第二十八話
私たちは走っていた。朝日はもう上がり切っていた。とてつもなく長い海岸線を抜け、小高い山を越えていった。
「怜利、そろそろ御飯?」
列の先頭を走る怜利に並んだ。横顔は相変わらず。
「いいね、今日は何食べる?」
最近の怜利はこうだ。御飯休憩の話をすると、会話で何とか走り続ける。それも息が全く上がっていないのだから不思議なものだ。私なんてこの前の組み手からずっと太腿が筋肉痛。痛くて途中から飛んでいる。
それももう何日目だろうか。樹海屋敷の当主さんと会ったのが二週間前?で、それから東京の術者屋敷に入って情報収集。それで、今走ってるわけか。そろそろ富士山が見える頃かな?
例にもよって、彩は無限鞄の中で御飯を作っているだろう。あー、ご飯食べたい。
「怜ちゃん。芦ノ湖あたりで、ご飯にしよう。皆疲れてる」
悠希さんが私たちの横に並んだ。怜利の横顔がまた静かに微笑んだ。
富士山のすぐ近くだった。陽の光が斜面にまっすぐ刺さる。肌が焦げるような暑さの中なのに、空気がやけに冷たい。不思議な空気だった。
「気付いた?」
コップを片手に、悠希さんが隣に歩いてきた。
「なにに?」
私は聞いた。悠希さんも不思議な人だ。何を言ってるかよくわからない。
「空気、違うでしょ?」
悠希さんの視線と一緒に、霊峰を見つめた。
「きれいだね~」
横に怜利が並んでいた。またコーヒーだ。というか、最近私が行かなくても近くに来る。面白い奴。
「またコーヒー?好きだったっけ?」
小さい頃はミルクティーばっかだったのに大人げが出てきてなんか嫌だ。
「別に~?」
怜利はまたコーヒーを啜って、おにぎりを頬張った。
左隣に悠希さん。右に怜利、後ろに彩。なぜだか皆に囲まれて、朝とお昼ご飯を食べた。太陽が温かくて気持ちがよかった。
まあそんなことを思っている暇もなく、私たちはまた走り出した。どうやら怜利は少しだけ急ぎ始めたらしい。一昨日辺りに「出雲に行きたい」とか漏らしていたような気がする。楽しみなのかもしれない。
また、疾風が術を使って爆速で進みだした。怜利の走りが速すぎて全員が素の走りじゃ追いつけなくなっている。怜利以外はみんな術を使って移動している。と言いたいところだったが、幸璃もダッシュだった。フィジカルモンスターだ。
私たちは夜中まで進み続けた。太陽が沈み、月が空に光っていた。とうとう海の見えない山の中を走り続けている。木々の間から見える怜利の影がどんどん小さくなっていく。
「成羅、ちょっと怜利速すぎねぇ?」
疾風が私の横まで飛んできた。その後ろから悠希さんも大きな水流を出しながら飛んでいた。景色がどんどん流れて行って、一体どんなスピードなのかも分からない。
「速いねほんとに、」
長い髪の毛が重い。縛っていたのもいつの間にか解けてしまった。
「ちょっと聞いてくる、」
疾風が『風術』から『雷術』に組みなおして、稲妻になって怜利の近くまで飛んで行った。音がでかい。
私と悠希さん、それから遥か後ろにいる幸璃は前にいる怜利を淡々と追っていった。




