#8
10月17日
下倉は冷淡な表情で背後に立っている。終わった。
「すみません!小生たちは間違ってここに入っただけでして!どうやって先の場所に戻ればいいんでしょうか?!」
わかりやすい言い訳をデカい声で言ったって、こんな所に偶然入れるわけがない。学校に報告されて、停学もしくは退学。そんなことよりも不法侵入かなにかで罪に問われる可能性だってある。というぐらいに頭が回っている原因は、絶体絶命の状況に防衛本能として奇跡的に自分の腕に抱きついている理恵の存在だ。お化け屋敷でも吊り橋でもない不法潜入効果によって、こんなにもラッキータイムが訪れるなんて…
「ということで、本当に申し訳ございませんでした!」
「撮れたの?そんな丁寧に謝られても困る」
「えっと…」
「だから撮れたのか聞いてんの。だからガキは嫌いなの」
そこに立っているのはマッシュルームヘアーで童顔の下倉であったが、ペーストされた笑顔は消去されて人を見下し嫌悪する表情が貼り付けられていた。
「さっさと写真を撮ったら消えて」
「小生全く自体の把握ができていないのですが…」
「一体どういうことですか?」
「飲み込みが遅くて、口から疑問と自己主張だけは吐き捨てることしかできないガキが、喋るな。こっちが計画したことができたのかって聞いてんの?」
「まさか!下倉さんが!」
「呼ぶな。質問以外答えるな」
「すみません」
ロリ女性の口から出るには、全くもって不釣り合いな暴論と暴言を浴びせられた永愛は謝って、命令された撮影するしか選択肢はなかった。永愛は焦りながらも従順に写真を撮る、躾されたての犬のようだった。
「早くしろ。クソガキ」
「あの…下倉さんはこの真実を世間に広げて欲しかったんですよね?」
いきなり喋り出した理恵に驚くが、すでに彼女が腕を離している悲しい真実が後から追ってきた。
「そうだよ」
「じゃあ、なんでご自分でやらなかったんですか?リークでもなんでもすればよかったじゃないですか」
「リスクは最小限で進めるしかないでしょ?それにまだまだ迫るべき真実はある。あんたたちみたいに親に加護されているわけじゃないから。考えろ」
「考えた末に聞きたいんです。いくら暴言を吐こうとも、この事実を伝えたい正義は本物ですよね?」
「はぁ?ガキが足りない脳みそで質問するな」
「答えられないんですか?」
「あ?」
「やっぱり女性同士だと物おじしないんだな〜」
理恵の勇敢な姿に思わず口走ってしまった自分を悔いた。
「女性同士?何?女だから、喋れた?女だから暴言を吐いちゃいけない?何?女だから働いちゃいけない?女だから家にいろ?女だから子供を産め?」
「あ、いや、そんなことは…」
こんなにも言葉尻を取られて、捲し立てられるとは。EVEの掲示板を見ているようだった。
「撮れたのか?」
「はい!小生は完全に完遂いたしました!」
「頭痛が痛いか。それじゃ、手紙通り帰れ」
そのまま踵を返すように去っていく下倉は小さくつぶやいた。
「正義?そんなもの犬のクソにも役立たねぇよ」
手紙通り帰っていくと、展示室に無事帰ることができた。無事、青春爆発現象を回避して不法潜入を完遂した。
「それでは皆さん〜ぜひまたJAM社にお越しください〜!!」
バスの入り口に立つのは、貼り付けた笑顔の下倉だった。二重人格をリアルで見ているようで、アンバランス暴言よりも恐怖が押し寄せる。ゆっくりと警戒しながらバスに乗るその瞬間に、下倉の顔が変わる。
「絶対に出せよ」
人格をコロコロと操ることが社会人の矜持というものかもしれない。
学校に戻り、三々五々帰路に着く同級生をよそに不思議と3人は教室に残っていた。綺麗な夕日の中、3人は恐怖と興奮を噛み締めながら言葉を発せずにいた。
「…えっと、永愛。どうするの?」
「もちろん、もう出しました」
「え?」
行動の選択に悩んでいると思ったいたのは自分だけらしい。
「永愛くん、本当にあげたの?!」
理恵も同じだった。
「掲示板に…」
興奮したあんぱん型の手にビジョンが映る。そのビジョンにはJAM社の鉄球目玉が陳列される写真と「JAM社の真実!軍事用ロボットを開発していた!」の見出しが踊っている。
「これで、陰謀ではなく真実を世の中に発表できたんですよ!」
「待って…永愛くん…コメント…」
理恵の指差す先には、永愛の投稿にぶら下げられたコメントが次々と現れていった。そこには「いや、この時代にフェイク画像で知名度上げたいとか民度低くね?」「普通に名誉毀損」「はい、バカ特定します〜」というコメントと、永愛の顔写真が投稿されていた。
「どういうことですぅかぁ!!!!」
「…迷惑系陰謀論者って言われてんじゃん」




