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宇宙人総理  作者: 竹内遼
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14/15

#14

10月28日

「全ての生物に平等と平穏を!!」

「我々は宇宙人への攻撃を反対します!」

全体を緑に塗装され、車の壁面に白い文字で「EVE」と書かれた街宣車の大きな拡声器から甲高い声が響き渡っている。周りの緑の服を着た人々は「EVE」緑のライトを照らしている。

「あれって、永愛くんを調べてきたんだよね?」

「多分…」

校内から見ている理恵の表情は不安の表情を隠せないでいた。校門を隔てたとしても「EVE」の緑の一段は異様な圧力を出している。郊外へ出た瞬間に、彼らの空気に飲み込まれてしまうだろう。

「とりあえず、戻ろう」

理恵と自分を落ち着かせるように、わざと低く小さい声を出して教室に向かって一歩踏み出した。先ほどまでの空腹は一気に吹き飛んでいる。

 教室に入ると、ただ1人の生徒を除いた全員が窓にへばりついていた。彼らの視線には、不安よりも好奇心と面白がる気持ちが優っているようだった。

「なにあれ?やばくね?」

「え、なんかあったの?」

教室とは全く別の空間にいるような空気を漂わせる永愛は、頭を抱えて小さい体をさらに小さく丸めていた。「やばいやばいやばいやばい」

「いや、大丈夫。大丈夫だよ」

何が大丈夫なのか全くわからないが、とりあえずありきたりな言葉を出しながら、永愛の肩に手を置くとーービクッと永愛が反応した。

「何が大丈夫なんですか!?小生を狙ってきてるんですよ!」

「いや、まぁ…うん。ごめん」

「永愛くん。一旦落ち着こう?ね?」

「…申し訳ありません」

初めてだ。こんな気まずい空気。友達の少ない自分は、永愛という明らかにいじりやすいやつを適当に突っ込んで生きてきた。強めのツッコミでさえ、永愛の変な喋り方とつるんとした満面の笑みで全て流されてきた。だけど、だからこそ、永愛の不穏な怒りが振り撒かれるとは思わなかった。どんな状況でも笑って流されると思っていた。いや、どんな状況でもじゃないか。こんな状況想定していなかったんだから。

「あの人たちもきっと学校には入ってこれないわけだし。落ち着こ」

廊下での不安な顔から打って変わって、笑顔を作る理恵。あぁ、女子っていいな。

「あれ?教頭行った?」

「嘘嘘、話に行った?」

校門へゆっくりと怖気づきながら歩いていく教頭が見える。校門越しに何か喋り始めると、「EVE」の拡声器が止まった。俯瞰して2階からみると、「EVE」の緑の一団は作り物のように見えて、当事者であることを忘れてしまう。

「何話してんだろ」

「いや、うちの学校がなんかやらかしたんじゃね?」

「だれ?校長?」

教頭が少し話していると、指を当てて「JAM PHONE」を使っているようだった。

「…」

と、校内放送の雑音が入り、焦った声が入る。

「2年A組田辺永愛くん。田辺永愛くん。すぐに職員室に来なさい」

永愛と理恵と目が合った。3人共同じ思いを思っただろう…。

「なんでこんなことに…」

10月28日

「なんでこんなことに…」

首相官邸の待合室に座りながら、頭の中でぐるぐると考えていた。1ヶ月の間でアメリカの大統領に呼び出されるだけじゃなく、日本の首相に呼び出されている。私はいつそんなエリート記者になったんだろうか。確かに目指してはいたが、そこまで私は危ない橋を渡っているのだろうか。そもそも「NUTS」の掲示板で掴んだ動画が発端だ。まぁ、確かにものすごいスクープであることに違いはないが、ここまでのことなのか?流石に私が掴んだ情報ぐらい国がつかんでいないなんてことは考えづらい。

「東方ジャーナル水口さん。どうぞこちらへ」

この落ち着いた声は何度か取材で聞いたことがある。顔を挙げると、草薙総理秘書の熊倉希だった。

「…はい」

 木と石膏の壁が混在した美しい首相官邸の廊下を進みながら、緊張と恐怖で押しつぶされそうになっていた。ジャーナリストの覚悟というものを持っているつもりだったが、改めて問い直されているような時間。ここから逃げ出せば、平和に過ごせるのかもしれない。いや、逆に消されるのか。全ての可能性が頭をよぎる中、全くぶれない足元に我ながら安心させられる。

「こちらでお待ちです」

熊倉が誘う先には重厚な扉が聳え立つ。自ら開けて入れというのだろう。自ら覚悟を持って進んでいく覚悟。きっと扉を開いたら、後戻りはできないのだろう。だけど、進む。進まなければいけない。全世界のジャーナリストを背負ったような気分だ。だからこそ進むのだ。一息ついてから扉に手をかけようと伸ばす。ゆっくりと手が伸びるとーー少しだけ手が止まった。自分で止めようとしたわけではない。だけど、止まった。何かに止められたような。

「…」

全世界のジャーナリズムの覚悟よりも、個人の恐怖が襲ってくる。恐怖に直視しないように、目を瞑って、体重をのせた扉が開いていったーー。


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