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月の剣:奪われた王家本流への返り咲き  作者: 伊路八


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第十一話 奪われた王家本流

 国王の驚きに応えることなく、ジョルジュ主教は懐から火筒を出した。

 炎が勢いよく螺旋を描くように立ち上がった。

 ボゥッ!と炎が消えた。

 臙脂色のローブを身にまとった人物が立っていた。


「赤魔女?!」


 白魔女が驚きの言葉を発すると同時に、赤魔女は杖を振った。

 杖の先から炎が鋭く、飛び出していった。

 真っすぐに空気を切り裂き、国王の方へ炎が走った。

 白魔女は杖を振った。

 国王の前に氷の壁を作り出した。

 氷と炎が激しくぶつかり合い、消失した。

 ジュリアス竜騎士は剣を抜き、国王を護るように前に立った。


「レイナ公妃!どうしたというのだ?!」


 国王が叫んだ。


「ルース家には滅んでもらう。我がビュー家が王家となるのだ」


「ルース家を滅ぼすというのか?三家の均衡を失うぞ!この国が他国に滅ぼされてもよいのか!」


「仰々しいことを。その王座、貰うぞ」


 レイナ公妃が剣を抜いた。

 同時に、赤魔女は再び、杖を振った。

 杖の先から炎が鋭く、飛び出していった。

 真っすぐに白魔女の方へと向かっていた。


 白魔女は杖を振った。

 杖の先から氷が鋭く、飛び出していった。

 炎と氷が勢いよく空中で衝突した。

 どちらの力が優勢ともなく中央でせめぎ合った。


 国王とジュリアス竜騎士は、その氷と炎の衝突を避け、窓際に追いやられた。

 国王は、氷と炎のせめぎ合いを断ち切ろうと剣に手をかけた。


 既に、ジョルジュ主教が、ポケットから爆弾を取り出していた。

 火筒から火をつけ、国王に向け投げた。

 同時にレイナ公妃が飛び上がり、国王の前にいるジュリアス竜騎士へと剣を振るった。


 ジュリアス竜騎士が、爆薬の導火線を斬り落とした。

 が、レイナ公妃の剣は、よけきれず肩でグサリと受け止めた。


 ジョルジュ主教は、二つ目の爆弾を国王に向け投げた。

 ジュリアス竜騎士は力を振り絞り、レイナ公妃を蹴り飛ばした。

 血が流れ出るのを構うことなく剣を振った。

 ギリギリのところで、爆薬を導火線を斬り落とした。

 その瞬間、レイナ公妃に腹を深く剣で突かれた。


「ジュリアス!!!」


 全ては一瞬すぎた。

 膝をつき倒れゆくジュリアス竜騎士の姿が時が、時が止まったかのようにゆっくり目に映った。

 その背中に向かって叫ぶことしかできなかった。


 白魔女がほんの僅かに動揺したのを赤魔女は見逃さなかった。

 実にそれは僅かな動揺だった。

 赤魔女の炎の勢いが増し、白魔女の氷は上へと弾き飛ばされた。

 閃光のように炎が走った。

 国王の体が、炎に貫かれていた。


 全てが一瞬で過ぎ去っていった。


 レイナ公妃が満足げな顔で、国王の歪んだ顔を見ていた。

 赤魔女もジョルジュ主教も国王の最後を見届けようとした。


「国王!」


 白魔女の叫ぶ声だけが響いた。


 白魔女は、もう全てが間に合わないことが分かった。

 最後の力を振り絞り、まだ息が微かにある国王の方へ杖を振るった。

 一縷の望みにかけた。

(転生先で必ず……)

 雪の結晶がブワッと国王を包み込んだ。

 ……かと思うと、一瞬で結晶も国王も姿を消した。

 それを見届け、白魔女は雪の竜巻を起こし自らの姿を消した。




「これが、私の前世の最後の記憶だ。白魔女が私を転生させてくれたのだ」


 ケイトは言葉がでなかった。

 信じる、信じないという選択ではないと思えた。

 ショウは、話を続けた。


「その後のことは想像に難くない。ルース家はビュー家に王家本流を奪われてしまったのだろう。そして、ルース家の全ての記録が消され、農奴とされてしまったのだ」

 ショウの顔が苦しそうに曇った。


「ムン王国ができてから23世代続いてたルース家の血脈を私が滅ぼしてしまったのだ……」

 ぐっと手を握りしめ、声にも震えが滲み出ていた。


「家の名誉を取り戻しに行く……のか?」

 ケイトが静かに尋ねた。


「そうだな……いや、それ以上だ」

 ショウが顔を上げ、ケイトの目を見た。


「必ず、ルース家を復興させてみせる」


 そうだ。

 同じ過ちは決して繰り返さない。

 油断、自惚れ、甘い考え……全てを消し去るんだ。

 前世を思い出したからといって、今は、たった18歳の少年に過ぎない。

 もっともっと成長しなくては――


「明日、ここを出るよ」


 ショウの言葉に、ケイトは言葉を返せなかった。

 そして、ショウの言葉を思い出していた。


「信じてもらえなくてもいい。だが、今まで協力してくれたケイトには話しておきたかった」とショウは言った。


ケイトは、ショウの言葉を思い出していた。

「今まで」と言っていた。

 ショウは、一人で行く気なんだ。

 どれだけの重圧、苦悩を抱えているんだろう。


 とても想像できないショウの事情をおもんぱかっていたら、言葉が出ていた。


「一緒に行くよ」


「え……」


「さ、そうと決まれば、親方に報告だ」


 面食らったショウの肩に手を回し、一階へと下りていった。


 キッチンからとてもいい匂いがしていた。

 サムが夕食を作っていた。


「親方、それ肉焼いてるの?」

「あぁ、とびっきりの肉だ。腹いっぱい食べてくれ」

「親方……」


 肉なんて高級な食べ物を口にできるかなんて、一生に一度あればいい方だ。

 親方が商品の肉を焼いてくれている姿を見て、全てを話さなくても察してくれているんだとケイトは悟った。


 ショウとケイトは顔を見合わせた。

 ケイトは今にも泣きそうな笑顔をしていた。

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