見据えていた。


(さて……どうするか。空洞の先に進みたいが、この魔獣をどうするのが一番いいのか)


 魔獣の後ろに見える空洞の奥の通路をちらりと見た。


(魔獣はその風貌から忌み嫌われているが、本来の役割は守り神だ。きっと竜の鱗を守るためにここにいるんだろう。この空洞の先にきっとあるはず……)


 ショウは、無言で考えていた。

 魔獣に向かって放つ一言一句が大事なことも理解していたからだった。


 ケイトは、マーケット街での出来事を目の当たりにしていたので、

 ショウがあの時のことを思い出した今、

 ここはショウに任せるのがいいと考え、

 そばで剣を構えたまま静観していた。


(やはり、ここは元に戻って寝ていてもらうのが得策か……)


 ショウは棒を背中に戻すと、右手を上げ言葉を放った。


「レイ!……ミン!」


 魔獣は数歩、下がった。


 ――ズシン!


 魔獣は元の場所に戻り、

 丸まって眠り出した。


「すごい……本当に思い出したんだ」


 ケイトは剣をしまいながら言った。


「あぁ、また詳しくは後で話すよ。今は、先に竜の鱗を見つけに行こう」


「そうだな」


 ショウとケイトは空洞の先へと進んだ。


 岩と岩の間を覗き見ると、

 入口と同じような通路が続いていた。

 少し手を伸ばせば、

 左右に手がつきそうなほどの狭さだった。

 暗闇の中、ゆっくりと足元を確かめながら進んだ。


 通路の先に光が見えた。


 ショウとケイトは、顔を見合わせた。

 そして、慎重に進んでいった。


 徐々に通路にも光が差し込み、周りの様子が見えてきた。

 ごつごつとした岩だけなのが分かった。


 通路の出口で、再び空洞に繋がっているのが分かった。

 さっきの空洞の半分くらいの大きさだった。

 上の方に小さな穴が空いていて、

 そこから空の光が入り、薄明るくなっていた。


「何か置いてある」

 ケイトが空洞の真ん中を指差した。


「行ってみよう」

 ショウとケイトは空洞の真ん中に置いてあるものまで

 用心しながら近づいて行った。


「え……これって宝箱……?」


 ケイトがまじまじと見ながら言った。

 ヒンヤリとした空洞にケイトの声が響いた。


「そうだな」


「初めて見た……宝箱って本当にあるんだ……」


「あるんだよ」

 ショウがふっと笑った。


「あ……でも、これってミミックとかじゃない?大丈夫?」


 ケイトは宝箱の周りをぐるりと歩いた。

 木製で周囲に金具が施されており、

 抱えるくらいの宝箱だった。


「これは、大丈夫そうだ。本物の宝箱だよ」

 ショウはひざまずき、宝箱に触れ確かめていた。

「鍵は必要だけど」


「鍵……やっぱり簡単には開かないよね」

 ケイトががっかりしていた。


「ん……?いや、待って。開いてるかも」


「え!?」


 ――ギィッ


 ショウが宝箱の蓋を開いた。


「開いた……」


 ショウもケイトも宝箱の中を覗き込んだ。


「すごい……鱗がたくさん入ってる」

 ケイトが見たままを言葉にした。


「鍵が開いてるなんて……いや、前に『騎士の試練』を受けた人が開けたままなら、あり得るのか?」

 ショウは確認するかのように呟いた。


「そうだよ!小人も230年前に洞窟に案内したことがあるって言ってたよね。きっと前の人が開けたんだよ」


「う……ん。そうかもしれないが……」


 ケイトは宝箱の中の方が気になっている様子で、

 天井からの光が当たり、キラキラと輝く鱗が気になっていた。

 中には、手のひらくらいの大きさの鱗が、何十枚も入っていた。


「これって全部が竜の鱗なの?」


「いや、恐らくここから本物を選ぶんだと思う」


「なるほど。それがテストってわけだね。触ってもいいのかな?」


「あぁ。大丈夫だと思う。手を切らないように気を付けて」


 丸みを帯びた鱗は薄く雑に扱えば、端で手を切りそうだった。

 ケイトは、左右に一枚ずつ鱗を取って見比べた。

 天井からの光に透かして見た。

 半透明にランダムに多彩色が見えた。

 それは、見たこともない色彩美だった。


「きれいだね」


 ショウも鱗を手に取り、観察した。

 そして、宝箱の中の鱗を再び見た。


「これは……」

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