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銅貨一枚で廃駅舎を買っただけなのに、魔物の荒野で国ができてしまった  作者: Karr


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8/83

宿屋、はじめての満室

長期商隊が最初に起こした問題は、部屋不足ではなかった。


朝食不足だ。


車十二台、御者と護衛が三十七名。旧風笛で扉を閉じられる客室は四室、ベッドは二十二。


「ベッド二十二、三十七人」とルミラ。


「車隊は自分で天幕を持っている」


「払っているのは宿泊代だ」


「だから老人と夜間当番は客室、ほかは広間。一人につき銅貨一枚引き、湯を付ける」


モリスはその案を受けた。


護衛は広間の一角を指す。


「あそこになぜ竜がいる」


ベリーは枕を二つ抱え、いちばん暖かい場所を占領していた。


「長期の住客だ」


「隣のスライムは」


「清掃責任者だ」


「壁の剣は、なぜ記念撮影に料金札が掛かっている」


アランがすぐ声を出す。「伝説には、相応の維持費が要るからだ」


護衛は銅貨一枚を足し、記念撮影をした。


アランはその夜、分配を要求した。


商隊が泊まった瞬間、厨房、湯、荷物預かりが同時に問題になる。


鍋は二口しかない。


ガルドは湯管をすぐ銅にすべきだと言い、ルミラは先に二口目の鍋を買う方が実際的だと言った。フィアは暖風ですべての部屋へ熱を送りたかったが、僕と屋根が一致して否決した。


最後に、厨房へ古い鉄鍋を一口足し、洗面の湯は部屋番号で時間を分け、荷物札は歌うレンガの端材で作る。軽く叩くと対応する音符が出る。箱を取り違えれば、棚が一列で知らせる。


初夜、靴が一足消えた。


翌日、ジェリーの体内で見つかった。


宿屋の利益は、注文の見た目ほど多くない。


シーツは洗い、薪は買い、割れた盃は補う。三十七人の朝食が二日分の備蓄を食べ、商隊が持ってきた糧食は市場価格で厨房へ売られた。


ルミラが帳面を出し終える。


「純益は銀貨一枚と銅貨四枚」


「鍋は買えるか」


「半口」


「まず貯める」


商隊が三日目に去るとき、院壁の傍らに「北行補給」と書いた旗を掛けた。以後、沿道の者は知ることになる。ここには熱い飯とベッドがあり、異族を門外に拒まない広間がある。


有料の客が、少しずつ増えた。


旅の詩人が銅貨二枚で部屋代の一部を相殺し、歌う壁に十八段の詩を書いた。魔法鍋を売る魔女は三日泊まり、去るとき鍋が一口減り、ジェリーが一回り太った。


いちばん面倒だったのはゴブリン劇団だ。


二十七人、彩車を押し、人形と太鼓と、訓練した長尾鶏を三羽、宿屋の大門より広い赤い帽子を一つ持っている。


ギグがカウンターの前に立った。


「そちらには、自分で伴奏する壁があるときいた」


「ある」


「庭を一晩借りて演じたい」


「観客は何人だ」


「せいぜい五十」


その夜、二百三十七人来た。


荒野は長いあいだ、賑やかなことがなかった。青麦鎮の住民が牛車で来、鉱区のドワーフが酒樽を持って来、近くの商隊は車を円に停めた。


宿屋の庭では座りきれない。


ガルドが仮の観客席を組み、ルミラは月豆の汁を小さい椀で売り始めた。フィアは風を送り、後列にも聞こえるようにする。最初の一陣でギグの赤い帽子を屋根へ飛ばし、二陣目でやっと方向が定まった。


