#12
10月27日
活気のある東方ジャーナルのデスクは、昼夜変わらず動き続けている。そんな中、今日は一段と活気がある。その熱気の中央に立っているのはーーー私だった。
「ということで、水口の人体爆発の記事が東方ジャーナル史上1位のビュー数を獲得しました!」
滝上の大声はデスク中に響き渡った瞬間に、記者たちの歓声が上がった。歓声の矛先を向けられたら、どんな顔をすればいいのだろうか。とりあえず、横のビジョンに映った「680万view」を作り笑顔で見ることしかできなかった。
「じゃ、水口、一言頼んだぞ!」
最悪だ。こういう体育会系というかメディア系のノリにはついていけない。
「これからも、ジャーナリストとして真相を追求していきたいと思います!よろしくお願いします!」
歓声が大きく上がった。ノリは嫌いだけど、ノリに合わせた言葉はスラスラ出てきてしまうのは自分でも嫌になる。デスクに戻ると、滝上がニヤニヤと近づいてきた。
「水口。どうだ?」
「どうだってなんですか?」
「アメリカ様からなんか連絡来てないのか?あっちの要求を飲んだわけだからな」
「特に何も来てないですよ。連絡先なんて教えてないですし」
「お前の連絡先なんて、余裕で手に入れられるだろ。メールとか確認してみろ」
メールボックスを開くと、仕事のメールとNUTsの通知がたくさん来ていた。件名には「EVEと陰謀論のぶつかり合い」と書かれていた。情報収集のために私のAIアーロンは、NUTsで盛り上がっているというより血祭りに上がっている掲示板を知らせるように育てた。
「どうだ?」
「あぁ…来てないみたいですね。あっちの要求を叶えたら、用済みなんでしょうね」
特に見知らぬアドレスからは来ていないようだった。
「そうか〜鴨がネギ持ってくると思ったんだけどな〜。いやフライドチキンがフライドポテト持ってくるか」
「チキンを調理して、どうやって持ってくるんですか。チキンがポテトを持ってくるでしょ」
「あぁ〜そうだな〜」
ネタが来ないのと、シャレを論破された不機嫌をぶら下げて、孫の手で背中叩きながら歩いて行った。確かに、アメリカが何か動きをしてくるかと思っていたが。肩透かしにあった気分を払拭するために、AIアーロンの持ってきたネタを探るか。「JAM PC」を触って、AIアーロンのメールを開く。
「こちらのチャットをピックアップしました」
私のAIアーロンは無口めに設定している。世間では可愛くしたり、かっこよくしたり、騒がしくしたり、自分好みの会話相手として徹底的に個性を詰め込んでいく。恋のパートナーとするAIガチ恋勢も珍しくない。私は仕事のパートナーとして活用しているため、あまり喋らないで欲しい。職場で喋るやつが多過ぎるのだから、せめてAIだけでも口数を減らして欲しい。NUTsを開くと、コメントが大量に投下されていた。
「本当だ!永愛じゃないか!」
「どう思うんだ!」
「あの写真を投稿した意図をはっきり宣言してくれ!」
小生が投稿した本人です!小生はこの写真に対して、宇宙人に攻撃しちゃいけないとか攻撃するべきだとかはわからない!だけど!JAM社が軍事的なロボットを生産していることを隠していることは事実です!それは世間に晒すべきだと思う!」
「だからどっちなんだよ!」
「答えなさいよ!」
「僕は事実を世間に伝える!どう思うのかは小生が決めることじゃない!それが小生のジャーナリズムだ!」
コメントを文字情報で見ると、相当な罵り合いが羅列されていた。それにしても、「JAM Glass」とNUTsの掛け合わせによって、ネット空間は文字を打つのではなく感情的に喋る事が可能になった。匿名で文字を打っていた時代でも悲惨な状況だったようだが、匿名で喋る今の時代はより悲惨な状況が散見される。それにしても、晒し系個人が高らかにジャーナリズムを語るか。特定された「永愛」という人物を探ってみるか。
「…高校生?」
徳利高校2年という文字が踊っている。特定されているようで、「凸るぞ」「実際の写真を見してもらう」「住所特定」など恐怖しかない文字が放たれている。
「…」
銀色の球体が大量に並ぶ写真を見つめる。東方ジャーナルでは取り扱っていないはず。どこかの会社が記事にしてるか?白球体が並ぶ写真をAIアーロンにドラックする。
「この画像は記事にはなっていません」
どこも取り扱っていないか。とりあえず、ファクトチェック社に投げてファクトかどうか判断してもらうか?まぁ、フェイクの可能性は高いが。高校生のジャーアンリズムか。私は少し気になっているみたいだ。
すると、そこに一本の電話が入った。
10月27日
総理大臣室の整理整頓部屋の中で、冷静にビジョンを見ている。もう少しでかかってくるだろう。どんな内容をふっかけてくるかわからないが、こちらのカードは絶対に勝つ。まぁ勝ち負けではないが、外交というものは情報を持っているものが強気に前に出て先手を打てる。ビジョンに出現したーー「クリンプト」という文字。
「もしもし?草薙です」
「やぁ、クリンプとだ」
一瞬で翻訳をするAIアーロンの機能は、話者本人の雰囲気までトレースをしてくれる。
「早速本題だが、うちの国で爆発した例の動画。あれは本物だ」
「そうでしょうね」
「そうでしょう?何か掴んでいるのかな?」
「率直に伝えます。宇宙人はすでに人間に紛れている。何人潜伏しているかもわからない。宇宙人は人類に爆破攻撃という直接攻撃ではなく、じわじわと侵食してきている」
冷静に喋りながら、私の頬は上がっていた。翻訳をされていないが、クリンプトが戸惑っている空気は明らかに伝わってきた。




