↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銅貨一枚で廃駅舎を買っただけなのに、魔物の荒野で国ができてしまった  作者: Karr


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
80/83

十九枚の机

停戦会場には机が十九枚あった。


十二枚は炉火都市から来た。


七枚は北境で最初に作った、動かせる円卓だ。


繋ぎ合わせると中央に隙間が三つ残る。ガルドが長いこと測り、一枚の角を削らねば絶対に隙間なく合わない、と宣言した。


「削るな」七盟の代表が同時に言った。


「なら隙間を残せ」


大陸の戦後秩序を決める会場の中央から、茶椀が三個落ちる。


僕は、ちょうどいいと思った。


会場は黒日の残骸そばの魔導車点検庫で、晴風でも帝都でもない。


四面の壁は全部外してある。


帝国住民、連合領住民、戦地記者、ゴブリン劇団が警戒線の外から見える。反響煉瓦が十九枚の机を一周し、一枚が一分録り、次が一続きにする。どの側も扉の向こうで言い直せない。


公開停戦だ。


勝者の召喚ではない。


オードランは帝国席の中央に座り、手に鎖はない。


黒剣はセインが登記して封じ、人と剣は分けて審査する。帝国近衛は会場外で武器を置き、中立の赤盾衛隊が見ている。


「なぜ縛らない」見物人が一人叫ぶ。


「今は停戦に出ているのであって、裁判を受けているのではない」セインが答える。「裁判手続は次の段階だ」


「逃げるぞ!」


「十九本の道路に、人が登記している」


オードランがセインを一目見る。


「お前はまだ手続を信じるのか」


「手続がないとき、次の勝者も自分は例外だと言うと信じている」


第一項は賠償ではない。


行方不明者の名簿だ。


帝国は道路中枢へ強制移住させた十二万七千人の記録を出し、連合領はすべての捕虜と、すでに受け入れた兵士の名簿を出す。双方が宿網、病院、駅で照合する。


反響煉瓦が四時間、名前を読み続けた。


長いと嫌う者はいなかった。


第二項は負傷者の通行だ。


まだ交戦の縁にいる部隊は十里後退し、病院道路は即時開放する。道路の両端が同意し、負傷者は武器を下ろし、陣営、種族、通貨で診療を拒まない。費用は先に共同救援金が払い、戦後に責任で分担する。


ボニーが場外からスープを運んできた。


帝国代表が椀を見る。


「先に検査が要るか」


「先に支払いが要る」と彼女は言った。


十九枚の机が、初めて揃って静かになった。


アイザックが先に払い、この分を商盟の戦時サービス支出へ入れろと要求した。


第三項が、ようやく停戦線だ。


連合領は帝国軍に、占領都市からの全撤退を求める。


帝国の臨時代表は、沿線の治安隊を残したいと言う。撤兵後の略奪を防ぐためだ。


石梯堡の代表が、その場で拒んだ。


「入城して議会を閉じた者が、今また、お前たちがいなければ自治できないと言うのか」


「帝国の撤退には七日要る」


「三日だ」


「五日。重武器を先に引け」セインが提案する。


「四日。地方倉庫は即時返還」とルミラが言う。


争いは夜まで続いた。


天野陸が立って、顔を立ててくれ、と言う場面はない。


最終条項は四日半。帝国の重武器は二十四時間以内に封印し、地方議会は即時復旧し、治安は現地代表、帝国の残留員、中立観察員が共同で引き渡す。


面倒だ。


一剣斬るより、ずっと面倒だ。


だが五日目の朝、石梯堡の城壁に自分たちの山梯旗が再び掛かった。


第四項は黒日だ。


帝国は核心の研究保持を求め、再起動はしないと約束した。


十九枚の机のうち、同意した一枚もない。


ガルドが解体一覧を出す。許可柱は普通の軌材へ溶かす。灰罐の名簿と地方印章は現地へ返す。黒日の外殻は国境越え駅の屋根にする。核心術式は公開封印し、多国がそれぞれ一部を持ち、一国では復元できない。


「屋根の予算が二割超過だ」と僕は言った。


「一割九だ」と彼は訂正する。


「通し」


第五項は帝国の未来だ。


連合領内には、曜石帝国を十二の占領区へ割れ、という声がある。


僕は拒んだ。


「晴風は帝国を併合しない」


連合軍の将が一人立つ。


「奴らは僕たちの街を焼いた」


「個人賠償、公共修復金、戦争責任の裁判、どれも欠かさない。併合は賠償ではない」


「駐屯しなければ、また攻めてこない保証は誰がする」


銅湾議長シズが中立席で口を開く。


「当初、僕が離脱したあと帝国へ靡かない保証も、君たちにはできなかった」


「結果、しなかった」


「だから選択を許すことは、相手が間違える可能性も含む」


オードランが、初めて自分から話した。


「後悔するぞ」


「かもしれない」と僕は言った。「だからといって帝国の各都市の代わりに決めない」


帝国の各行省は九十日以内に地方議会を復旧または新設し、帝国を残すか、連邦を組むか、法に従って離脱するかを自分で決める。旧皇室に派兵して干渉する権限はない。連合領は選挙観察と道路救援を出す。総督は送らない。


オードランは皇権を失った。


僕が王冠を外したのではない。


帝国臨時議会が停戦授権と罷免決議を公開で読み上げた。黒い王冠は帝都から運ばれ、証拠箱へ入り、番号、封、証人二人の署名が付く。


公開裁判を受ける。


罪名は侵略の発動、自発移住の偽造、都市炉火の強制抽出、人口の違法徴用。裁判は帝国自治議会、被害都市、中立法官で共同構成する。僕は担当しない。


「軽すぎる判決が怖くないのか」と誰かが聞く。


「怖い」


「ならなぜ自分でやらない」


「自分が重すぎる判決を出すのも怖いからだ」


停戦文書は四十七頁あった。


セインは毎頁読むと譲らない。


三十頁目で、ベリーが会場外に伏せて眠り、鼻息で信号旗を二面飛ばした。ジェリーが机の下を一周転がり、落ちた茶と銀貨一枚を食べた。


最後の頁を読み終えたとき、太陽が黒日の残骸の後ろから昇っていた。


オードランが先に署名する。


僕は勝利者としても、新しい皇帝としても署名しなかった。


名は「晴風連合領総管理人」の後ろに書いた。


銅湾は離脱都市として署名する。


赤盾、アスタ、竜谷、帝国臨時議会が順に署名した。


十九枚の机が、それぞれ自分の印章を残した。


正中に押された印は一枚もない。


停戦の鐘のあと、連合領席の誰かが新しい提案を渡してきた。


表紙に金字が押してある。


|天野陸を大陸道路共同体の初代国王に推す提案。|


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。