第二十一話
私たちは、六人で道を進んだ。あの後、
「やっぱり私も帰る」
と言って聞かない明を怜利が『飛天』で飛ばした。
八人で走っていた私たちの列も、たった二人減っただけで妙に短く感じた。
さっきまでいた陽の声はしない。もうしばらくはぴょこぴょこした狐耳を見れない。むかつくほどいちゃいちゃしていたあいつらは、もう故郷に着いたのかな。
なんて感傷に浸ってみる。
「疾風、速度上げよう。皆に『疾駆』をおねがい」
「おーけー」
疾風が私たちの前を飛びながら術輪を投げてきた。術式が足に回りだす。
どんどん一歩で進む距離が伸びていく。速過ぎる。考え事なんかしてる場合じゃない。
「え、おい!」
疾風が悠希さんに怒鳴った。悠希さんは疾風の術式を解いた。水術式を足に纏わせていた。
「こっちの方がいいよ」
術式を纏った足元と腕から、たくさんの水を吹き出して飛んでいった。あっという間に私たちを抜かしていった。一番後ろにいたのに先頭の怜利も抜かしている。
「まっけねーぞー」
疾風が木の幹を蹴っ飛ばした瞬間に火花が舞った。音が遅れて防風林に響いた。
一体、あのバカはなにしているのだか。ただの移動に雷術を使っちゃって。あれじゃあ妖力ももたないだろうに。
「おれも、」
幸璃がその後を生身で付いて行った。明らかに速度は負けているが、疾風の術式が付いた私達よりは断然速い。
怜利が少しだけ速度を緩めて、私の真横に来る。
「どうする?」
怜利はこっちなんか少しも向かないでそう訊いてきた。
「急ぐ?」
横顔を見詰めてやった。相変わらず日に透けると茶色い髪をしている。成長しても黒くならないのだろうか。不思議な奴。
「じゃあ行こっか」
そこでやっと目が合った。少しだけ考え事をしている目だった。そのくらいは分かる。
氷術を使って、空中を滑った。流れる景色は走っているときよりも速く消える。
それを横から見ていた怜利も同じように、氷術を使って滑っていく。少し不器用だった。
「むずいね、」
怜利の小さな声が聞こえた。怜利は途中で『獄縛』を展開して、どっかの蜘蛛男みたいにスイングしていった。
「よし、着いたね」
少し前に来たことがある漁港に着いた。大きな水族館と、ショッピングモールもある。本当だったら、来年の修学旅行で来るはずだったのだけれど。
みんな普段着に着替えて無限鞄に荷物を全部しまった。怜利の無限鞄から彩が飛び出てくる。お昼から二時間ずっと、落ち続けていたのだ。
「皆、今日はここの周りで泊まることにするから自由にしてねー」
怜利が疾風の襟を掴んでそう言った。疾風はもう水族館の方に行く気満々だ。怜利の力だけじゃ止まらない。
「あの、皆本当に問題だけは起こさないように、気を付けて。」
悠希さんも私たちに釘を刺してきた。
「――何あの子たち。」
後ろからふと聞こえた気がした。若い女の人だった。
こういうんだから嫌なんだ。怜利の近くにでもいれば何とかなる、と思ってだか、自由時間なのに結局怜利の周りから皆離れなかった。
「怜利どこ行く?」
訊いてみた。行く場所は分かっているけれど。
「水族館行こうかな」
思った通りだった。そのくらいは分かる。
「私も行ってい――」
「あ!俺も行く!」
疾風が横から入ってきた。
「怜利!券買って」
疾風が手のひらを怜利に出した。コイツ。
「なあ、お前らうるせえよ」
私たちがまとまって水族館の入り口に向かうと、若いお兄さんがそう言ってきた。内心またこれか、と思える。
「なんか文句あるの?」
疾風がそう言った。
「疾風。」
怜利が疾風の腕を引いた。その腕を幸璃が引っ張って。疾風の口を塞ぐ。
「どうもすみません、うちのバカが。」
彩がそう言う。怜利も悠希さんも同時に頭を下げた。
別にそこまで騒いでないけれど。私も頭を下げておくことにした。
「わかりゃいんだよ、人外のくせに騒ぎやがってよ。」
「すみませんー」
怜利がそう言った。私たちはそれからしばらく話さないことにした。
「おかしいよ、」
そう言った彩の独り言がやけに私たちの間に残っていた。
「成羅、フェネック」
「疾風ー、アロワナ」
「見て見て、カサゴ!」
と、怜利がやけに明るい声で私たちに声を掛け続けた。
怜利がふーっと、息を吐いた。
「なあ、怜利。俺らうるさい?」
横でぼーっと水槽を見ていた疾風が、突然口を開いた。
「全然だと思う」
ベンチでアイスを食べていた悠希さんが言った。
「出よっか」
彩がそう言った。続いて幸璃が出口に向かった。
水族館の涼しい空気に、人の子の楽しそうな声が響いていた。




