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月の剣:奪われた王家本流への返り咲き  作者: 伊路八


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第十三話 見知らぬ顔

「最短で城に行きたい」


 ショウは、迷わず答えた。


 一刻も早く王家の状況を把握したかった。

 城の中のことは、城の中でしか分からない。

 そのことがよく分かっていたからだ。


「分かった。予定通りナイト街へ行こう」


 ケイトは馬車を左の道へ進めた。

 途中、小さな村で一夜を明かし、更に進んだ。

 真昼の高い所からの太陽の陽気も、冷えた秋風に消されていた。


「この林を抜けると、ナイト街だな」


 ショウが林の入口で、地図を確かめながら言った。

 地図を見ると、夕方くらいには着く頃のようだ。


「ちょうど昼だし、ここで休憩して行こうか」


 ケイトが道を避けて、荷馬車を停めた。


「すごいな……」


 荷馬車から下りながらショウが思わず呟いた。

 林の木々は、赤、橙、黄色に色づいていた。

 地面にも、グラデーションのように木の葉が敷き詰まっていた。

 見上げると、透き通る高い青空とのコントラストが一層、鮮やかさを引き立てていた。

 まるで紅葉の海の底にいるかのようだった。


「すっかり秋だな」


 ケイトが切り株に腰かけながら答えた。


 おもむろに、ショウが両腕を広げた。

 そして、大の字になったまま、ゆっくりと背中から落ちて行った。


 バサッ――


「ふはっ」


 大の字で地面に寝ころんだまま、ショウが笑って言った。


「一度、してみたかったんだ」


 ケイトも立ち上がり、ショウの横に同じように背中から倒れ込んだ。


 バサッ――


「あはっ!」

「ははは!」


 まるでふかふかの紅葉のベッドに寝ているかのように二人は笑いあった。

 そして、そのまま上を見た。


 流れる白い雲。

 風に揺れる木の葉の音。

 鳥のさえずり。

 川のせせらぎ。


 呼吸がゆっくり、そして深くなっていった。


 静かな時間が流れた。


 ――ヒヤリ。


 首筋に金属の冷たさを感じた。

 ばちっと目が開いた。

 見知らぬ顔が目の前にあった。


「ケイト!」


 木の葉の踏みつぶされる音と共に、ショウの大きな声が響いた。


「動くな」


 見知らぬ顔の人物が、ケイトの首筋にナイフを当てたまま言った。


 ――いつの間に?!気配も音もなかった……


 ショウは、片足をつき、いつでも攻撃できる体制になっていた。


 見知らぬ顔の人物が、続けて言った。

「この先はナイト街だけだ。一体、何用だ」


「待って!怪しいものじゃない!騎士のいる街に行きたいだけだ!」

 ケイトが口だけを動かし、必死で答えた。


 見知らぬ顔の人物は、胸のバッチを見た。

「お前たち商人だろう……何用だ」


「騎士になりたい」


 見知らぬ顔の人物が、ショウの方を見た。


「騎士に?」


「あぁ」


 見知らぬ顔の人物は、立ち上がりナイフをしまった。

 灰色のサーコートを着て、腰に剣を下げていた。

 小麦色に焼けた肌、束ねたブルネットの髪、青い目の整った顔立ちだった。

 ショウの方へ数歩、歩み寄った。

 全てに無駄のない動きだった。


 ショウもケイトも立ち上がった。


「お前たち子供には無理だ。帰れ」

 見知らぬ顔の人物は、冷ややかに言い放った。


「無理かどうかは、行ってみないと分からない」

 ショウは強く睨みながら言った。


「ま、好きにするがいいさ。最近はこの辺りまで物騒になってきている。せいぜい、気をつけるんだな」


 見知らぬ顔の人物は、離れた場所に置いていた馬のところまで歩いて行くと、馬で駆けて行った。

 駆けて行った先は、ナイト街の方だった。


 ケイトはその後ろ姿を見ながら、声を掛けた。

「さっきの人、騎士の服、着てたね」


 ショウは、面白くなさそうに答えた。

「あぁ」


「俺たちも、行こうか」

「あぁ」


 ショウとケイトも、ナイト街に向けて荷馬車を走らせた。


 林を抜けて、しばらく進んでいくと、石造りの塀が見えてきた。

 西の空が茜色に染まり出していた。

 門の前まで行くと、荷馬車を停めた。

 そびえる塀に、しっかりとした門と監視塔があった。


(小さいが城と同じような造りだ。普段から城警備の訓練も兼ねているということか……)

 ショウは見渡しながら観察していた。


「名を名乗れ!何用だ!」


 突如、上から大きな声が聞こえてきた。

 声のする方を見上げると、塀の出窓に人影が見えた。

 その横には弓を構えた人物もいた。


「マーケット街から来ました!ケイトとショウです。騎士になりにきました!」

 ケイトが大声で答えた。


 出窓の二人は、顔を見合わせた。

「あはははは!」

「ははは」

 大声で笑い出した。


「お前たち子供じゃないか!それに商人だろう?帰れ!帰れ!」


 二人は笑いながら、出窓から手をひらひらと振った。


「待ってください!本気なんです!」

 ケイトがさっきよりも大きな声で言った。


「騎士団の総長に合わせてください!」

 ショウが叫んだ。


「無駄だ!無駄だ!」

 二人が出窓から離れようとした時、急にキリッと様子が変わった。

 新しい人影が見え、微かに声が聞こえた。


「何を騒いでいる」


「フェンリー竜騎士!」


「ケイシーから面白い客が来ると聞いてな」

 新しい人影は、出窓からチラリとこちらを見た。


「入れてやれ」

 新しい人影は、そう言うと姿が見えなくなった。


 出窓の二人は顔を見合わせると、しぶしぶ動いた。


 ギギギィ――


 跳ね橋が上がった。

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