辞職願
王位を拒むのに、四語で足りた。
「ならない。忙しすぎる」
提案者は、もっと長い場面を用意していたらしい。
手に賛辞の巻があり、一行目は「万路の王、十二炉の守護者、黒日を終わらせた者」と書いてある。
アランが覗き込む。
「最後の一つは残していい」
「なりたいのか」
「武器は法により王位を相続できん。調べた」
セインが王位提案を机へ戻す。
「拒否には正式な理由が要る」
「章程にあるか」
「ない。だからこそ記録が要る」
停戦後の最初の連合議会は、旧風笛の庭へ移った。
十九枚の机は広間に入らず、空の炉煉瓦を囲んで並ぶ。宿泊客が二階から顔を出し、ボニーは、国家制度の議論を理由に昼食を遅らせるなと全議員へ通告した。
理由は宿の古い帳簿の裏に書いた。
第一、炉火はすでに分散している。最終道路権を持つ一人を置いてはならない。
第二、共同体の成員は違う国と都市から来ている。王位は協働を忠誠へ変える。
第三、僕には経営失敗の記録がある。
第三条は議会が削った。
憲制と無関係、という理由だ。
「かなり重要だと思う」と僕は言った。
ルミラが四十七頁の停戦文書を前に置く。
「王にならないのはいい。戦後制度を『皆が自発的に』だけでは書けない」
既存の連合領章程へ条項を足した。
どの都市、宿、学校、病院、国家も、道路共同体への加入を申請できる。
加入は現地の法的帰属を変えない。
成員は公開手続で離脱できる。財産は没収せず、旅灯は消さず、住民は罰しない。
国境を越える道路は、両端の同意が要る。
共同体の仕事は道路の相互開放、標準変換、貿易紛争、災害救援、成員が授権した共同防衛だけだ。
分火の強制はしてはならない。
救援を理由に駐屯してはならない。
加入拒否を敵対と見なしてはならない。
どの条にも反対する者がいた。
商人は離脱後の債権回収を心配し、債務は離脱で消えない、と足した。
国境都市は道路開放で逃亡者を招くと心配し、都市間の司法照会を作った。ただし現地法廷を経ずに直接捕らえることは禁じる。
小さな宿は審査費用を心配し、ボニーがベッド規模で料金を取る案を出した。ベッド七の店に王都病院と同じ書類を負わせてはならない。
ガルドは、すべての分火箱に統一ねじを使えと要求した。
十二城の技術代表がその場で争い始めた。
最終的に第五巻の変換標準を採る。現地のねじは違ってよい。継ぎ口は変換できねばならない。
「四年かけて、一つ覚えたな」と僕は言った。
「四年かけて、全部同じにしろと言わなくなったのはお前だ」ガルドが答える。
章程を書くのに十二日かかった。
そのあいだ、僕はカウンターへ戻って働いた。
主炉を失ってから、宿の夜間の問題は明らかに増えた。以前なかったのではない。宿泊客が扉を叩いてから、ようやく知るようになっただけだ。
七号室が漏っている。
九号室は唱歌煉瓦が夜中に鼻歌を歌うと嫌う。
帝国の退役兵士が制式の長槍を広間へ持ち込み、銅湾から来た子供を驚かせた。
武器はカウンター裏の錠箱へ預けろ、と要求する。
「もう軍人ではない」と彼は言った。
「だから普通の宿泊規定だ」
彼は長槍を渡し、木札一枚を受け取る。
退店時、札で取り戻せる。
規則は、昨日どちら側だったかを知る必要がない。
十三日目、大陸道路共同体章程が公開で通った。
建国の祭はない。
各地は先に鉄道を直し、糧倉を補い、人を家へ送っている。最初の共同予算は石梯堡の共同便所の再建に使われた。戦争中、水管がすべて帝国標準継ぎ口に替えられ、元の河妖バルブが繋がらなくなっていたからだ。
ガルドは、自分が王になったように喜んだ。
議会は続いて職を選ぶ。
セインが初代の民選防衛官に選ばれた。
宣誓して忠誠を誓う相手は章程だ。
ついでに僕へ感謝を書けと頼む者がいた。彼は正式宣誓へ入れることを拒んだ。
ルミラは道路と糧食の委員会へ入る。第一提案は、すべての難民受け入れ点は実在庫で数を出せ、「だいたい足りる」は使うな、だった。
ガルドは工業変換標準を担当する。
着任当日、事務所予算を一割九上げた。
フィアは国境越え風路と宿網の調整役に推された。
職名を見て、「調整」を消せと要求する。
「なぜだ」
「会議がたくさん開きそうだから」
「もともと開く」
「なら拒否する」
最終的に風路総責任者へ変わった。会議は減らなかった。
総管理人の番になり、指名名簿にはまた僕の名があった。
用意した紙を出す。
セインが一通読む。
「辞職願か」
「そうだ」
「理由は一行だけだ」
「足りる」
紙にはこう書いてある。
|体系は、僕がいなくても扉を開けられる。|
議会はすぐには同意しなかった。
戦後はまだ不安定だと心配する者、少なくともオードランの裁判が終わるまで待てと言う者、終身名誉職を残せと言う者もいた。
「名誉職に給料は出るか」と聞く。
「出ない」
「なおさらいらない」
フィアが窓枠に座り、脚を揺らす。
「行かせてやれ」と彼女は言った。「彼が宿へ戻らないと、旧風笛今期のシーツがまた三十七枚減る」
「なぜ減る」
「あなたがいないと、ジェリーが洗濯場を滑り台にする」
ジェリーが庭の隅で、こっそり小さくなる。
ルミラが最後に賛成票を入れた。
「辞職していい」と彼女は言った。「ただし宿網の救援当番は漏らすな。共同体が天野陸に依存しないことと、天野陸が当番しなくていいことは別だ」
「受ける」
採決が通る。
総管理人の印章、都市領域の記録冊、連合議会の最後の鍵を渡した。
アランは渡さなかった。
アランは自分を独立した歴史遺物だと言い、どの壁に掛かるかを選ぶ権利があると主張した。
「吾は旧風笛カウンターの真後ろを選ぶ」とそれは言った。
「そこは宿賃表だ」
「宿賃表は動かせる」
「動かさない」
最終的に、宿賃表の隣へ掛かった。
夕方、旧風笛二階の事務所から「総管理人」の門札を外す。
扉の向こうに、四年分の地図、公文書、精算していない領収が積んである。
新しい札に替える。
|共同経営者事務所。|
フィアが梯子の下から見る。
「なぜ名前の場所が二つある」
「お前も店主だからだ」
「給料は」
「共同経営者に固定給はない」
「今から、王を続けろと支持する」
口ではそう言い、自分の名は書いた。
その夜、いつもどおり大門の錠を確認した。
十二城からの報告はない。
遠い炉火は、遠い人のものだ。
カウンターにあるのは明朝の宿泊表、屋根直しの帳、まだ返っていない鍵二本だけだった。
初めて、本当に臨時の管理人ではなくなった。
ただの宿屋の店主だ。




