兵士が帰る
黒日が裂けても、戦争はすぐには終わらなかった。
帝国には三十万以上の軍がある。
連合領は、なお四都市を失っている。
中央軍の統帥は空に太陽が戻るのを見て、最初の命令を全線進撃とした。
命令は統一反響塔を通り、三路の軍営へ広がる。
次いで、別の声も入ってきた。
「灰帽旅館、ベッド七を開放する」
「白脊山第二病院、武器を置いた負傷者を受ける」
「南河村は百四十六戸が地元徴集兵の帰還を受ける。他所の兵士は三晩まで滞在できる」
声は雑だ。
震えている者、地名を読み間違える者、宿賃まで読み上げる宿もある。
降伏しろ、と言う者はいない。
どの知らせも、ただこう言う。ここに路がある。ここに扉を開ける人がいる。自分で歩ける、と。
僕は裂けた黒日の核心に立ち、アランを上げた。
主炉は、もうない。
掌に金火が湧いてこない。万家の帰途は、僕の体から生えたものではない。
すでに点いた分火から来る。宿、学校、病院、扉を開けると決めた村。アランは、本当に存在し、両端に受け手がいる路だけを示す。僕は剣を握り、線を見えるようにする。
力は、僕のところにはない。
まだ路口に立っている人間だ。
万家の帰途が外へ広がる。
壮大な大道にはならなかった。
数えきれない細い金線が軍営、塹壕、駅、占領された都市を貫く。終点は一本ごとに違い、帝国へ戻るもの、中立都市へ向かうもの、いちばん近い病院までしか届かないものがある。
足元に路がない兵士も多い。
故郷が分火を開いていないか、受け入れる者がいない。
道路は、終点を空から作らない。
「登記を補え!」ルミラの声が反響煉瓦から届く。「各都市は実ベッドを出せ。願望だけはだめ。共同厨房は在庫で人を受け、満額ならすぐ閉める」
「晴風はあと何人受けられる」
「一万二千。超えたら明朝、椀が足りない」
「一万二千と出せ」
旧風笛の宿網が名簿を各地へ分ける。
唱歌煉瓦と反響煉瓦が戦時の通信鎖になる。第一巻で借金を返し、ガルドの鼾を覚えた煉瓦は、今も一分しか録らない。次の駅が復唱を続ける。ゴブリンの信号隊は色の違う煉瓦を凧へ結び、魔法のない村でも開放の方角が見えるようにした。
羽民が高空で校正する。
竜運隊が分火箱と雲毛の降下毛布を投下し始める。
ベリーが黒日の裂け目から急降下してきた。背の鎧が一塊足りない。
「応接が着いた!」彼女が叫ぶ。「補給ケーキは我慢した!」
「戦報に書ける」
「一行目に書いて」
フィアが竜の背へ跳ぶ。
彼女の国境越え風路は、もう連合領の民間人だけを退けない。赤盾公国が領空を開いてから、帝国の負傷者も通れる。ただし武器を下ろし、人数を提出し、病院の管理を受ける。
場面が壮観でも、規則は消えない。
最初に帰途へ乗ったのは、さっき食堂にいた老兵だった。
小さな扉の後ろから出て、剣を地面に置く。
「南部の楡石鎮に路はあるか」
万の方角の中から探す。
ない。
顔の希望が暗くなる。
「ただし銅湾は他所の兵士を三晩受ける」と僕は言った。「そこから普通の河路で南部へ戻れる。途中はまだ交戦中だ。安全は保証しない」
「それでいい」
彼は金線へ乗った。
光が吸い取ることはない。
もともと許可壁に封じられていた整備道を歩き、黒日中枢を出ただけだ。
二人目の兵士が続く。
三人目は路口で長く迷い、最後は軍営へ戻った。
万家の帰途は、彼を罰しなかった。
中央統帥が営門を閉じよと命じる。
アランが黒日塔の許可管を飛び、門の強制軍令印だけを斬る。門は斬らない。守衛も斬らない。兵士は出てもいいし、残ってもいい。
帰ることを選ぶ者が、どんどん増えた。
全員が武器を置いたわけではない。
帝国近衛は核心へ進み続ける。オードランが立ち上がり、術式を失った黒剣を拾った。
「軍隊は旅客ではない」と彼は言った。
「だから直接は泊まれない。登記が要る」
「ベッド一枚で、戦争の原因が消えると思っているのか」
「消えない。今夜、帰るために殺し続けなくていい、それだけだ」
彼が外を見る。
帝国の軍旗はある。隊列に大きな空きが出ている。負傷者を支える者、武器を臨時回収所へ渡す者、ただ立ったまま前へ進まない者。
連合軍は、その隙に突撃しなかった。
セインが全線へ命じる。全部隊は現地で守り、武器を置いた者を追うな。
七盟軍は、それぞれ自分の仕事を終えた。
人狼は帰郷の列を夜路へ送り、樹霊は砲火で焼けた斜面を安定させ、ドワーフは魔導軌を急ぎ直し、河妖は負傷者を水路沿いに病院へ運び、牛角隊は障害を外し、羽民は伝書し、竜谷は糧食を運ぶ。
冒険者総公会の仕事は、皇帝を斬ることではない。
失効した許可区を測量し、崩落を片付け、金色の道路のない村民を護送する。学校が育てた若い術師が各分火を守り、申請上限どおりに開閉する。共同便所と浄水点が難民路沿いに展開し、ジェリーは桶から桶へ運ばれ、忙しくて色まで薄くなった。
前五巻で建てたものは、まとまってより大きな砲にはならなかった。
三十万人が飯を食い、傷を治し、乗り継ぎ、登記し、戻る場所になった。
中央統帥が最後にもう一度、全軍を晴風へ進めと命じる。
魔導車の運転手が起動を拒んだ。
僕が軌道を支配したからではない。
故郷の分火が今、点いた。駅の放送が、復路の車は三十分しか待たない、と伝えたからだ。
帝国軍用の魔導車が一列、車頭を転じた。
次いで二列目。
統一軌距がこの瞬間、初めて兵士を戦場から送り出すために使われた。
オードランが剣を握る手が、ゆっくり下がる。
「奴らは俺に逆らった」
「戻ることを選んだ」
「帝国は分裂する」
「かもしれない」
「国境でも争う」
「争う」
「通貨は下がり、領主は復し、道路はまた封じられる」
「なら一件ずつ直す」
彼は僕を見る。理解できない愚かさを見る目だった。
「お前は新しい中心になれた」
「ゲストハウス一軒さえ、潰したことがある」
アランが補う。「確かな事実だ」
最後の黒日塔が消える。
核心が力の供給を失い、重い黒い円盤が降り始める。ベリーと竜運隊が外殻を引き、フィアが高空の風路で減速し、矮人の工事隊が魔導車の軌道で台座を引く。
六時間かけて、大陸を支配できるこの武器を荒野へ平らに置いた。
ガルドが着いて最初に言ったのは、これだった。
「解体できる。金は」
誰も答えなかった。
太陽が再び西へ落ちる。
帝国軍営の炊煙が一箇所ずつ消え、帰途沿いの村と宿でまた上がる。
戦争は、一剣では終わらなかった。
多くの人が、帰る路にもう戦い続ける交換はいらない、と気づいたところで終わった。




