アラン、砕ける
帝国主砲が旧風笛亭を狙ったとき、宿屋の中に六百四十二人がいた。
負傷者百九、子供と老人二百七十。残りは医師、料理人、登録係、転送工だ。
避難には二十分要る。
晨鐘の装填は八分で足りる。
「炉門を開け」と僕は言った。
当直員が首を振った。
「戻ったのは七座だけです。月泉城も断橋鎮も自分の負傷者を受けている。一回で通れるのは百二十人が上限です」
「先に歩けない者を送れ」
旧風笛亭に混乱はない。
過去三日、誰もが自分の避難色を知っている。赤札の負傷者は一号炉門、子供連れの家庭は二号、歩ける人間は裏庭の旧路から退く。間者が点呼を担当し、ヴィザーが河民の負傷者を一人背負う。身分を議論する暇は誰にもない。
フィアが屋根に立っていた。
「主砲の冷却風が集まり始めている。六分」
セインが僕にも一緒に退けと言う。
「お前は砲撃人員じゃない」
「都市領域の錨点は炉庁にある」
「錨点は失える。人は失えない」
「炉庁が撃ち抜かれれば、七座の炉門が同時に切れる。まだ門を通っていない人間はどうする」
彼は二息、僕を見つめて、もう争わなかった。
「連合軍が砲位を突撃する」
「破壊は間に合わない」
「なら、気を散らさざるを得なくする」
この突撃を指揮するのは僕ではない。
セインが魔導車で来た連合軍を率い、三面から許可道路を攻める。断橋鎮水隊が水を放って砲台の退路を切り、羽民が急降下して隔魔粉を投下し、石梯堡爆破手が狙うのは砲身ではない。晨鐘を支える四本の路権柱だ。
主砲は落とせないかもしれない。
だが帝国に一隊でも多く割かせれば、旧風笛亭に一息増える。
僕は炉庁へ戻り、アランを十二炉道路の中心へ挿した。
「何をするつもりだ」とアランが聞いた。
「砲撃を空路へ導く」
「本物の道路には終点が要る。砲撃は旅客じゃない。自ら進路は変えない」
「そいつの魔力は許可印に沿って炉門を探す。七座の炉門を一時的に領域へ繋ぎ、中心が荒原の旧駅にあると思わせる」
「七条の道路を維持することになる」
「そうだ」
アランはしばらく黙った。
「天野陸、お前はまだ高級剣油を一瓶、借りている」
「二瓶だ」
「成立だ」
僕は柄を握った。
七座の炉火が視界から上がる。月泉城ガラス職人の構造感覚が炉環の承圧点を見せ、フィアの風感覚が屋根から主砲の魔流を送り、牛角工の力が剣先を安定させる。三つの技能はもう臨時に奪った手ではない。長いあいだ使った道具のように、同じ方向で層ごとに噛み合う。
金色の道路が北西の廃駅へ敷かれた。
晨鐘が発砲する。
世界が先に、とても明るくなった。
黒い光柱が城壁を越え、通った空気がガラスのように裂ける。連合軍は路権柱を二本押し倒し、砲線は半度ずれた。なお宿屋を真っ直ぐ指している。
フィアが屋根から風をすべて下ろした。
砲撃を吹き飛ばせない。光柱を包む冷却気流を剥くことしかできない。晨鐘の黒光が高温で膨らみ、縁に初めて導ける魔力流が現れた。
「いまよ!」と彼女が叫んだ。
僕はアランを振り下ろした。
金色の道路が黒光を受ける。
止めたのではない。
もう一つの、本当に存在する終点を見せたのだ。
旧風笛亭の壁、ベッドの一枚一枚、門を通っている人間の一人ひとりが、家園感知の中で震える。砲圧が剣身に沿って押し寄せ、アランの古いひびが一条また一条、灯る。叫んでいるのは聞こえる。命令なのか痛みなのか、区別がつかない。
第一条の炉路が切れた。
第二条が暗くなる。
黒光は引きずらされ、宿屋の北塔を擦った。三階の客室が一瞬で消え、煉瓦が広間へ落ちる。
ジェリーが巨大な青膜に広がり、砕石を包んだ。
全部は受け止められなかった。
転送工二人が階段の下に埋まり、厨房から火が出る。ボニーが料理人を率い、スープ鍋と水桶で消し、ヴィザーが最後の負傷者を炉門へ押し、また戻って石を運んだ。
僕はなおアランを握っている。
光柱の本体が金路に沿い、荒原へ曲がった。
第三条、第四条の炉路が崩れた。
剣脊から銀白い破片が一枚落ちる。
「もういい!」と僕は剣を収めようとした。
アランが鍔をロックした。
「道路はまだ——終点に着いていない」
痛さで正式な口調すら切れている。
「離せ」
「持剣人は剣に閉門を命じるな」
荒原旧駅の旅灯が灯った。
黒光はようやく無人の廃墟へ着いた。遠くで黒い半球が一つ上がり、土浪が丘三座を越え、旧駅と周囲二里が同時に削り取られた。
晨鐘が消える。
アランも僕の手の中で裂けた。
先に剣先が落ちる。
続いて剣身が、三巻以来いちばん古いひびに沿い、二つに分かれた。金光が断口から噴き、すぐ暗くなる。鍔はなお掌に残り、普通の金属のように重い。
「アラン」
返事はない。
僕は炉辺に跪き、外でまだ戦闘があるのを聞き、負傷者が叫ぶのを聞き、ルミラが人を呼んで僕を運ばせるのを聞いた。
セインの突撃隊は主砲の過熱に乗じて砲位へ入った。ベリーが龍運隊を率い、弾薬吊索を切り、総ギルド解除員が最後の路権柱二本を外した。帝国指揮官は後退を命じた。一太刀で消されたのではない。主砲が失効し、道路優位が切れ、十二都市がなお互いを補給していたからだ。
黄昏、先遣軍は境界の外へ退いた。
追撃する者はいない。
連合軍は行方不明者を探し、火を消し、負傷者を運ばねばならない。断橋鎮の洪水はまだ完全には引いていない。羽民高地の住居塔はなお煙を上げている。
旧風笛亭の北塔がなくなった。
確認死者は八十三人まで増えた。階段の下に埋まった転送工二人のうち、救えたのは一人だけだ。ジェリーは火傷し、拳大に縮んで井戸水に浸かり、出てこない。
僕は広間に残った半卓のそばに座った。
前に、きれいなシーツが敷いてある。
シーツの上はアランの剣身三段、鍔、取り戻した破片七枚。
ガルドが帽子を脱ぎ、一枚ずつ調べた。
「直せるか」
「今日は無理だ」
「以後は」
「十二都市各自の工芸なら、あるいは」
鍔の中から、ごく小さい一声が突然届いた。
「……剣油」
僕は頭を下げた。
「二瓶だ」
「高級の」
「高級のだ」
声は再び沈んだ。
窓の外で、十二都市の反響レンガが戦後の数字を報告し始める。
歓声はない。
行方不明、損壊、余糧、あと何台のベッドが要るか、それだけだ。




