#7
10月17日
無機質な廊下を3人で歩いていると、不思議とダメなことをしている気が薄れる。赤信号みんなで渡れば怖くないと昔の偉人が言っていた標語を思い出した。
「小生が得た情報では、この本部の地図をもらったんだ。それを元に進めば、真実に辿り着くはず」
永愛の丸いあんぱんのような手には、今どき珍しい手書きの地図が描かれている。
「いや、どうやってそんなの手に入れたんだよ」
「小生とやりとりしていたグループの誰かから送られてきたんですよ。恐らく内部のリークしたい人間が送ってきたんだと」
「どうも怪しいな」
「でもちょっとドキドキするよね」
やってはいけないことを初めてする快感に少し恍惚な表情の理恵を見ると、嬉しい気持ちと不安な気持ちが混じり合う。
「そうかな…」
「そうですよね!さすが理恵氏は探究者として矜持を持っている!それではここから真実にたどる危険な道となる」
無機質な廊下の白い光に、ポケットからカードを触れさせると、白い壁に扉の線ができて一気に開かれる。
「これも、自分に届いていた通行証」
明らかにこの扉を通った瞬間に、何かしらの犯罪を犯すことになることを直感する。特に志もない人間が、こんなことに足を突っ込む必要性は全くない。というか、なんでこんな流れになった?理恵と2人きりじゃなく3人だったとしても、JAM社の勧誘もしくは自画自賛の展示品でも見ておけば、それはそれで楽しかったはずなのに。と思っているのをよそに、2人は扉の奥へと入っていった。
「…嘘だろ」
同日
ホワイトハウスを背後に歩きながら、憂鬱な気分が襲ってくる。映像の資料と共に、クリンプト大統領のもとを後にした。彼らは「記事にしろ」という不躾な願いという命令を発した後はあっさりと消えた。確かに、この情報を元にした記事は一大スクープだろう。だが、なぜ私に記事を書かせたがるのか。全くもって理解できない。
「…何が目的なのよ」
すると、電話がかかってきた。
「水口どうだ?何か掴めたか?」
「滝上さん。掴めました。それもかなりのことを」
「おぉ!そうか!だったらすぐに記事を書いてこっちに送れ!今日の夜に出すぞ」
「いや、ちょっと日本に戻って相談をさせてください」
「何を言ってんだよ!スクープは鮮度が大事だって何度も…」
「相談させてください」
「…………わかった。すぐに戻ってこい」
こういう時、話が速いと信頼できる。電話を切って、天を見上げるとーーワシントンの綺麗な青空が広がっていた。
同日
階段を下がっていくと、真っ白な世界から一変して、暗闇と鋼鉄の階段が広がっていた。人を招くことを想定した白い空間から鋼鉄の無機質な空間に様変わりした瞬間、空気が冷え切ったのを感じた。明らかに研修できた高校生が来るべき場所ではないのは明らかだった。
「なんか…これ全然空気違うんだけど」
「だからこそ、秘密が隠されているはずだ!小生たちは着実に近づいている!」
「あんまり大きな声を出すなよ!」
明らかにテンションが上がっている永愛を見て、逆に自分のテンションが明らかに下がっていく。
「それより、ここってどこに向かってるんだろ…」
やはり扉を通る時よりも理恵のテンションは不安が優ってきている。恐らく暗闇がそうさせているのかもしれない。階段が終わりを告げようとしていた。それは階段の下に漏れ出る異様な黄色の光が予見させていた。
「…いくぞ。同志諸君」
いつから同志になったんだよというツッコミを入れる前に、理恵が自分の袖を掴んだのを感じた。あれ!何これ!思いの外、この暗さがお化け屋敷的効果を発揮しているのか?いや、お化け屋敷より何かしらの犯罪に手を染めているという恐怖の方が上だろう。ということは、明らかにこちらの方が効果は上だ!階段を終えて、ゆっくり歩いていくと廊下が広がっていた。廊下の先にめちゃくちゃ怖い何かがあったら、さらに理恵との距離は近づくだろう。廊下の一面にはガラスが貼られている。
「…これって何?」
心から幽霊が立っていることを願っていると、ガラスの先には、一回下の大きなベルトコンベアーが見える。ベルトコンベアーに流れているのは、銀色の球体だった。球体は中心に青白い光が光っていて、目のように見える。一様に直径3メートルほどの大きさで、目視だけでも数百個が並んでいて、光の目はこちらを見つめているようだった。幽霊よりも不気味な様子だ。
「これは小生が覚えている限り、JAM社が発売している商品にはないものですよ」
「じゃあこれは…」
「これはJAM社が開発している軍事兵器です。学生の皆さん」
背後を振り返るとーーー下倉が冷徹な表情で立っていた。




