#10
10月21日
「…ついに出たか」
ビジョンに映る東方ジャーナルの記事には、人体爆発の瞬間が載っていた。まぁいずれバレることだと思っていたが、意外に遅かったな。だが、あの画像どうも監視カメラ映像ではない。違和感があるな…。
「総理。そろそろ閣僚会議になります」
扉前に立っていた秘書熊倉に全く気づかなかった。
「あぁ…行こうか」
閣僚会議が開かれる場は、どうしても落ち着かない。記者たちがフラッシュを焚いて異様に光り輝く部屋。奴らのカメラは我々の弱みを握ろうと覗き込む悪魔の目のようだ。閣僚会議場から記者たちが出るまでは、各大臣は笑顔を絶やさない。
「というわけで、記者の方はご退出をお願いします」
熊倉の声が閣僚会議室に響き渡って、記者たちがゾロゾロと出ていく。記者たちが部屋を出て、熊倉が一礼をして扉を閉める。その瞬間にーー各大臣の顔が一気に冷たくなったのを感じた。いつも通りの流れが始まる。
「で、東方ジャーナルの記事について、あれは一体なんですか?戸部外務大臣」
総務大臣大貫が冷たく問いただす。汗をかいている小太りの戸部は焦って、ビジョンを操作する。
「そのっ、えと、まだ確証が取れているわけではなくてですね。そのっ、今だにアメリカへ確認をとっても返答はない状態でして」
「そんな緩い対応をしていていいのか?それで外務大臣とは…大丈夫ですか?総理の任命能力の低さが見えますね」
二川目幹事長の派閥、二川目派の大貫は徹底的に我々草薙派に嫌味を入れてくる。派閥政治は全て解消されたとされているが、やはり民自党ほどの大所帯になると人は思想という餌に群れる。まぁ、教育機関としての役割や、票読みしやすい意味で、派閥は一定の意味を持つ。一応、正式な組織としての派閥は消滅したが、形式上の派閥は存続することとなった。二川目派閥は親米派の二川目幹事長を中心として組織される。親米派として長年政権を牛耳っていたが、隕石衝突とΩの商品開発、日本の経済的復活を機に、日本独立を謳っていた父草薙正親を引き継いだ私が政権を担うようになった。組閣当時、二川目幹事長は外務大臣に大貫を任命しろと圧力をかけてきたが、同期の戸部を任命した。
「まぁ、アメリカの回答が来るまで待ちましょう。それより、総務大臣としてはネットでの誹謗中傷の事案の対処もお願いします。この前も、JAM社の陰謀論がどうのこうのってありましたよね?」
「ちっ…善処します」
「それじゃ、今日はこの辺で」
閣僚会議を終えると、いつものように総理大臣室の横の応接間に草薙派の主要メンバーが集まる。外務大臣の戸部、経済産業大臣の梅原ロマーノ、内閣官房長官の後藤田の3人。
「戸部さん、アイスコーヒー?」
ロマーノはイタリア人と日本人とのハーフであるが、細身の金髪をイタリア式スーツを着こなす様相は日本人の要素をあまり感じさせない。
「あ、お願いします」
戸部はいつでもアイスコーヒーを飲んでいる。小太りで汗をかく戸部は季節感を全く感じさせない。
「戸部大臣。困りますよ。大貫はあなたの弱腰の姿勢をいつも狙っているんです。あれぐらい毎回恒例でしょ?」
オールバックにしてメガネをする後藤田は閣僚というよりも極道の風格をいつも漂わせている。
「はい…申し訳ありません」
「いや、後藤田さん〜怖いですよ〜。戸部さん閣僚会議よりも汗かいてるじゃないですか〜。ここは冷静にいきましょ〜。で、戸部さん。アメリカは実際どういう反応をしているの?」
「それが、草薙総理に直接お伝えするという回答でして。オンラインで秘密裏の首脳会談をするのが要望です」
「総理。どうされますか?」
クリンプトが直接話すことを求めている。宇宙からの攻撃をあっちが掴んだということか?いや、そんなことはありえない。妥当に考えると、アメリカの機密事項を日本に暴露されて、記事を潰してくれという願いだろうな。まぁ恩を売っておくことに損はないか。
「明日か明後日に入れてください。時間は空いていれば何時でも構いません」
「承知しました。戸部さんお願いします」
「あっ、あの、はい!」
戸部はアイスコーヒを一気に飲み干し、すぐに部屋を出て行った。




