はじめての給料
第二窯の点火前、ルミラは誰にも窯へ近づかせなかった。
「先に木枠を通せ」
寸法の合わない素地を、全部選り出す。
ガルドは傍らに積まれた七十三塊を見て、髭を震わせる。
「指半本足りなくても焼ける」
「焼ける。それから半窯がいっせいに、あなたのいびきを覚える」
「前回は風の問題だ」
フィアは十二条の風道に、色の違う布切れを結んでいる。
「もう一度言ったら、髭を風向旗に編むわよ」
最初の大口が失敗してから、晶粉を粘土へ注げば稼げると思う者はいなくなった。
素地の厚さはルミラが統一する。
晶粉の割合はガルドが量る。
フィアは瞬間の勘を使わず、一日三回の観測に合わせて風門を調整する。ベリーの焼き芋も同じ大きさに切り、大きな芋のために火を一口多く吐かないようにした。
僕は工程を記し、在庫を見、唯一の内金を守る。
「石炭はこの窯分しかない」とルミラ。
「わかっている」
「糧食は六日」
「わかっている」
「十日後に五百塊だ」
「それはもう言わなくていい」
「緊張するたびに、部屋番号札を並べ直すでしょう」
カウンターを見る。
一から十二まで、すでに三度、順番どおり並べていた。
「日常の整理だ」
ルミラは、それを暴かなかった。
窯火が夜半まで燃えたところで、南側の温度が突然下がる。
ベリーが窯口へ火を吐くが、炎は風道に北へ引かれる。フィアがすぐ魔力を増やし、ガルドは足すなと叫んだ。足せば晶紋が乱れる。
「三号と四号の風門を閉めろ」と僕は言った。
「中段に熱が溜まる」とガルド。
「なら排煙口を開けろ」
「煙が宿屋へ入る」
ルミラはすでに広間の客を起こし、寝具を新屋へ運ばせていた。
「今夜は有料の客はいない。まずレンガを守れ」
排煙口が開く。
濃煙が広間へ流れ込む。ジェリーは大きな網になり、扉枠と梁柱のあいだに張りつき、埃を層ごとに体へ吞んだ。
浅灰から深灰になり、最後に煤煙の泡を一つ出した。
「ぽ」
「夜勤を記せ」と僕は言った。
フィアは二条の風路を閉じ、さらに細い横風で炎を支える。
今度、方向は偏らなかった。
夜が明けて、全員が庭で開窯を待つ。
一塊目の音は澄んでいた。
二塊目は短笛のようだ。
五十塊目も割れない。
二百塊目も、いびきを伝えない。
最後の検品で、合格の歌うレンガが四百五十二塊、普通の建材が三十九塊、廃品が九塊。
あと四十八塊足りない。
「間に合わん」とガルド。「次の窯は最短三日だ」
注文の商人は午後に着いた。
空車二台と、延期なら減額すると書いた契約を持っている。
四百五十二塊を並べ、普通のレンガで数をごまかさなかった。
「四十八塊足りない。内金は返せる。あるいは三日延ばし、足りない分は八割にする」
商人はレンガを見ず、先に院壁を見た。
壁には試験で残した九塊、配合の違うレンガが嵌っている。風が通り、九種の音色が順に鳴った。
「これもお前たちが作ったのか」
「第一陣の試験品だ」
「壁一面を曲どおりに並べられるか」
ガルドが先に答える。「できる。値段は別だ」
商人は壁を一周する。
「モリスだ。もともと酒場の正面に敷くレンガが欲しかった。今は長期の注文を結びたい。毎月千塊、うち二百塊は楽譜どおりに音を決める」
ルミラが聞く。「延期は」
「四十八塊は三日後に補え。値引きはするな。来月も出せると、先に保証してほしい」
珍しい品を見たからといって、金貨の袋を卓へ投げつける男ではなかった。
長期契約の初月の代金は銀貨十二枚。石炭、粘土の運送、晶料の分配、食事を引けば、四枚余り残る。
多くはない。
だが工房を回し続けるには足りる。
ガルドはその日のうちに窯の側壁を外し、十二条の風道を調整できる石槽へ改めた。ルミラは木枠を五組作り、歌うレンガ、壁用、薄いレンガに分ける。フィアは窯頂に風旗を掛け、初めて観測記録を本当の生産基準にした。
