第二十話
私たちは、また八人で道を進んでいた。
朝から海の見える海岸沿いを走り続けていた。頬に生温い潮風が当たるのも、どこか心地よかった。半日もしないうちに阿武隈川の河口まで下ったが、脚は軽い。二百キロ近い道のりもあっという間だった。
「お昼食べようかな?どうするー?」
怜利が振り返る。既に十三時半。結構前から私のお腹が鳴っているのは秘密にしておきたい。
「たべるだろ、え、皆食べないの?」
疾風が一列の真ん中辺りから声を上げる。幸璃に背負われた彩もお腹が空いたらしい。あんぱんを食べている。
「止まりましょ」
怜利のすぐ後ろを走っていた悠希さんが一番に足を止めた。
「ふぃー、疲れたぁー」
陽が地面に座り込んだ。陽の背中を押して、無理やりストレッチさせる明も汗だくだった。
「樹海屋敷まで行くの?」
悠希さんは荷物を下ろしながら訊いてきた。怜利が答えた。
「オサムさんと会わないとだからね」
八神 修、私でも知っているくらいのバケモノだ。
彩が味噌汁を準備してくれた。いつもの美味しい匂いだ。
「ありがとう、片付けやるからね」
彩からお椀をもらった。
「いいのいいの、私このくらいしか出来ないし」
彩は顔の前で小さく手を払った。
「邪魔」
疾風が蹴ってくる。脛当てが茶色くなった。
「なにすんの」
疾風の脚を蹴り返した。
幸璃に首根っこを掴まれて、二人共、宙に浮いた。
「ごちそうさまでしたー」
大きなおにぎり二つと、彩の味噌汁を食べ終わった。正面に座っている怜利は四つ目のおにぎりにかぶりついていた。膨らんだ頬が可愛い。
「おいしい?」
怜利はモグモグしながら頷いた。可愛い。
「んー、ごちそうさま」
怜利はあっという間におにぎり五つを食べてしまった。
「どしたの?」
見つめてきた。口元に米粒が付いてる。かわいい、やばい。
「いや、なんでもない」
「うん、えーと、今、二時かな?半日進んで水族館辺りに戻れるかな?」
明が走ってきた。
「ごめん、ちょっと来て」
陽が横になっていた。左の太ももを巻いた包帯が朱くなっている。
「血、止まってないみたい。陽も痛いって」
それを聞いた怜利の目はさっきの可愛い目ではなかった。
「陽、痛い?」
起き上がろうとしている。
「だいじょぶ。行けるから。もうちょっとだけ休ませて」
怜利は寝ている陽の耳元で何かを囁いた。
陽は途端に眠ったみたいに崩れた。『言』だろうか?
「寝かせただけだよ。安心して」
その言葉は明に向けたものだった。
怜利は皆を集めて話を始めた。
「――と、そんな日程でこれから進むのだけれど」
相変わらず疾風と幸璃は組手をしながらだ。悠希さんと明が暗い顔で俯いている。
「陽の傷が悪化しちゃったみたいで。これどうしようかなと思って、緊急会議ね」
幸璃が疾風の拳を止めた音がした。
「――――だよ。日程通りに動くんなら、七人で動くしかないと思う」
明が少し辛げにそう言った。私も頷きかけた。
「でもさ、陽の気持ちは?どうなん?」
疾風が口を出す。そういえば陽の気持ちは、聞いてなかった。
「自己判断に任せることは出来ない。ごめん」
怜利が声を大きくした。学校でもそう習ったのだ。任務を最優先にする、それが原則だった。
「あのー、怜くん。陽を連れてっても間に合うかな?」
彩がいつもの調子で話しだした。
「ほら、私を無限鞄に入れてるみたいに、連れてっていけるなら、その方がいいんじゃないかなーって」
しばらく誰も何も言えなかった。そうしたいのもそうなんだけど、戦闘のある任務に怪我人を同行させることはタブーなんだ。
「私もそう思うよ怜利」
私はそう言った。いけないことは分かってる。でも今、陽を置いて行くのは少しだけ嫌だ。
怜利は唸った。皆が怜利の答えを待っているみたいに見つめていた。
「うん、陽に訊けばいいや」
そう言って寝ている陽に歩み寄った。
「『起』」
怜利が『言』を使った。呪文のようなものだけれど、言の方が強い。使える人はそうそういないらしい。
「ん、いってぇ……」
そう言って陽が目を覚ました。
「わ、」
耳を押さえて、少しだけ赤い顔をしながらこっちを向いた。なんだこいつ。
「陽、私たちのスピードに付いてこれる?」
鼻先がくっつきそうなくらい、近くで訊く怜利の顔を見つめて、陽は息を呑んだ。
「ムリ、痛いし、速いし。おれ付いてけない。」
陽はそう答えた。明が怜利を引きはがした。
「じゃあ、そんな感じで。陽は実家に帰るってことで。本家のトレーニングルームは自由に使って」
怜利はそう言った。でも、一体どうやって帰らせるのだろうか。
怜利が無限鞄からいつもの剣を出した。それで地面に陣を描き始めた。
「転移術式……」
悠希さんが呟いた。禁術、と言っていた。
「違いますよ?」
怜利は書き終えた陣の周りにもう二周だけ書き加えた。
「この術の名前は『飛天』です」
地面に手を突いて陣に妖力を込めだす。明が真似するように手を突いて妖力を発した。
「ちょっとくらいやらせて」
私も手伝うことにした。グングン陣に妖力を吸われていく。
「二人共きついでしょ、放していいよ」
怜利が呟く。やっぱり怜利の妖力は減らない。
突然陣が輝きだした。陣が持っていた妖力が半分になっている。
「おっけー、完了完了ー」
荷物をまとめ切った陽が陣の真ん中に立った。
「ありがと、怜利」
陽がそう呟いた。目線は明に向きっぱだ。なんだこいつら。
怜利が印を組んだ瞬間、陣の縁が光の壁になった。
それが消えるころにはそこにあったはずの陣も、いたはずの陽も消えていた。
こんばんは。音神 蛍です。
とうとう二十話になりました。読者の皆様のおかげで、二十話も投稿出来てしまいました。ずっと頭の中にあった物語が、文字になり少しずつ物語になりつつあるこの状態がとても嬉しいです。
さてさて、『言』だの『飛天』だの、術式が増えてきましたね。分かり辛いですよね。すみません、描写力が未発達なもので上手く書けません。少しずつトレーニングしていこうと思っております。お許しください。
まだまだ短い物語ではありますが、今後とも読んでいただくことが私の励みになります。今後ともctWを、音神 蛍をよろしくお願いいたします。
ではまた。




