#6
10月17日
白い立方体の中は、予想通り白い廊下が続いていた。生徒は2列になってぞろぞろと歩いていく。無機質な廊下には心ときめくものは全くなく、無言で歩く様は精神病棟を歩いている人々のようだ。
「ちゃんとついてこいよ〜」
ゾロゾロと青春という精神の病にかかった病人たちは、右に曲がっていき大きな白い扉を進んでいく。するとーー目の前には大きな「JAM」と映されるビジョンと青を基調としたおしゃれな展示室が広がっていた。
「それでは、徳利高校の皆様〜本日はJapan Art Media社の社会科見学にお越しくださり誠にありがとうございます!本日、皆様をご案内させていただくJAM社広報の下倉です」
短髪でマッシュルームのような髪型の女性が丁寧なお辞儀をする。明るい茶色の髪がより一層きのこの印象を強めているが、幼い顔には非常に似合っている。その幼い表情にはペーストされた笑顔が張り付いている。
「それではまずはJAM社の歴史から紹介させていただきます」
下倉の手が後ろのビジョンに手を向けると、ビジョンが時系列を表す直線が出てくる。
「JAM社は始まったのは、2034年の帳尻岳隕石攻撃から始まります。弊社の社長常盤貴一と副社長田中拓郎は北海道大学の元素研究者でした。彼らは隕石に含まれる宇宙鉱物の調査として、帳尻岳に向かいました。そこで発見したのが新元素Ωでした。彼らはΩの調査機関として徹底的に調査をして、Ωの有用性を発見しました。その有用性は展示に詳しく説明がありますので、ぜひ後でご覧ください!その後、Ωが日本国内で商品としての使用許可が降りた2044年にJAM社を設立しました。その後、皆様も使用しているリング型携帯電話「JAM PHONE1」を発売。現在はバージョン10まで発売されています。そのほかにも、「JAM EAR」や「JAM VISION」が発売されています。そして、ここでなんと、「JAM VISON」の新バージョンをお見せいたします!」
どうも社会科見学というよりも、商品説明の度合いが強いコマーシャルのようだ。
「というか、もうみなさん見てらっしゃるんです!」
下倉が手を大きく広げた瞬間――一瞬で下倉が消えた。
「え!消えたんだけど!」
「どういうこと?!」
すると、下倉が再び目の前に現れる。
「どうですか??みなさん!私が消えたように見えましたよね?しかしそれは…」
ビジョンの前に立つ下倉の横に、全く同じ格好の下倉が満面の笑みで歩いてくる。
「私はずっとみなさんの前にいなかったんです!ずっと喋っていたのは、新しい「JAM VISON」に映し出された私です。新しい「JAM VISION」は、平面的な映像ではなく、立体映像を映し出すことが可能になります。しかもこれは、直径2センチの球体1つで立体映像を出すことが可能になります」
完全に新商品のコマーシャルになったな。まぁ。会社としても、学生を招くなら自社製品でもなんでもアピールしたいか…。周りの展示は何があるか、物色するように見ていると、前列にも目線をしているのが2人。永愛と理恵であった。永愛はおそらく陰謀にまつわることを探しているのだろうな。でも、理恵は一体…。
「ということで、みなさん自由に展示をお楽しみください!」
下倉の声を皮切りに、展示室の照明が明るくなる。物色した中で興味ありそうな展示はなさそうだった。ここからは学業の虫となることはないだろうからな。だったら…
「一緒に回ってくれるの?」
声のある方に向くと、理恵が笑顔で立っていた。
「え?あっと…え?」
「えって、これくれたじゃん」
理恵が制服の上着ポケットから紙切れを見せると、そこには「自由時間回ろうぜ。由紀夫」と見慣れない字が書かれている。
「なに…それ」
「いや、永愛くんから貰ったんだけど…」
「ということで!小生と3人で回ろうではないか!」
いきなり2人の間に入ってきたのは、ずんぐりむっくりした小柄な男だった。
「小生がお2人を誘って、この社会に潜む陰謀を突き止めようということです!」
「あのさ、なんで巻き込まれなくちゃいけないわけ?自分はまだしも、理恵が…理恵さんがいくわけないでしょ」
「え〜楽しそう!」
「そうであろう!まさに理恵氏は本質的なものを見る審美眼と知的好奇心があるのですね!それでは、このメッセージを基づいて進もうではないか!」
ずんずんと進んでいく永愛の後ろ姿は勇猛果敢な勇者のような気迫を帯びていた。その後に続く我々2人はどうも気乗りしていないパーティーの僧侶と魔導師というところだろう。それでも、理恵…理恵さんと行動を共にできるなら乗らない手はなかった。
「理恵でいいからね?」
ふと、横でつぶやいた声に振り向くと、はにかむ理恵がこちらを見上げていた。
同日
見上げられているのは、私が立っているからだろう。見上げている本人は、元プロレスラーの190センチを超えるクリンプと大統領なのだから。
「え〜東方ジャーナルの…」
「水上です」
「そうか。率直に申し上げます。あなたが入手した情報の出所を教えてもらいたい」
「それは申し訳ないですが。言えません」
「…あなたが得た情報はこちらだろ?」
机の前にビジョンには、黒いジャージの男性が爆発する瞬間が映る。私が見た映像と全く同じだ。
「面白い情報を与えよう。君の言っていた情報は真実だ。宇宙人の爆発は人間もしくは人間をかたどった何かが爆発したことが原因だ。アメリカ政府はこの世界に宇宙人が人間を形どって既に潜入していると考えている。これを日本の東方ジャーナルの記事として、発表してほしい」
不可思議な状況と、素っ頓狂な提案に動揺を隠せなかったが、クリンプトは至って真面目な表情だった。




