死守を目標にしない
フィアが描いた国境越えの風路は、第一版で負傷者の一車を酸性雨の雲へ送った。
重傷者は出なかった。
雲毛の毛布が防水だったことと、ベリーが吊車ごと引き出したことが大きい。
着地したとき、車輪はまだ酸の泡を吹いていた。
フィアが運転架から跳び下り、三つ穴の開いた帽子を脱ぐ。
「路線は間違っていない」と彼女は言った。
僕は彼女を見る。
「雲が臨時に南へ半里動いた」
「車を弁償しろ」
「戦争中は修繕費を止めているんじゃなかった」
「止めているのは屋根だけだ」
びしょ濡れの観測紙を駅の長机に広げる。
風路は、もう晴風から前線へ通ずる一本の太い線ではない。
切り刻んで組み直した網のようだ。三十里ごとに退出できる降下点があり、各区間は現地の羽民、術師、あるいは普通の山風が独立して維持する。黒日は魔法の航標を抜ける。谷が風を起こすのを命じることはできない。
「第二版は酸性雨雲を迂回する」フィアは言った。「ただし赤盾公国の領空を通る」
セインが眉を寄せる。
「相手が開放国境協定に署名したのは三年前だ。軍事輸送は含まれていない」
「運ぶのは負傷者だ」
「護衛の竜も軍事単位になる」
ベリーが頭を上げた。
「鎧を着なければいい」
「お前自身が軍事単位だ」
赤盾公国の返答は、三十分後に届いた。
負傷者、医師、糧食の通過は許可。武装部隊は不可。各回、人数と目的地を提出すること。風路が十里以上逸れたら即時閉鎖。
ヴィクトル将軍は挨拶を添えていなかった。
彼は、まだ僕たちを好きではない。
自発的な道路は、互いに好きであることを要求しない。
二回目の竜運が飛び立つとき、フィアはいちばん高い航標塔に立っていた。
自分ですべての風を押してはいない。
東区間は赤盾の気象官、谷区間は樹霊二人が雲根を観察し、北区間は羽民の航法隊へ渡す。彼女は境目で方向を合わせ、違う術式の風がうまく繋がるようにした。
「以前は全行程を自分でやると言った」僕は反響煉瓦で言う。
「以前、あなたも宿泊客を全部自分で登記すると言った」
「だから二人とも老いた」
「あなたは二十五歳から変わっていない」
「精神年齢だ」
「それは確かに古い」
百三輛目の吊車が、無事に国境を越えた。
午後、黒日塔が中央防衛線まで進んだ。
セインは城壁に整った盾陣を並べなかった。
連合軍を、独立して退ける小隊へ分けた。ドワーフは許可印に占領された軌材を壊し、河妖は沿線の貯水池を先に放水し、ゴブリンの信号隊は十分ごとに信号位置を替え、牛角隊は最後の民間人が橋を渡るまで守る。
「防衛線は見栄えが悪い」と彼は言った。
「宿泊客の避難路も見栄えは悪い」
「軍学校の教科書に、戦いながら共同厨房を運ぶ項目はない」
「次版で入れろ」
帝国中央軍が初めて旧王道を突破したとき、得たのは空の駅一つだった。
ホームに反響煉瓦が十六枚残されていた。
彼らは晴風の降伏公告を流そうとした。煉瓦から出てきたのは、ゴブリン劇団が録っておいた宿の広告だった。
「旧風笛、湯は安定、ベッドは清潔、帝国の間諜も七日泊まれば登記を覚えます——」
帝国兵が三枚目を砕き、ようやく中身が全部同じだと気づいた。
戦争にはあまり必要のない勝利だ。
だが劇団は、士気を削げると主張した。
本当の厄介は南線にあった。
川が黒日塔の許可印で帝国輸送路に固定された。水は止まらない。東へしか流れない。銅湾外の退避船団が追手の方向へ押し戻され、六千人の難民が河原に詰まった。
着いたとき、シズは河妖を率いて許可術式に逆らい、水を上げていた。
一尺上げるたび、黒日が二尺押し戻す。
「斬れないのか」と彼は聞いた。
アランが手の中で鳴る。
「許可印は斬れる」と僕は言った。「だがこの川は三十七基の塔で一本の帝国道路になっている。一箇所斬っても、数分しかもたない」
「数分あれば三十隻だ」
「ここには百九十隻ある」
「なら六回に分ける」
アランは答えを待たなかった。
自分で剣紋を点ける。
「言ったはずだ。今の吾はお前より強い。お前は握っていろ」
第一撃が落ちる。
水しぶきが天を衝くことはなかった。
川面に黒い鎖のような許可紋が浮かび、アランがその一節を斬った。金光が水面を伝い、本当に西へ向かう水路が再び現れた。
「出せ!」
三十七隻が河道の曲がりを衝き出す。
許可紋はすぐ閉じた。
二度目、虎口から血が出始めた。
アランが耐えられないのではない。
僕がついていけない。
再鍛した剣は十二城が共に認めた道路を見られ、力が柄から肩と腕を逆に引っ張る。四撃目で、右手はほとんど上がらなかった。
「替えろ」とアランが言った。
「誰だ」
「セイン。あるいは力のあるあの牛角の娘」
「以前は僕だけを認めていた」
「以前の吾は便所の扉軸も仕込んでいなかった。剣も成長する」
ガンドがアランを受け取った。
彼には僕の開路感知はない。アランが示す角度で斬る力はある。五本目の許可鎖が切れ、最後の六十隻が揃って川を渡った。
天野陸は、もうアラン唯一の剣士ではなかった。
虎口より、少し痛かった。
同時に、少し楽にもなった。
夕方、中央、北、南の三戦線はすべて後退した。
旧王道二百里、駅四つ、倉庫九箇所を失い、民間人四万三千、負傷者二千七百、そしてまだ動ける七盟軍を取り戻した。
セインが結果を防衛庁の掲示壁へ貼る。
誰かが「失地」の欄の横に二字書いた。
惨敗。
セインは消さなかった。
下に補った。
|空城を守って死んだ者はいない。|
その夜、黒日が吸い取る方向を変えた。
もう道路沿いの旅灯を一つずつ消さない。
すべての黒日塔が、十二の帰巣炉へ同時に向いた。
旧風笛の広間で、主炉の焰が初めて炉底から引き抜かれ、空中へ上がった。




