第三十一話
私は一瀬将さんから与えられた任務を途中離脱した。毎日のように通った怜利の屋敷で明、陽と一緒に呼び出しを待つことになった。
「成羅ちゃん、ご飯、できたってよ……」
部屋の外から明の声がした。布団が重い。出るのが億劫だった。それでも私は部屋から一歩だけ外に出てみた。
「よっ、大変だったみたいじゃん?」
陽がパンを片手に食堂にいた。土だらけの服で妖たちと並んでいた。明も陽の斜め前にいる。広い食堂も見慣れた光景だった。私はスープとパンだけをお盆に載せて端っこのほうに座った。前の席には門番のハルがいた。
「成羅様、お体の方は……?」
小さくハルの声が聞こえる。相変わらずの小ささだった。
「久しぶり。他の子は元気?」
ここにはハル以外に三人の怜利の式がいたはず。帰ってから見かけていない。
「……他の三方は任務に出向いています。怜利殿からの命です」
「そう」
私もハルもそれ以上口を開かなかった。
昼食を食べ終わった後、屋敷の反対側にある庭から掛け声が聞こえた。屋敷中が震えるような大きな声が汗臭さとともに立ち上がっていた。
食堂から明が出てきた。私のほうに歩み寄ってくる。
「気になる? ちなみに、私も驚いた。絶対見たほうがいいって」
明が庭のほうに走り出していった。私は溜息を吐いて、足を進めた。思っていたより重くはない。
庭を見た。そこにいたのは妖と人間だった。全員が揃った動きで型を繰り返していた。
「ね?」
明が背中に飛びついてきた。背中が熱くなった。
大勢の列の中に陽がいた。先生たちも。皆、混ざっている。大勢が集まった庭の反対側には紅さんがいた。そして、庭の真ん中には一際大きな声の人間がいた。一瀬さんだ。
大きな体が波打つように拳を突き出す。
怜利の打撃は一瀬さん譲りだったのか。その動きが伝播するように力強く空気が鳴った。まるで疾風の雷撃みたい。
「すごいね」
私は呟いてみた。抱き着いたままの明が返した。
「ね」
たったそれだけ。




