第二十七話
朝になった。昨晩から、ずっと三人で順繰りに組み手を続けた。ノー休憩ノー飯ルールが通ってしまった。まあ、驚くこともないけれど、怜利と悠希さんは帰ってこなかった。
私はというと、今、二対一をしている。もちろん幸璃を倒す幸璃レイドだ。
「遅い、」
幸璃の呟きが聞こえた瞬間、腕が幸璃に取られて宙に投げ飛ばされていた。
「皆ー、そろそろご飯食べない?お腹空いたよー」
彩の声を合図に、疾風と幸璃の立ち合いも終わった。
「成羅ちゃん何食べる?」
彩が座り込んでいた私に訊いてきた。
「あー、お茶漬けがいいかな!怜利が買ってたやつ」
彩は私の言葉を聞きながら、私の後ろを見た。
「待った、成羅。もう鱒の茶漬け二個目でしょ?」
真後ろから怜利の声が聞こえた。
「……いつ帰ってきたの?」
私は、後ろを見れなかった。なぜなら驚いたから。そう。そういうことにしておく。
「いや、ちょっとね。ね?悠希さん、オサムさん……」
オサム、と呼ばれたお兄さんが怜利の後ろに付いてきていた。
「はい、はじめまして皆さん。樹海屋敷当主、八神修です。皆様のお噂はお聞きしております」
堅苦しい挨拶だ。眼鏡をしている顔もガチガチだった。怜利は、そんなかしこまらないでください、とか言ってる。堅いやつらだな、二人とも。
まず、この旅が始まった理由として、戦争が始まりそうだというお話だった。けれど、人間界の『ヒーロー』一瀬将さんの戦争などするべきではないという主張を掲げる『一瀬派』が声を挙げたおかげでどこの屋敷もいよいよ臨戦態勢を整えだしたそうだ。
そして、妖の降りてくる重要な土地、樹海を治める『八神樹海一派』。全体の意向としては術者が主体の『常世勢力』の敵対『現世勢力』に回るらしい。困った困った。
「そんなことになってしまい、申し訳ないです……!怜利君、本当に申し訳ない……」
テントの中に入って話を聞いていても、修さんはずっと土下座のままだった。そのすぐ後ろでは彩がティータイム中だった。あまりにも図太い。
「まあまあ、修さんが私に付いてきてくれるのが、一番心強いですから。本当に、ありがとうございます」
怜利は修さんの真正面に座って、お茶を出している。
「修さんは屋敷の当主なのに大丈夫なのですか?」
悠希さんが訊いた。確かにそうだ、樹海屋敷は八神の治めている土地の中で三番目くらいに大変なところだって聞いたことがある。
「私はもちろん、屋敷にいる者を、皆を守らなくてはいけないので、旅に同行することは出来ません」
怜利も悠希さんも頷いた。
外から、疾風が吹っ飛ばされてきた。テントが歪んで、次のまばたきにはテントの幕が視界を覆っていた。
「わりーわりー!」
疾風がそう言いながら幕を回収していた。くるくる腕に纏めてしまって、ぐしゃぐしゃだ。
「ごめん、みんな」
幸璃が冷や汗をかきながら、頭を下げた。感情のこもらない謝り方だこと。また、この二人は組み手でもしていたのか。
「あれ?あんた儀式のときの?」
疾風と幸璃が修さんを見て言った。儀式?八神の当主を決めるための『清めの儀』のことだろうか。
「あ、あの時の子たちなのですか?……いやぁ、すごいな……」
私の知らない話を皆がしていた。いつも無表情の悠希さんも混ざって楽しそうに話してる。やっぱり当主を決めるときの奴、行けばよかったな。
長々と話をして、一つだけ私が分かったことがある。どうやら、修さんは戦争が起きたとき、当主として統率をするけれど、修さんは私たち『一瀬派』の味方になってくれるそうだ。
「よし、じゃあ。そういうことだから、皆でどんどん他の屋敷を回らなくちゃね!」
修さんが帰った後、怜利が皆を集めてもう一度状況整理をしてくれた。まあ、要するに。私たちは八神家の中で勢力がどう分かれるかを知ればいいらしい。屋敷を回るのはあと十三か所だ。
私たちは、夜ご飯を食べた。それから、また私たちは走り出した。