歌うレンガの壁は、本当の楽器になった。


ゴブリンが違う位置を叩き、笛と太鼓の点が院壁を伝う。人形の騎士と紙の竜が舞台で決闘し、ベリーは紙の竜が挑発したと勘違いして半口の火を吐いた。


紙の竜が燃える。


観客は山場だと思い、拍手がいちばん大きかった。


ギグはその場で台詞を変え、人形の騎士にベリーパイの皿を運ばせて和睦させる。


ベリーは受け入れた。


公演が終わると月豆酒は売り切れ、焼き菓子も売り切れ、焦げた芋まで買う者がいた。客室、長棚、広間はすべて満員で、庭には天幕が十五張られた。


旧風笛は初めて「満室」の木札を掛けた。


夜間の巡房で、三周歩いた。


一号は隣の歌うレンガがうるさいと言う。


三号は枕が一つ消え、最後にベリーの寝床で見つかった。


広間では誰かいびきをかいていて、第一窯のレンガよりガルドに似ている。ガルド本人は、自分ではないと言い張った。


午前一時、ギグはまだカウンターで金を数えている。


「陸店主、土地を長期で借りられないか」


「旅をやめるのか」


「旅は続ける。だが劇団にも、戻って道具を直し、新しい芝居を組む場所が要る」


今夜の会場費を押し出し、自分で書いた賃貸契約を出す。


西側の空き地を三年。


劇団が舞台と稽古小屋を自前で建てる。公演日は宿屋へ切符代の一割。不在のあいだ、敷地は市に使える。


「なぜここを選んだ」


ギグが歌うレンガを叩く。


「ここの壁は、多くの観客より呼吸がわかる」


「ほかには」


彼は広間を見る。


違う種族の客が縦横に眠り、ジェリーが通路で果皮をゆっくり掃いている。


「人間の町へ行けば、城壁の外へ回される。ドワーフの鉱区では舞台が低すぎる。ここは店主が先に、何泊かと聞くだけだ」


「金も聞く」


「当然だ。無料の場所の方が怪しい」


契約にサインする。


ゴブリンたちは六日かけて常設の舞台を組んだ。


残って稽古する者、団と巡演を続ける者、木工を担当する者、帳面だけを見る者。帳面係はマロといった。小さな丸帽をかぶり、セインが見たら表を交換したくなるほど真面目だ。


舞台、工匠房、宿屋の長期中継が安定して回り始めると、正式な住民は二十九から五十六へ増えた。


人を養い続けられる産業も、三つ輪郭を見せる。


風鳴レンガの製造。


月豆の栽培と醸造。


宿屋、公演、商隊の中継。


庭では初めて、住民全員で食事ができなくなった。


長机を門外へ運び出す。風が新しい壁を抜け、ゴブリンが組んだばかりの開幕曲を奏でる。


「この場所には名前が要る」とギグ。


「旧風笛集落?」フィアが提案する。


全員が同時に首を振った。


緩斜面に挿した風向旗を見る。


「晴風だ」


「私のせい?」とフィア。


「今日、ものを飛ばさなかったからだ」


ガルドが新しい道標に刻む。


|晴風集落。|


名前が掛かったところで、南から騎士が八名来た。


宿泊はしなかった。


先頭が、黒茨の印を押した公文を広げる。


「当地の常住人口は五十を超えた。違法な集住にあたる」


広間へ通し、座らせる。


「まず水を飲め」


「不要だ。三日以内に解散するか、土地使用料、異族管理料、商業付加税を納めよ」


「いくらか」


金貨二百枚だと告げる。


帳簿を見る。


今夜は開業以来、いちばん稼いだ夜だ。


純収入は金貨二枚に届かない。


「分割できるか」


騎士は、違法公文にまずそれを聞く相手を見たことがないらしい。


「できない」


公文を新しい道標に釘で打ち、「晴風」の二字をちょうど覆った。


「三日後、黒茨領は法に従い撤去する」


騎士が去ったあと、アランが壁で低く笑う。


「偉大な違法領主、気分はどうだ」


「騒ぐな」


公文を外すと、いちばん下にさらに小さな字があった。


期限を過ぎて納めなければ、黒茨領が集落とすべての公共資産を代管する。


つい先ほど、再び灯った帰巣炉も含めて。


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