さらに細い晶紋も試した。
叩くと、いま聞いた短い文を繰り返す。
一塊目が記録したのはアランの声だった。
「吾はグランセル——」
一分後、自動で止まる。
「欠けている!」アランが怒った。「全名すら録りきれん!」
「それが利点だ」
この反響レンガのコストは歌うレンガの十倍だ。晶粉は欠けていてはならず、刻紋も手間がかかる。モリスは五塊だけ注文し、遠途の注文の記録に使うという。
製品簿に明記する。最長一分保存。期限を超えた内容は保証しない。
第三窯は期日どおり数を補った。
貨車が去るとき、宿屋の門前の荒野の道に、初めて二筋のはっきりした轍が残った。
その後の数日、青麦鎮から歌うレンガを見に来る者が続いた。
ドアベルにする者、庭へ敷く者、そして厳粛な巡察官が反響レンガを六塊注文し、口供を保存すると言った。
彼はセインといった。銀髪、二十二歳。製品を検査するとき、一塊ごとの縁をきちんと揃える。
「記録は改変されるか」
ガルドが言う。「壊せば声は出ない」
「内容を聞いている」
「改変されない。晶紋は最初に封じた声だけを認める」
セインは番号を一つずつ登記し、包装の紐結びまで表に描き入れた。
こういう客は好きだ。
値切りをせず、自分で表を持ってくる。
工事が終わったとき、ドワーフ十二名は仮の宿泊を清算した。
三人は鉱洞へ戻り晶層を守る。九人は荷物を新しい工匠房へ運び込んだ。
「鉱洞は今、静かすぎる」とガルド。「ここは毎日誰かが争っている。仕事向きだ」
帰巣炉の住民数は、三十二から二十九へ一度下がり、それから安定して止まった。
ベリーもいる。
鈴の音で窯火を制御することを覚えた。厨房の鈴を聞いても一緒に吐いてしまうが。
帳簿に、やっと余りが出た。
皆を広間へ呼ぶ。
卓上に小さな布袋が二十九。
フィアが自分の袋を手に取り、振ってみる。
「何これ」
「給料だ」
「屋根の借金、まだあるんじゃないの」
「修繕の分割を引いて、銅貨三枚残った」
「三枚だけ?」
「半辺の屋根を飛ばした」
掌に銅貨を空けても、彼女は笑った。
ルミラはすぐ受け取らない。
「灰耳族は労働で宿泊を相殺すると約束していた」
「宿泊は相殺した。これは素地作りと記帳の工賃だ。公共の糧食は公共の糧食、個人の労働は混ぜるな」
ガルドが自分の取り分を数える。
「銅貨が半枚足りない」
「道具の摩耗は工房が半分持った」
「じゃあ酒代は——」
「食事代からすでに引いてある」
もう一度数え、満足して袋口を縛った。
ロランシアで、他人に給料を出したのはこれが初めてだ。
額は小さく、いい外套一枚も買えない。
だが布袋の一つひとつに氏名、工時、控除がある。最初に収容されたからといって、永遠に無料で働けという話ではない。
夜、フィアは銅貨三枚で酸っぱい実の大袋を買った。
一つ分けてくれる。
一口嚙むと、酸っぱくて歯が痛む。
「あなたは緊張すると部屋番号札を並べる」彼女は言った。「私は嬉しいとこれを食べる」
「わかった」
「これでやっと安心して風路を直せる」
門外から車鈴が聞こえる。
モリスがまた戻ってきた。後ろは貨車二台だけではなかった。
糧食、布、道具を満載した馬車が十二台、旧風笛の前に停まる。御者たちは歌う院壁を見て、しきりに話し合っている。
商会の印を押した契約を、カウンターへ置いた。
「青麦鎮の北行商隊だ。ここを長途の中継にしたい」
「何人泊まる」
「毎月最低四十人回。レンガの長期注文は別だ」
新たに綴じた入居簿を開く。
最初の長期商隊の注文は、はじめての給料を出し終えた同じ日に落ちた。
旧風笛は、もう仮の雨宿り小屋のようではなかった。
本当に、一軒の宿屋になり始めていた。




