第十四話 騎士の試練
ギィィ――
重い木の扉が奥へと左右に開いていった。
荷馬車を進めて中へと入っていった。
ショウもケイトも自然と背筋がピンとなった。
入口に立っていた騎士に促されるまま、荷馬車を停めて下りた。
塀の中には、整備された道に並んだ石造りや木造の建物が整然とあった。
入口に一番近い木造の建物に案内された。
騎士は入口の扉をノックした。
「入れ」
穏やかな声が聞こえてきた。
ショウは直感で、出窓の所に来た人物だと分かった。
キィ――
騎士の後ろからショウとケイトも中に入っていった。
暖炉の前に一人の人物が座っていた。
椅子から立ち上がると、ショウとケイトの前に来て手を差し出してきた。
「騎士団の総長のフェンリーだ」
「ショウです」
「ケイトです」
二人は少し緊張しながらも手を差し出し、握手を交わした。
「フェンリー様は、この国に2人しかいないと言われている竜騎士の一人なのだ。片膝をついて敬意を払うのだ」
案内した騎士が自慢げな口調で言った。
「ウル。いいんだ」
フェンリー竜騎士は両手で、二人にそのままで良いという仕草をした。
ゆうに頭一つ分は背が高く、ショウとケイトも見上げていた。
林で出会った人物と同じ灰色のサーコートを着ていた。
黒っぽい肌に赤茶色の髪は強さを醸し出していたが、赤茶色の柔らかい眼差しに、緊張が和らいだ。
「君たちは、商人だね」
フェンリー竜騎士は、ショウとケイトの胸のバッジを見ながら言った。
「はい。マーケット街から来ました」
ケイトが即座に答えた。
「騎士になりたいんです」
ショウが間髪入れず言った。
隣に立っていたウル騎士が、強い口調で言った。
「騎士は貴族階級がなるものだ。しかも、子供のころから住み込みで訓練している。お前たちが突然来てなれるものではない!」
「騎士の試練……」
ショウがぼそっと口にした。
フェンリー竜騎士の目だけが、ショウの方へ動いた。
ショウが顔を上げ、はっきりと言った。
「騎士の試練を受けさせてください」
ケイトもウル騎士も、何を言っているんだ?という顔だった。
フェンリー竜騎士は違っていた。
――なぜ、こんな少年がそのことを知っているんだ?
『騎士の試練』……もう200年以上もそれが行われたことはない。
そして、それを知るものは今はほとんどいないはずだ。
フェンリー竜騎士は何か言いたげそうに口元に手を当てた。
「貴族階級に生まれていないものが、騎士になる方法はひとつ。『騎士の試練』を受けることです」
ショウは、フェンリー竜騎士の目を真っすぐに見た。
「なぜ、それを知っている……いや……どうしてそれを知ったかは問題ではないな。騎士の試練が何なのかを知っているのか?」
フェンリー竜騎士は、僅かな動揺を抑えながら尋ねた。
「北の山の洞窟で竜の鱗を取ってくることです」
ショウの毅然とした答えに、ケイトもウル騎士も口を挟めず、二人を見ていた。
「騎士の試練……もう200年以上、誰もそれを行ったものはいない。洞窟へ行く方法も、そもそも洞窟も竜の鱗も実在しているかどうか分からないぞ」
「それでも行きます。竜の鱗を持ち帰ったら騎士にしてもらえますか?」
フェンリー竜騎士は、じっとショウを見つめた。
大きく肩で息をすると口を開いた。
「分かった。約束しよう」
ショウの顔がぱぁっと明るくなった。
「ありがとうございます!」
意気揚々とケイトの方を振り向いた。
「ケイト!洞窟へ行こう!」
今すぐにでも行ってしまいそうなショウへ、フェンリー竜騎士は穏やかに声をかけた。
「ちょっと待て。もう今日は遅い。明日の朝にしてはどうだ」
ケイトもそうだと言わんばかりの表情に、ショウはハッとなった。
「今日は部屋を用意するからそこで休むといい。それから、ウル。二人を武器庫に案内して、何か武器を貸してやれ」
ウル騎士は一礼し承知した。
「洞窟で何があるか分からないからな。備えていくといい。では、また明日の朝に」
フェンリー竜騎士が話し終えると、ウル騎士は扉を開けた。
ショウとケイトは、ウル騎士の後について行った。
「すごい……」
武器庫の中に入った途端、ケイトは思わず言葉が出た。
剣、槍、弓、盾、鎧……様々な種類の武器、防具がぎっしりと揃っていた。
「この剣はどうだ?短めで軽いから扱いやすい」
ウル騎士が壁に掛かっていた剣を一つ手に取り、ケイトへ差し出した。
ケイトは握りしめ、剣を眺めた。
「護身用にナイフは持っているけど、剣は初めてです」
「そうか。では、それを持っていくといい」
ウル騎士が鞘とベルトもケイトへ手渡した。
ケイトは剣を鞘へしまうとベルトと一緒に抱えた。
「君は……そうだな」
ウル騎士が、もう一つ剣を手に取ろうとした。
「剣はいらないです」
「え?」
ウル騎士が、ショウの方を振り向いた。
「武器は持っています」
ショウは、くるりと扉の方へ向き、武器庫を出た。
ケイトも慌てて後をついて出た。
ウル騎士はそれ以上は何も言わず武器庫を出ると、二人を部屋へと案内した。
ウル騎士とショウの後ろを歩きながらケイトは考えていた。
聞きたいことはたくさんあったが、結局のところ聞いても仕方ないと思った。
(ここまで来たらやるしかないんだ)
心を決めて、後ろをついて行った。
剣を抱く手に力が入った。
翌朝、鱗雲がきれいに並ぶ、晴れ渡った日だった。
ショウとケイトは、荷馬車のところに行き、馬を外していた。
足音が2つ聞こえてきた。
「おはよう。これをつけていくといい」
フェンリー竜騎士が言うと、ウル騎士が鞍を差し出した。
「ありがとうございます」
ショウとケイトは、お礼を言うと、馬に鞍をつけた。
ショウが先に馬に乗り、ケイトが後ろに乗った。
「では、行ってきます」
ショウは一言そういうと、馬を門の方へ走らせた。
ギィィ――
重い木の扉が内側へ左右に開いていった。
ショウとケイトが乗る馬は、跳ね橋を駆けて行った。
足音が一つ近づいて来た。
フェンリー竜騎士の横に、青い目の整った顔立ちの人物が立った。
「ケイシー、お前の言ったとおり面白い二人だよ」
笑みを浮かべながら、小さくなっていくショウとケイトの後ろ姿を見ていた。




